兄貴が小学一年生のころ、彼と友人の中だけにおいて、
空前の「合言葉ブーム」が巻き起こった。
多分、学研の学習に掲載された忍術特集が原因。
さっかが5歳くらいの頃、
奴らはさっかをクローゼットに収納した。
当時の我が家のクローゼットは、ちょうど、
軽く閉じたときのブラインドのような形になっていた。
細い隙間ごしに、兄貴とかの目が並んでいる。
宇宙人みたい。怖い。いっそ殺せ。
「さて」
仮面ライダーの悪役風に、兄貴が言い出した。
「合言葉を言えたら出してやる。……トマト」
「わからん!」
「ブブーッ、はずれ。では、第二問です」
「ジャ、ジャン!」
厄介なことに、当時彼らの間では、
空前の「クイズ番組ブーム」も巻き起こっていた。
「……トイレ」
「合言葉を言え」
「トイレ。言えたら出してやる」
「トイレ」
「チッチッチッチッチ………ブブーッ! 時間切れ」
「次の問題です」
「ジャ、ジャン!」
果てしなく続いた。
そんな感じですぐ感動して影響をうけるうちの兄貴は、
その後も空前のくじ引きブームとか、空前の忍び足ブームとか、
空前の棒術ブームとかを巻き起こした。
自分だけ単独ブーム。
くじ引きブームの時はありとあらゆる紙切れをくじにして、
すべてをくじ引きで決定するという神政政治を行った。
忍び足ブームは2年ほど続き、
ついに気配を消して畳の上を歩く術を会得した。
棒術ブームのときは、富士登山記念の六角杖をふりまわし、
わりと壁に穴をあけた。
ほとんど原因は学研にあるので、学研は教育によくないと思う。