2005年09月16日(金) |
『この雨が通り過ぎるまで』(精良&ヒカル。雨に打たれながら降臨したネタ第一弾) |
――まさか本当に降るとは思わなかった。 さっきまで、これでもかというくらい太陽が照りつけ、自分はあまりの暑さにウンザリしていたのだから。
…それが、ちょっと曇ってきたかな、と意識した途端に一気に本降り。 たまたまリュックサックに入れっぱなしだった折りたたみ傘があったから、慌てずに済んでいるが、大抵の人は雨を避けるために足早に屋根のある所や建物の中に駆け込んでゆく。 カツカツ…と後ろから駆けてくるヒールの音の主も、その一人らしかった。
す…とヒカルの横をすり抜けて行こうとするその瞬間、その女性が自分の見知った人物であるのに驚く。
「緒方さん?!」 「進藤!!」
驚いて足を止めた精良はすっかり雨に濡れていて、ヒカルは慌てて小さな折りたたみ傘を精良にさしかけた。
「どうしたんだよ?いつも移動は車なのに…」 「その車に戻る途中で、降られたんだ」
…やれやれ、と精良は小さなバッグからハンカチを取り出して、濡れた顔や雫が落ちる亜麻色の髪を軽く拭いてゆく。 精良はヒカルよりも10センチ程背が高い。ヒールの高い靴をを履けば、さらにその分、ふたりの身長差は開いてしまう。ヒカルはそれを意識して、傘を精良に丁度良いように高めにさした。 しかし、狭い折りたたみ傘では、十分に2人を雨から守ることはできず、傘から外れたヒカルの右肩はどんどん濡れていった。 精良はその様子に、眉をひそめた。 …雨は止むどころか、次第に勢いを増してきている。
「進藤、とりあえずそこの軒先に入って雨宿りしよう」 「…へ?」 「この雨の勢いだと、傘をさしていても殆ど意味がなくなる」 「う…うん」
ヒカルは、精良に腕を引かれるまま、シャッターの閉まった銀行の軒先に歩いていく。さしていた傘をたたむと、ヒカルの足元にはすぐに水たまりができた。 精良は水滴がついた眼鏡を外し、軽く水気を拭き取るとバッグにしまいこんだ。
(…うわ、眼鏡を外した緒方さんって、初めてかも……)
怜悧な印象を見せる銀のフレームの眼鏡を外した精良は、いつもよりも雰囲気が柔らかいような気がした。濡れて首筋に幾筋かはりついた髪も、普段のかっちりとした彼女とは……違う。
「すまなかったな……結構濡れたようだ」
気がつけば、当の精良はヒカルの目の前に立っていて、ヒカルの濡れた髪や、肩を拭こうと少しかがんでいた。
「――――っっっっ///////っっっ!!」
その瞬間、ヒカルは顔を真っ赤にして、ガシャン、とガレージにはりつく。
「?――進藤?」
精良はヒカルの行動をいぶかしむように首をかしげる。
「――い…いやそのっっっ!!オレ、そんなに濡れてないからっ!」
慌てて手を振るヒカルの顔はまだ赤い。
――だって。 見えてしまったのだ。
精良がじぶんの目の前でかがんだその時に、茶色いカシュクールの襟元からのぞいた……白い胸の谷間と…それを包む、黒いレース。 ちらりと見えたにせよ、その黒い下着は彼女の肌をより一層白くきわだたせているようで、まるいそれは…とても、やわらかそうで。
(――って、何考えてるんだよ俺!!)
「そうか?」
ヒカルの様子をいぶかしみながらも、精良はそれ以上の追求はしてこなかった。 しかしヒカルはそれどころではなく、精良の顔を見ていると、自然に濡れた首筋とか、少し開いた襟元とかに意識がいきそうで、目線を下の方にずらした。
(――――っっっっ!!!//////↑↓→☆☆っっ///)
そうしたら、彼の目にとびこんできたのは、生地の薄いオフホワイトのパンツが濡れた事によって精良のすらりとした脚にはりついていたのと…腰の辺りに見える……下着の、線。
意識をそらせようと思っても、どうにもこうにも。
「……こ、困ったね〜。まだ、止まないのかな、この雨」
不自然ながらもヒカルは精良から一歩、二歩離れ、軒先のぎりぎりに立って、左手を伸ばした。 雨は、そんなヒカルの掌を叩き、濡らしてゆく。
「夕立みたいなものだろうから、一時で止むだろう」
精良も、カーテンのように降りしきる雨を眺めた。
雨は降る。
車道では、水たまりをけたてて走る車が行き交い、
雨の強さに、傘をさして歩く人の姿はほとんどない。
雨が降る。
あまり広くもない軒下に、ふたりを閉じ込めるように。
「この雨が上がったら、虹とか、出るのかなぁ……」
「さぁ、どうだろうな」
ふともらした呟きに、精良は応えてくれたけれど、まだ、ちょっと振り向けない。
この雨が通り過ぎるまでは、このまま。
遠くで、ごろごろと雷鳴の音がした。
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