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2003年09月20日(土) ■ |
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◆チェコ国立プルゼーニュ歌劇場 『蝶々夫人』ヴァレンチナ・ハヴダロヴァー、ヤン・アダメッツ、他(03/09/25up) |
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(全2幕3場、イタリア語上演、字幕付き) マチネ、Bunkamuraオーチャードホール
蝶々夫人: ヴァレンチナ・ハヴダロヴァー ピンカートン(アメリカ海軍士官): ヤン・アダメッツ スズキ(蝶々さんの召使): パヴラ・アウニッカー シャープレス(アメリカ領事): ダリボル・トラシ
ゴロー(結婚仲介人): ヤン・オンドラーチェク ボンゾ(蝶々さんの叔父、僧侶): イェヴヘン・ショカロ ヤマドリ公: ロベルト・アダメッツ 神官: トマーシ・インドラ
チェコ国立プルゼーニュ歌劇場合唱団、
〔指揮:イジー・シュトルンツ、演奏:チェコ国立プルゼーニュ歌劇場管弦楽団〕
実は、歌劇『蝶々夫人』を観るのは初めてで、有名なアリア《ある晴れた日に》や、可愛らしい《ハミング・コーラス》くらいしか知りませんでした。勿論ストーリーはだいたい知っていましたけれど…。 それで、まぁ今回の公演の料金が非常に安かったですし、良い機会なので通しで観てみようと思ったわけです。 『蝶々夫人』は有名な作品ですが、私の中ではあまりピンとくる作品ではありませんでした。 主人公のアリアが他の有名な作品に比べて多くないように感じていたことと、そんなに思ったほど上演してないように感じたせいもあります。(実際にはよくわかりませんですが) 興味は“外国から見た日本”の描き方(突っ込みどころも含めて)とか、プッチーニ節ぶりなどですね…。
さて、観た印象は、先日拝見したこちらの劇場の『椿姫』が私にはイマイチだったので、そんなに期待していなかったのですが、『蝶々夫人』は音楽の美しさ、直球で心に刺さる哀しいストーリーにのめりこんで観ることが出来て大変感動できました。 まぁ、他の大きな一流劇場版や色々な演出版に、これよりも更に良いものも沢山あるとますが、作品そのものの美しさ、観る者から主人公への肩入れ度は、かなり高い作品だと思います。 2幕1場&2幕2場(1場と2場の間に休憩が入る)の夫の帰りを待つ蝶々さんを観ていたら、自然に涙がこみ上げてくるのを抑えられませんでした。 どんどん主人公に思い入れを持ってしまう作品です。
蝶々さん役のハヴダロヴァーさんは、声量はそんなに感じられませんが、しっとりしたまろやかな質の良い声で、繊細で可憐なタイトルロールを演じていらっしゃいました。 席が遠かったので、姿かたちに関しては良くわからなかったですが、パンフレットの写真では熟練した歌手という感じです。
そしてピンカートン役のヤン・アダメッツさんはかなり巨漢で、それに比例するようなすごい声量の持ち主でした。ハイ・テノールの良い声ですが歌い方に少々乱暴さも感じました。迫力と存在感はとてもある方です。
全編、蝶々さんはピンカートンに対して、周りが何と言おうと、疑いのないほど純粋に愛を捧げ信じきっている可憐さが、よけいに悲劇色を濃く印象付けてしまうのでしょう。 更に蝶々さんの年齢設定が結婚したとき、わずか15歳というのも哀れですよね。
1幕は、ピンカートンと蝶々さんの結婚式と初夜。 こちらの舞台美術はとても簡素でしたが、全く気にならなかったです。 美しかったと感じた場面は、幕切れの蝶々さんとピンカートンによる愛に満ちた二重唱。 結婚式の日、蝶々さんは自分の宗教を勝手にピンカートンと同じキリスト教に改宗してしまった為、一族から見捨てられてしまいますが、これからはただピンカートンだけを信じていこうと決心します。 その夜、ピンカートンが思いやりを持って親族との絶縁に悲しむ蝶々さんを慰め、蝶々さんもそれにこたえる内容の歌。お互いの愛の深さを輝く星空の下で歌い上げます。 幸福に満ち溢れた甘い音楽がとても美しかったですね。
2幕1場はピンカートンが日本を離れ、3年の月日が流れ、周りの人々からは再婚を薦められるようになりますが、蝶々さんは夫をひたすら待ち続けています。
アリア《ある晴れた日に》は、2幕が開いてすぐに歌います。 夫が帰ってくるその時の場面を想像し、心配しているスズキに対して語ってきかせる内容の歌ですが、これはハヴダロヴァーさんの歌い方が意外にもあっさりし過ぎていて、かなりもったいなかったですね。 もう少し盛り上げてくれたらなぁ…と感じました。
後半、ピンカートンの乗る軍艦の寄港を告げる大砲の音がした時の喜びの姿、部屋中を花で飾り、子供とスズキと共に障子に覗き穴をあけ、一晩中寝ずに待っているときに流れる可愛い《ハミング・コーラス》も期待感を静かに包み込むかのように、穏やかで美しい場面を彩っていました。 蝶々さんも子供を産んだとはいえ、まだまだ“駒鳥”のエピソードといい、幼さが見え隠れする人物像が後に痛々しく感じてしまいます。
2幕2場は、帰って来てくれたと期待した分、絶望へ突き落とされる場面や、子供へ愛情を見せつけられるところなど、涙が溢れてきますね。 しかも音楽がプッチーニなので、情緒的で泣かせどころが上手い。
初演時では、アメリカ海軍士官ピンカートンの描かれかたが今より軽薄で酷かったらしく、今日では改定されているようですが、それでもやっぱり別れ際も情けない人物像。 それに対し、蝶々さんの可憐さや純粋さ、そして潔い描かれかたは、ものすごく好意的で、世界中での日本女性のイメージアップに大きく貢献しているような気がします。
「プッチーニさん、このような美しい作品を残してくれてありがとう!」とお礼を述べておきましょう。
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