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2003年03月16日(日) 続・ホワイトデー。(SS付き)

その日、銀次とは殊の外早々と別れることになった。そうでもしなければ本当にこのまま銀次にメスを向けていたような気がする。
そうでなければ、手当たり次第に人を切り刻んだろう。
そうしなかったのは、きっと目の前の銀次があんまりにも幸せそうに料理をほおばるからだろう。自分にだけ、笑ってくれているから。
まっすぐ、都内にある自宅に帰る。
玄関の戸を閉めると履きなれた靴を脱ぎ、そのまま歩きながらコートの袖から腕を抜き、近くのソファにかけると、かぶっていた帽子をラックにかける。
そして、シャツの第二ボタンまでをおもむろにはずすとそのまま身体をソファに埋めた。
溜め息がこぼれる。こんなにも「疲れた」と感じるのは初めてだった。
何が疲れたのか。何がこんなにも気に食わないのか。
そもそも、そんなことを気にするような人間ではなかったはずなのに。
赤屍の不快指数は一気に増倍する。
背もたれに寄りかかり、天井を仰ぎ、落ちてくる、うるさいくらいに伸ばした前髪をかき上げる。
部屋は静かだった。他に誰も居ないのだから、当然なのに、なぜか不自然に感じてしまう。
じっとしても居られず、赤屍は立ち上がると棚に入れてあった飲みかけのウィスキーのビンを一本取り出した。それとグラスを持つと、またソファへと戻る。
氷を数個入れてあるグラスに、琥珀色の液体を注ぎ、水で割ることなくそのままあおった。のどが焼け付くように熱くなる。が、決して酔うことはない。それから何度も喉を通したが、結局、気がまぎれることはなかった。

――――――この焦燥感は一体・・・?

