遅く帰ってきた私がまだ、
ごはんも味噌汁も食い尽くしておらず、
ブリの塩焼きにはまだ箸さえつけていなかった時。
おかんがギャアギャアと騒音を発しはじめた。オイル切れだ。
おかんはフォトショップ(画像加工ソフト)を起動していた。
横からいろいろと口をはさんだが、
根本的に理解してないのでついに隣に座る。
教えはじめると、おかん、いきなり無気力モード。
「あかん。そんなん言われても、わからへん」
さっかが処理するのを、横で待ってるだけモン登場。だらり。
こ…こいつ。
「あんなあ、理解しようとしてへんやろ」
「してへんよ。あんたの説明、なんもわかれへんもん」
「なにゆうてんねん、普通は誰も教えてくれへんの!
ヘルプ見たり、人の見てて必至で覚えんの!
教えてもろてるおかあさんは幸せやねんで」
「あーあーあー、そらね、
それはね、あんたはおりこうさんでしたよ、はんっ」
逆ギレ?
しかも加工してんの、うちの兄貴の写真。
しばらくして、事件もひと段落。
おかんは以前から気になっていたらしい、
「ピクミン 愛のうた」を検索しはじめた。
私はブリの塩焼きを食った。うまかった。
おかんピクミンの公式ページを発見。
愛のうたを聞けると知り、年甲斐もなく大はしゃぎ。
そしてなぜか、音楽を聴けるページをプリントアウト。ありえねえ。
ほうっておいた。
ブリはうまかった。
いよいよおかんは、愛のうたを聞けるというボタンをクリック。
ぼくたちピクミン あなただけについて行く
今日も 運ぶ たたかう 増える そして食べられる
聞き終わるとおかん、放心。
続いておかんがとった行動は、
比較人類学上もっとも興味深いものだった。
彼女はもう一度、愛のうたを聞けるというボタンをクリックした。
ぼくたちピクミン あなただけについて行く……♪
復唱しはじめた。声に出して復唱しはじめたのだ。
ピクミン。
プリントアウト。そして復唱。
ありえねえ。ありえねえよそれは。
さらにそれから彼女がとった行動は、
ヒト科ヒトの心理状態として、
あのアリストテレサでもマザー・テリスでも解明できないだろうほど、
複雑怪奇、奇妙奇天烈摩訶不思議、出前迅速落書き無用なものだった。
やつはもう一度、愛の歌を聞けるというボタンをクリックした。
ぼくたちピクミン あなただけについて行く……♪
歌いこみ…?
プリントアウトして復唱して、さらに歌いこみ……。
ありえねえ。ありえねえよそれ、なし、なしそれ。
しばらくすると、ちょっと静かになった。
何故かおかんはピクミンのホームページの戻り、
ゲーム「ピクミン」の解説を読み始めていたのだ。
恐るべき脅威の進化速度、と記さなくてはなるまい。
おかんは激しく独り言をつぶやいた。
「ピクミンは三色います…… ふーん
オリマーについていきます…… だって」
「へえ……(がつがつ)」
「ふーん オリマーだって」
「……(ぱくぱく)」
「オリマー」
「……(もぐもぐ)」
「オリマー」
なんで反芻?
こうしておかんは何故か、
我が家の誰より「ピクミン」に詳しくなって帰還した。
その熱意フォトショップにむけらんなかったの?
ていうかなんで翌朝こう言うの?
「ぼくたち ピ〜クミィ〜ン〜〜……
今日も…… なんやったっけぇ
なあ、なんやったっけーー」
きくな