petit aqua vita
日頃のつぶやきやら、たまに小ネタやら…

2004年02月26日(木) 『眠れない夜』(ヒカル15歳。独白)

……ふと、夜中に、目が覚める時がある。

――なにも、いない。


…以前なら、必ずそこにいたのに。

「ヒカル…ヒカル?どうしました?」

ふわりと微笑んで。
半分透けた細い手で、髪をなでてくれた。(当然、感触なんてないんだけど)

「大丈夫。ゆっくり、おやすみなさい」

俺はその言葉に素直に頷いて。
…また、目を閉じる。

夜が明けた時に佐為がいることを、疑いもしないで。







……夜中に目が覚めたのに。

――佐為が、いない。


ここは俺の家で。俺の部屋で。部屋の片隅には、オレンジ色の金魚のコンセントランプが、いつものようにぼんやりと灯っている。
音のない、まるで切り取られたような空間。


どうしたら良いのか、分からないまま。








外がうす明るくなって、新聞配達のバイクの音がした。
俺は布団から出られずに。

ようやく目を、ふせた。


――佐為は、もう、いない。

分かりきったことを、確認するように。


くるまった布団の中だけが、妙に幸福で、あたたかかった。




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平 知嗣 [HOMEPAGE]

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