時間がないけど髪を切りたい、と切実に思ったとき、
神は私に試練を与えた。
学校の近くの近代風な美容室に入る。
「五時半までに終わりますか?!」
「大丈夫です」
ベテラン風のおやじが奥から出てくる。
おやじはベテランだった。
が、
センスもわりと古かった。
前髪異様に短い。全部重くそろってる。
しかもけしてかわいくなく、おかっぱ風味。
かなり残念な結果。
というかさあ、ざくざくすいてあって、
外側とかにぱひゃぱひゃはねてる髪型を、
「このままちょっと短くする感じで」
っていう注文でさあ、
こうまでも、きちーっとそろえるか?! 親父!!
「ちょっと短めにしてください」」
っていう注文でさあ、前髪を眉上3センチまで切るか?!
親父!!!!!
慌てた私は翌日、
無理矢理学校を自主休業して、
いつもの地元の美容室に逃げ込んだ。
陽気なにーさん登場。まずイスに座らせてくれる。
「やられてしまいました! やられたんですよ!」
「や、やられたっ……て?」
にーさん混乱。
一部始終と私の希望を聞いて、やっと安心のカット開始。
にーさんは、前髪のあまりの短さにやはりビビり、
「ちょっと短くしてくださいで、
ここまで切られてしまうのか……」
とつぶやいた。
確かに親父は調子にのりまくってザクザク切りやがり、
最後にザクザクそろえやがった。
それを聞いてにーさんつっこむ。
「ちょっとはつつしめ! って感じだよなー」
しかしこのにーさんにも、軽い問題はある。
たとえば、私がいつものように、
ジーパンに赤い下駄をつっかけて美容室を訪れ、
将来の夢を聞かれた時のことだ。
「一応今は、社長になる、と言い張ってます」
と回答したところ、
「なりたい、とかじゃなくて、なる、なんだ……。
それはもう社長だろう。
よく、変わってるねー、とかって言われない?」
と言われたので、
「いやいやいや、私はいたって普通ですよ!!」
と、真実を教えてあげた。
するとにーさんはつぶやいた。
「社長になるって下駄で言い張る奴が、
普通な世の中になっちゃったのかぁ……」
なんでそんなに悲しそうなんだ。
さらに、家で使うワックスやムース、スプレーの話になった時。
「やっぱり値段に負けちゃうんですよねー。
あと、おどり文句にもけっこうやられちゃうんですよー。
風になびいてさらっと戻る! ってムース買ったときは、
友達に『それは嘘だよ』って言われましたよー」
にーさんは、3秒ほど黙ってから感想をもらした。
「値段とおどり文句に負けるのか……。
弱いなあ…。なんて弱いんだ……」
そしてゆっくりとにーさんは、自分の頭を指さした。
「このへんが………」
し、失敬な!!!
そう。
このにーさんは、私がありがたーーいお客様だということを、
よく失念してしまうのである。
お前も少しはつつしめ!!