みゆきの日記
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2003年08月15日(金) 長い一日

火曜日の朝からあがり始めた菜子の熱がまださがらない。
水曜日に38度を超えたので病院に連れて行ったら、

「『突発性発疹』かもしれませんね。」

お医者さんにそう言われた。
ちなみに病院では、『RoseolaもしくはFalse measles』と言われたんだけど、
それがなんなのかわからなかった。
家に帰ってから調べて、それが突発性発疹にあたるらしいとわかったのだ。
やっぱり日本人のお医者さんがいないクリニックではこういうときに不安だわ。
でもそれなら心配はないようなのでとりあえず安心したけど、
今朝になってもまだ下がらないのよね。

昨日は本当に機嫌が悪かった。
こんなに小さいのに熱を出してしんどいんだろうな。
ぜんぜん眠らないし、寝てもすぐに起きるし、
ご飯もあまり食べない。
かわいそうに思ってずっと抱いていたから、私もくたくた。

こんなときに限って、トモユキの帰りが昨日は遅かった。
東京から出張で友だちが来ていて、食事に行ったんだけど、
酔っぱらっていい気持ちで帰ってきたみたい。

「どう?菜子ちゃん。」

何度も電話をかけてきて心配していたようだから、
トモユキが帰ってきて私はほっとした。
私ひとりだと思うと気を張っていたのに緊張の糸が切れたみたい。

「あぁー、疲れたよー。」

トモユキにパスしたような気持ちで、ソファにぐったりすわりこんだ。
それなのにトモユキは、菜子を抱いてくれるかと思ったら、

「みゆちゃん、お酒ちょうだい。」

と言う。

「ハイハイ。」

お酒をついでトモユキの前に置くと、菜子にミルクを飲ませて寝かしつけようとした。
いつもだったら夜のミルクはトモユキがあげてくれるのに、
昨日は横でゲームを始めた。
カチン。

こういうときにすぐに不満を口にすればいいんだろうけど、私はわりと気づいてほしい、と思って
言わないタイプ。
黙って菜子の部屋に行くと、菜子を抱いて歌を歌いながら揺する。

菜子はなかなか寝なかった。
眠たいのに眠れないらしく、悲鳴のような声を上げて私の腕の中でからだをよじり、
泣き続ける。
でもトモユキは来てくれない。

甘え・・・なんだろうなァ。
私はトモユキに向かってヤツアタリを始めてしまった。
アナタなんて帰ってきてもぜんぜん助けにならない、
お酒飲んでゲームしてるだけだもん・・・とかなんとか。

私たちは、腹を立てるとお互いをアナタと呼び合う。
その言葉の持つ冷たい響きに神経を刺激され、もっと強い言葉を投げつけてしまうのが常だったけれど、
トモユキは昨日私をアナタとは呼ばなかった。

「みゆちゃん、疲れてるんだね。」

そう言うと、私から菜子を受け取り、菜子の部屋に入っていった。
すごい泣き声が聞こえる。
私は意地になって、リビングのソファで目を閉じていた。
30分くらい、かかったと思う。

「寝たよ。」

小さな声でトモユキが私に言った。

「寝よ、みゆちゃん。」

菜子も重たくなってきたので30分も揺らし続けるのは結構大変なのだ。
ありがと・・・。
本当はそう思ったのに、でも今日一日中私はそれをやっていたんだわ、
それなのに・・・なんてまだこだわっていて、私は素直になれない。

ベッドの中で腕を伸ばしてきたトモユキを邪険に払いのけてしまった。

「もう、寝かせてよ。どうせすぐ起きるんだから!」

トモユキは黙って腕を引っこめた。
気まずい空気がただよって私は眠れなくなってしまった。
すぐにトモユキの寝息が聞こえてきた。

もう、寝ちゃった。
反省の気持ちでいっぱいでなんだか切なくなってしまった私が、
そっとトモユキのおでこに唇をつけると、トモユキはうぅーん、とうなって、寝返りを打った。

菜子は朝まで一度も起きなかった。
トモユキに、昨日はゴメンネ、とあやまると、トモユキはうん、と言った。
菜子が一度も起きなかったと話すと、

「僕の揺らし技がきいたかな?
 みゆちゃんにも今度教えてあげるよ、コツがあるんだ。」

と、得意そうに言った。

コドモだなんて、なにもわかってないなんて思ってゴメンナサイ。
私のほうがずっとコドモだね。
お詫びに今日はなんでも好きなもの作ってあげる、何がいい?とメールした。

「トマトソースのパスタ」だって。

それ、いつもと一緒じゃない。
でも特別美味しいのを作ろう。


菜子の熱はお昼ごろになって少し下がった。
機嫌も昨日ほど悪くない。






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すやすや眠っている菜子の顔を見ていたら、心のそこからほっとした。


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