中国語の後藤先生はお怒りだった。
なんでも、日本の常用漢字を決めてる連中が、
常用漢字じゃなきゃだめだ!
とかマスコミに駄々をこねまくったせいで、
普通の漢字が仮名になおされている。おかしい。
と、言うのである。
たとえば「晩餐会」。
ばんさんかい、と仮名をふれば読めない奴はいないし、
読めなかったら読めないほうが悪い。
それを禁止してる神経がもうおかしい間違ってるんですよ、と、
後藤先生はちょう元気にお怒りだ。
「私は『晩さん会』、な〜んて間抜けな字をみて、
当然、晩さんという人がいるんだと思いましたよ!
さんって普通、日本じゃ人の名前につけるもんでしょ!
晩さんを囲む会だと思いますよ、これは!!」
みんな黙っている。
私は笑ってあげたかったが、
教室の空気は後藤先生に向かい風。
しかも秋風すなぼこりヴァージョン、という感じで厳しい。
ところがチクチク痛いはずの強風にもめげず、
後藤先生はさらに、
「爬虫類→は虫類」も間抜けすぎる、と元気よく語った。
そして最後に、黒板に字を書きながらこう言った。
「慶応の学生が、海外旅行中に行方不明になった時の夕刊ですよ。
どうも連れて行かれたらしいってことで、
新聞にこの字がどーーんと見出しで出たんです!
私は目を疑いました!」
大学生ら致される
拉致 → ら致 である。
後藤先生は拳をにぎりしめた。
「これどう見ても、
だいがくせいらいたされる でしょ!!」
みんなは笑った。