*  *  *

次の日。
HONKY TONKのカウンターで銀次は夏実と話していた。
客はろくに居ない。いつもの光景だけに、今更誰も突っ込むこともなく、二人はほのぼのとお喋りを続けた。
お題は、昨日の赤屍さんについて。
「ダメですよ。好きな人の前で他の人の話をしちゃ。」
銀次の話を聞いて、真っ先にしたアドバイスはそれだった。
銀次の頭の上にいくつものクエスチョンマークが浮かぶ。
「ちょっと待ってよ。好きな人って・・・誰のこと・・・?」
そんな今更なことを口走る。
きょとんとした顔をした夏実は素直に問う。
「だって、銀ちゃんは赤屍さんが好きなんでしょ?」
「え!?別に、俺は・・・。」
銀次は耳まで赤くなった。それが不思議なのか、夏実は首をかしげた。
「だって、バレンタインにチョコをあげたんでしょ?」
「うん。」
「蛮さんたちには?」
「お金なかったし。」
「でも、赤屍さんにはあげたんでしょ?」
「う、うん・・・。」
「何で?」
「だって、いつもおいしいもの食べに連れていってくれるから・・・・・・。」
次第に銀次はどんどんテーブルに寝そべっていき、終いには顎だけがそこに乗っているような体勢になった。
夏実は呆れて溜め息をつく。
そこまで言っておいて、なぜそう結論づくのかが分からない。
要は銀次がそういうことに疎いだけなのだが。
だから、可愛い女の子が現れても銀次は善い人止まりなのかもしれないが。もちろん、夏実含めてだが。
「ねぇ、夏実ちゃん。好き、ってどんなこと何だろう?」
銀次はポツリともらした。
蛮のことは、もちろん好きだ。元VOLTSのメンバーも、士度も花月もMAKUBEXも、波児も夏実も、卑弥呼も。
じゃあ、赤屍は?
どこか違う?本当に?
それが理解できなかった。
銀次はたれながら唸った。足りない脳みそでは到底出ることのない答え。
その時、店の中に冷たい空気が流れ込んできた。
聞こえてきた鈴の音に夏実は営業用に顔を変える。
「いらっしゃいませ・・・って。」
言葉半分に夏実はその客を見送った。
言葉一つ発することなく客はつかつかと入ってくる。黒いコートがふわりとなびいた。
そして、銀次の頭にポンと手を乗せる。
リアルヴァージョンに戻った銀次は机に顎を乗せたままの格好で隣に立った人間を見上げた。
「あ・・・かばねさん・・・。」
昨日見たばかりのその男が今また目の前に居て、銀次は驚かずにはいられなかった。ましてや、今この場で彼のことを話していたのだから、銀次の驚きはなおさらだった。
見上げた赤屍は、笑顔の中にどこか困惑したような表情を隠している。
頭をなでる手は何時になく優しかった。
「あの、・・・どうかしましたか?」
他に言いようがなくて、とりあえずそう聞く。
その台詞に、赤屍はくすっと苦笑した。
「私は嫌いですか?」
唐突なその質問に銀次は戸惑う。
「いえ・・・。」
だから、とりあえずそう答えた。決して間違いではない。
すると今度はまた問うた。
「じゃあ、好きですか?」
そう問われてまた困る。
「・・・多分。嫌いじゃないんで。」
またあいまいに答える。
はっきりしないそれに、赤屍はいらいらした。
見上げる銀次の瞳は今にも泣きそうなくらいだったが、あえて見ない振りをする。
「では、私と一緒はそんなにつまらないですか?」
「そんなことないです!!」
銀次はあわてて答えた。
それはない。それだけは分かっていた。
がっと身体を起こし、真摯な瞳でじっと、赤屍だけを見る。
夏実はその様子にそそくさとその場を離れていった。
そうして、その場には赤屍と銀次だけが残される。
銀次はすっと目をそらし、もぞもぞと口を開いた。
「俺、赤屍さんと一緒に居て、すごく楽しいし、赤屍さんは俺においしいもの腹いっぱい食べさせてくれるし、俺・・・赤屍さんのこと好きだけど、それがどういうことなのかいまいち分からないし・・・。」
なんと言っていいのか、本人ですら理解していないのだから、相手に通じるはずもない。それでも何とかその真意を突き止めようと赤屍は顔を覗き込むようにしてみる。
「銀次クン、もし、私が貴方を好きだといったら、貴方は迷惑ですか?」
「それは・・・全然。」
「では、愛しているといったら?」
その言葉に銀次は思わずその顔を上げた。困っているような、照れているような、複雑な表情で。
どっちが本当なのか、誰にも判別することは出来ない。
赤屍はその答えをただ待った。
パクパクと金魚のように口を動かす。何か言いたいのに、声にならない。
「どうしました?」
そう訊ねる赤屍の声に、銀次はどんどん赤くなっていく。その姿はまるで茹蛸のようで、終いには脳天から湯気が噴出しそうだった。
アイ、シテル?
聴きなれないその言葉に、なんと返していいのか分からない。
でも、嫌じゃないのは何故だ?
嬉しい・・・のは何故だ?
「銀次クン?」
あわてる銀次を見て、不思議そうに問う赤屍を銀次は見上げる。
やっと分かったみたいだった。
自分でそう思った。
大きな瞳を見開いて銀次は赤屍を見た。
その顔は真っ赤で、出ない声をどうやって出そうか一生懸命頑張る。
伝えたいことが、ある。
彼の言葉に応えたい言葉がある。
「お、俺も・・・!」
息が続かない。
「俺も・・・・・・。」
その次が。
「赤屍さんのこと大好きかもしれません!!」
言えた!
まるで勝利を確信したかのように銀次は心の中でガッツポーズした。
そして、反応を見るべく改めて赤屍を見る。
「美堂君よりも、ですか?」
こぼれた言葉は、もしかしたら無意識なのかもしれない。
「蛮ちゃんの好きと赤屍さんへの好きは違うんです。」
そう言い切って、銀次は落ち着いたように笑った。
「赤屍さんの好きは、特別なんです。」
そう言い切ったときだった。
銀次はつい、呆気にとられてしまった。
まるで時がその場だけ止まってしまったかのように、感じた。
赤屍が、笑っていた。
何時ものような冷たい、自分を隠すようなそれではなく、きっとこれが今の彼の本心。
あまりにそれが可愛らしく思えて、それ以上に彼の笑顔が美しくて、銀次は思考が吹っ飛ぶかと思った。
こんな笑い方が出来る人だったんだ・・・。
そんな感想が浮かぶ。
それを見ることが出来たことが、嬉しくて、誇らしくて。
「俺、幸せ者かもしれません。」
零れ落ちる本音。反射のように中枢神経から脳へと行かず、真っ直ぐに口へ指令が着たかのようだった。
「私も、同じ思いです。」
くすくすと笑う。
「美堂君の次以下かと思ってましたから。」
そう言われて、銀次は申し訳なさでいっぱいになる。夏実が言っていたことがようやく分かったような気がする。
「きっと、赤屍さんが一番です。」
「嬉しいことを言ってくださいますね。」
そう言うと、二人はまた笑った。
「もう一度、食事に行きませんか?」
仕切りなおしということで、と赤屍は言った。
「あ、俺、赤屍さんの作ったのも食べてみたいな。上手なんでしょ?」
椅子から飛び降りると、銀次はうきうきとしながら赤屍の腕にしがみついた。
「さぁ、どうでしょう?」
とは言っているが、実際赤屍は料理がうまい。
それを知っていて銀次は言っていた。
扉を押し開ける。
また、冷たい風が店内を吹きぬけた。
赤屍は軽くかがんで、銀次の耳元で囁いた。
「――――――――――――――――――。」
すぐ傍で聞こえる声に、銀次の耳が夕焼け色に染まる。
ぎゅっと赤屍の腕にしがみつき、真っ赤になるその顔を腕の中に隠した。
小さくなる銀次の頭を軽くなでると、また歩き出し、店を出て行った。

『貴方を手放す気はありませんよ。』

だから、銀次もその腕から離れないように、しっかりと・・・。
終わり


***

いいのか?自分。
ほんとにいいのか?
そんな疑問が浮かばないわけが無いはず無い中、終わりです。
赤屍さん・・・・・・(遠い目)。
多分ね。彼はウィスキーを直で飲んでもぜーーーーーったいよったりしないでしょうと私は思う。もち、日本酒も。
で、どうせなら、大ジョッキで生ビールとか飲んでる彼の姿が見たいのです。
当然、怖いもの見たさで。
彼が笑顔でジョッキ片手にそれを飲み干した日にゃ、世界は滅びるだろう・・・か?
ちょっと見たいのよ。マジで。興味ある人いませんかねぇ?
つか、今回書きたかったのはこれかよ?と思う。
いらいらしながらお酒飲む赤屍さんv
銀ちゃんじゃ絶対に出来ないシチュエーション。
蛮ちゃんは多分タバコを大量に吸うでしょうし。
他にいないのよ。
オスカーさんあたりなら・・・でもどうなんだろう・・・?
ランちゃんはまずしないね。
なんて思ったり。
ちなみに、これにつけたサブタイが「嫉妬」。
蛮ちゃんに嫉妬する赤屍さんがかきたい、から始まったはず。


で。
私はこれからおよそ10日ほど実家に消えます。
ので、更新ストップです。
後日まとめて書き上げます。
感想とか、感想とか・・・。
つか、書きたいからね。
今週のマガジンに赤屍さんが出ることを期待しつつ。
今日は終わっときましょう。


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