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2001年06月03日(日) 早慶戦

毎年6月第1週の土日には東京六大学野球の早慶戦が行われる。
中学入学以来10年間、この時期になると体が疼き出してしまう。
中学高校は吹奏楽部に所属していたので、応援演奏の人手が
いつも以上に必要となる早慶戦では、大学の応援部のお手伝いに
行っていた。

応援演奏に行くと、授業を公認欠席出来、大学からまずくて冷めている
のに「炊きたて弁当」という非常に珍しい食料が支給されたり、チケット
入手の難しいこのカードを学生席のど真ん中で観戦できる、といった
オマケがあった。けれど何よりも、これまで10年間、あの独特の
雰囲気の試合を肌で感じることが出来たのが幸せなことだったと思う。

早慶戦にまつわる話は話せば限がなくなってしまう。

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大学4年の自分にとって、今年は最後の春の早慶戦となることもあって、
そんな色々な思い出のある早慶戦を土日2日とも観戦することにした。
土曜はサークルで、日曜はゼミの先輩達と。

日曜は、先輩が入場順位抽選会で240番中3番を見事ひきあて、
内野学生席の最前列で観戦。応援部のリーダーやチアガールの迫力
あふれる応援が楽しめるいい席だ。

何より、通路を挟んで隣にはブラスバンドが陣取っている。
その中で姿勢よく周囲を取り仕切りながらアルトサックスを
自在に操る友達の姿を見つけ、試合前、声をかけた。

彼は高校時代の部活の同期で、僕らの代の部長を務めた。
大学ブラスでも責任者として組織を運営している。
吹奏楽団代表として慶應席に挨拶に行ったり、
声を出して後輩に指示を出す彼の姿を見てふと
「遠い存在になってしまったのかなあ」なんて思ってみたり。

エール交換の際、双方の学生が一緒になって「早慶讃歌」を歌う。
神宮球場が1つになる瞬間だ。
試合前に双方の応援団が1つの歌を歌うなんていうのは
世界広しといえどこのカードくらいなものだろう。
こうして何とも言えない独特のムードは否が応にも高まってゆく。

試合は1点を争う好ゲーム。
1対1で迎えた9回の攻防では、チャンスを作るも
走塁ミスで双方無得点。
しかし延長10回表、ついに1点勝ち越し、早稲田勝利。
9、10回は双方の応援席は総立ちで応援。
1球ごとにため息と歓声が、球場全体を覆う。
応援歌を喉が枯れるまで歌った。

10年間で20試合以上見てきたと思うけど、その中でも
一番の試合だったと思う。

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大満足の試合後、名残惜しくて席をなかなか立てない僕のところに、
件の彼がやってきた。

「おつかれさん」

「いい試合だったな」

「相変わらず忙しいんだろ?」

「そうだな引退までは」

「ま、夏とか時間のあるときにでも皆で会おうぜ。
最近皆で集まる機会もなかなか無いしな」

「うん、そうだな、夏休みなら大丈夫だよ」

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「遠い存在」に感じた彼は相変わらずの口調だった。
変わっていたのは、少しばかりひげが濃くなったのと、
連日の応援のせいか肌が焼けているくらいだろうか。
それぞれがそれぞれの状況下で、それぞれの生活を頑張っている。

夏前に試験を受け、休みに旅に出たり、冬に初詣をしたりするのと
同じように毎年当たり前だった、この初夏の野球も来年からは
自分と遠い世界の出来事となってしまう。それはあまりに寂しいことだ。

試合自体の満足感とそれ以上の充実感とそして無情にも過ぎ去る時への
やるせなさを感じながら神宮の杜をあとにした。


おじゅん |MAILHomePage

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