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■ スワン・ソング(上・下)/ロバート・R・マキャモン

※画像は原書 『Swan Song』

『スワン・ソング』(上)
内容(「BOOK」データベースより)
7月17日、第3次世界大戦勃発。米ソの核ミサイルによる炎の柱と放射能の嵐が全土を覆い尽くした。地下室に閉じ込められた少女スワンとプロレスラーのジョシュ、地下鉄の下水路で九死に一生を得たバッグ・レディのシスター、崩れた核シェルターから脱出したベトナム帰還兵のマクリン大佐とゲームおたくのローランド少年、生き延びた人びとを待っていたのは、火傷と放射線障害、「核の冬」の極寒、そして過去の遺物の争奪…。死よりなお凄惨な狂気の世界であった。核戦争後のホロコーストのアメリカ大陸を舞台に繰り広げられる、世界再生の鍵を握る少女スワンを巡っての聖と邪の闘い。世記末の黙示録神話を描く、ホラー界第3の男、マキャモンの「超」大作巨篇が遂にそのベールを脱ぐ。

『スワン・ソング』(下)
内容(「BOOK」データベースより)
7年前までミズーリ州と言われた地に住む、スライ・ムーディの家を訪れた旅芸人の中に「ヨブの仮面」と呼ばれる腫瘍に顔を覆われた少女がいた。少女が触れたリンゴの木は、またたく間に生命を取り戻した。木に刻まれた彼女の名前は、S…W…A…N。"輪"に浮かぶ掲示に導かれるシスター達、ロシアの来襲を妄想し狂気の軍隊を進軍させるマクリン大佐とローランド、復興に向かう人びとの心を再び荒廃と狂気に引き戻さんと暗躍する「深紅の目の男」、あらゆる者たちの運命の糸が、次第にスワンのもとにより集められていく。世界の再生と破滅をかけた聖と邪の激突の行方は…。ホラーの枠を超えたマキャモンの現代の聖杯伝説はここに円を閉じる。



核戦争後の凄惨なホロコーストの中、物語は3つのグループ(�\犬�残った少女スワンとプロレスラーのジョシュ、��地下鉄の下水路で九死に一生を得たバッグ・レディのシスター、�J�れた核シェルターから脱出したベトナム帰還兵のマクリン大佐とゲームおたくのローランド少年)を中心に展開していく。

核による破壊もすさまじいが、最も恐ろしいのは、生き延びた人間たちの行動だ。上巻は、ほとんどスプラッター的な描写で埋め尽くされており、吐き気を催すような箇所もある。しかし事実は、それそのものがおぞましいのではなく、そこで必死に生き延びようとする人間の心理がおぞましい。もちろん、そんな核戦争を引き起こした人間、権力者はもっとおぞましい。たかが一介の大統領に、何億人もの人間を殺す権利があるというのか。自分たちは地球上で最も偉い生物であると勝手に決めている人類の思い上がりはとめどがなく、それがひたすら恐ろしいし、それこそ反吐が出る。

ただ、マキャモンはそれだけを書いているのではない。このような残虐なシーンを描きながらも、どこか一条の光がさしている。それが何なのか、下巻に期待したい。

下巻は、人々の顔と頭にできていた「ヨブの仮面」と呼ばれる腫瘍が割れ始め、その下から本当の自分の顔が現れる。言うまでもなく、善人は美しくなり、以前の傷も消えるが、悪人は例えようもなく醜い顔となって生まれ変わるのだ。そして、彼らがひとつに集まり始めたとき、少女スワンをめぐっての戦いになる。スワンのグループとシスターのグループがひとつになり、マクリン大佐たちと壮絶な戦いをする。すべては命を生み出す力を持つスワンを守るため。しかし、狂人の一群や、人類の全滅を望む得体の知れないデーモンたちが、マクリン大佐の軍に加勢する。つまり、類は友を呼ぶというわけだ。

ここで重要なのが、シスターの持っているガラスの冠と、スワンが持っている占い杖だ。解説には、それらが聖杯伝説と同じような働きをするとあったが、見知らぬ間柄であったスワンとシスターは、これによって出会うことができるのだ。ところが、ガラスの冠に触ったデーモンは、何としてもこれを破壊したいと考え、最後の最後まで執拗に追いかける。

邪悪な手におちたスワンとシスターが連れて行かれた先は、神が住む山と言われていたが、そこにいたのは誰あろう、この核戦争を引き起こした張本人。合衆国大統領であった。

いよいよ地球上の悪が勝ったと思い込んだ大統領は、全地球を破壊するために作られた「タロン」を始動させる。けれども、悪が勝ったわけではなかった。スワンは、そこでも人類を救うのだ。

この物語で、一番印象に残るのは、スワンを何としても守ると決意していたプロレスラーのジョシュだろう。どれだけ痛めつけられても、どれほど辛い思いをしても、必ずスワンを守るのだと。その姿には感動するし、またそういった人間は、私の好きなキャラでもある。そして、最後には身をもってスワンをかばったシスターもまた。長い年月ののち、最後にやっと太陽の光が現れ、シスターを照らす場面は、目頭が熱くなる。

この『スワン・ソング』も感動的だったし、苦手だと思っていたホラーも、実は嫌いじゃないかも・・・というか、これはホラーなんだろうか?たしかに得体の知れないデーモンのような生き物とか、凄惨なホロコーストの場面とか、ホラーであるとする描写は十分すぎるほどなのだが、ホラーというのは、だいたい悪が勝つものじゃないのか?と思う。マキャモンの作品は、邪悪なものが完全に滅びるとは言い切れないまでも、最後には正義や聖なるものが勝利して、ハッピーエンドになるのだから、後味がスッキリしている。だから私はマキャモンをホラー作家とは思わない。

「キング、クーンツに続く第三のホラー作家」といわれるマキャモンだけれど、キングの世界ともクーンツの世界とも違って、作品に何か人間的な温かみを感じて、マキャモンていい人なんだなあとしみじみ思ってしまう。キングなどは、邪悪なものを書かせると素晴らしいのだろうが、正義とか聖なるものの描写が下手だ。というより、合ってない。無理に善を描こうとすると、どこかぎこちなくて変なのだ。だから、キングは邪悪なものを描くことがテーマなのだろう。しかしマキャモンは、邪悪なものを描きながらも、テーマは善なるもの、聖なるものについてなのだ。だからいつもどこかに、光が射しているのだろうと思う。

2004年03月27日(土)
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