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なんとなくバランスを取っているつもりでも、 人間どこかに悩みは生じている。 あるいは煩悩にまみれて苦悩している。 そういうものを抱えたこの手で、 「こころの処方箋」を開き、読み始めるのである。
文庫で各4ページずつ、55のテーマについての処方箋。 言葉がわかりやすくて、 あの河合さんでもそうなのか、凡人と自称しているぞ、 などと上手に思わせてくれるので 読むのに時間はかからない。が、 ひとつひとつ、つきつめてゆこうとすると、 まさに良薬は苦しに通じる処方箋なのだった。
今の私にとって感慨深かったのは、 「灯を消す方がよく見えることがある」 というテーマと河合さんのエピソードである。 心理療法家の役割は、
「灯を消して暫らくの闇に耐えてもらう仕事を共にする」(本文より)
ことなのだと河合さんは言っている。 たとえばジェームズ・タレルの、 視覚を手段とした作品のなかに 身を置いたときの感覚がよみがえってくる。 はじめ闇と思われた空間が、じっと耐えているうちに、 色彩と形あるものに見え始める、あの光の世界。
自分はあることについて病的なのではないだろうか、 それとも名前のつくような病気なのだろうか、 そんな不安がよぎるうちは、まだきっと ラインは超えていないのだろうと思うような日常の自己満足が、 やっぱりおかしいのかもしれないけれど、 それでもいいんだなという諦めにも似た安堵の 色に染まってゆく。 他のだれでもない、自分であるのだから。 (マーズ)
『こころの処方箋』 著者:河合隼雄 / 出版社:新潮文庫
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管理者:お天気猫や
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