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1942年、英国ヨークシャー生まれのスーザン・ヒル。 あの深くセンシティブな庭についてのエッセイ、 『庭の小道から』の著者としてのみ知っていた作家。 本国では若くして成功した実力派でもあり、 毎年のように多分野にわたる著作をものしているという。 そんな作家が、純粋なゴシック・ホラーを書くとどうなるのだろう。
その答えは、どこか東洋的なオカルト感覚と孤独に満ち、 色をおさえた世界であった。 やはり純度は高かった。 外界と断絶した館で起こる、身の凍る体験。 人を魂もろともに引きつける天涯孤独の館。 タイトルからもじわじわと怪しげに伝染する、黒衣の女への恐怖。 黙りこくる村人。 そして、旅人を襲う、呪いの真実。
英国において、幽霊屋敷はめずらしくもないのかもしれない。 それにしても、この屋敷の設定は異界らしさにあふれていて、 沼地を吹く風が頬に当たるような心地になる。
言い換えれば、あの館は、世界じゅうどこからでも 通じることができるような場所なのだ。 どこにだって、「外れ」という場所があるし、 人も鳥も通わぬような場所を、私たちは記憶している。
そこはスリーピイ・ホロウであり、 安達ヶ原でもあろう。 あるいはまた、ハロウィーンの夜の真夜中でも。
得体の知れぬ恐れのうずくまる場所へ、 再びみずから赴かねばならない恐怖。 それは、かの孤独なアメリカ人、 H・P・ラヴクラフトの落とし込む迷宮にも似て目眩を誘う。
この作品は、本国と日本で舞台化されているという。 出演する俳優は2名のみという、予算の事情もあったそうだが、 奇妙にこの本の世界に通じるアイデアである。
名脇役だった犬の「スパイダー」も、登場しただろうか? 彼女を助けてくれたスーザン・ヒルに、敬意を表しつつ。 (マーズ)
『黒衣の女』著者:スーザン・ヒル / 訳:河野一郎 / 出版社:ハヤカワ文庫1987
2003年09月10日(水) 『ラブリー・ボーン』
2002年09月10日(火) ☆「怪人二十面相」の正体
2001年09月10日(月) 『夜物語』
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管理者:お天気猫や
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