こぎとえるごすむ
思う事・日常の出来事をウダウダと書きます。
「テメエふざけんな!」と思っても暖かい目で見て下さいね。

苦情は受け付けません。イヤだから。

2001年05月28日(月) 実話だよ

俺は、最終間際の電車にかけ込む。
人込みをかき分け居場所を見つける。

「ふぅ」とため息つきながら顔をあげる。
すると、窓越しに男の姿が目に入った。
30台前半だろうか?すこしガッシリとした男だ。
グレーのスーツを着ている。
いつもなら気にも掛けない姿だ。
でも、俺の目が止まった。
その男は、何やら不思議な顔をしていたからだ。
男は微笑んでいる。
微笑んでいるのだが、悲し気だ。

そして車内の一点を見つめている。
俺は、視線の先を見る。

車内には小振りの黄色い花束を持った女性がいる。
その女性も微笑んでいる。
微笑んでいるが、今にも泣き出しそうだ。
その証拠に、目が真っ赤になっている。

俺は、また男に目を移した。

男が口を開いた。
いや、正確には口だけを動かした。

「!」俺は、とっさに何を言っているのか理解した。
ゆっくりとガラス越しに語りかける、その唇の動きは、こう言っていた。

「お、め、で、と、う」

男は何度も何度もくり返す。

俺は、車内の女に目を移す。

女も声を出さずに、でも確実にメッセージを伝える。

「あ、り、が、と、う」

互いに何度もくり返す、まるでそれが何かの約束事の様に。。。

ドアが閉まり、電車が走り出す。
男は、電車を追い掛けるでもなく、その場に佇む。
手も振らず、手も上げず。
ひたすらに無音のメッセージを発し続ける。
女もそれに答える。
ひたすらに「おめでとう」と「ありがとう」をくり返す。

男の姿が見えなく直前、唇の動きが変わった。
俺には唇の動きが読めた。
でも、俺は途中で目を逸らした。
俺が知ってはイケナイ気がしたからだ。

車内に目を向けると、女は人込みに紛れて行く。
姿は目で追えなくはないが、ヤメた。

そんな必要もない。

終電の2本前、喧噪の中に静寂の空間。
俺は何も考えられなかった、考えたく無かった。

電車は乗り換え駅に着いた。
さあ、終電車は数分で到着だ。
俺は走った、走る必要は無いのだが走った。
走りたかった。
駅のホームへ掛け降りると、ひんやりとした空気が快かった。
弾む息も心地よかった。
振り返ると、乗って来た電車がホームを出て行くのが見える。
物語の終演を感じさせる光景だった。

俺の勘違いかもしれない。
独りよがりな想像なのかもしれない。
でも、それでもイイ。
感じた事は事実なのだから。


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