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ネストやジョン・ロスには見える(デーモンにも!)
『喰らうもの』という種族が登場することを書いたが、
そこで関連して思い出すのが、『喰らわれしもの』。
こちらは、グウィンのゲド戦記第二巻、「こわれた腕環」の
主人公となる巫女アルハそのひとを指す呼び名だ。
神によって人間としての過去を喰われ、聖なる存在となった少女は、
迷宮にとらわれ利用される奴隷でもあった。
『喰らうもの』は、デーモンのように『悪』ではない。
ただ、そういうふうにできているだけなのだ。
負の感情や血を好み、光から逃げようとする
見えない存在。
だから、たとえば、怒りや憎しみの感情を発してしまったとき、
見えない『喰らうもの』がエネルギーを吸うために、部屋の隅から
わらわらとこちらへ近づいてきたとしても、
私たちには見えない。
ジョン・ロスの見る予知夢のなかで、悪に征服されたアメリカの都市に
『喰らうもの』は、やはり存在している。そうなってもなお、
奴隷となり、文明を奪われた人々には、彼らの姿は見えない。
彼らの格好の糧となるだろうエネルギーは、
今の世界にもあふれている。
グウィンのいう『喰らわれしもの』と同じ意味あいではないが、
シニシッピー公園をとりまく世界でも、喰らわれた人々は
それぞれの現実を生きている。
母の情夫に虐待されている少年、ジェアード。
過去に起こったことの秘密に隔てられた、ネストの祖母と祖父。
会社と対立する組合員たち。
そんなことを思いながら、
『喰らうもの』『喰らわれしもの』を
この世界にあてはめてみる。
『喰らい』、『喰らわれる』競争に、あまりにもなれてしまった
力の論理が敷かれたこの世界に。
同じように、目には見えないけれど『与えるもの』が、
ただそう生まれついた存在もいるのだと、
身勝手にその姿を思い描く。
ネスト・フリーマーク。
私たち読者にとっても、孤独なジョン・ロスにとっても、
虐待された級友の少年にとっても、
避難所のようなその名をつぶやきながら。
(マーズ)
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管理者:お天気猫や
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