サイコロ爺
いや、なんでもない。
……なんでもないってば!!
手前に引く自室のドアを、右手で開けながら、右足を出した。
ごっ。
軟弱者の足の硝子の小指が砕け散るかと思ったくらいの激痛。
跳ぶ自分。
転がる自分。
停止する自分…。
復活する自分。
きっ、と顔をあげて起き上がる自分。
成長した自分!
旅立つ自分!!
洗面所に至る。
なんていうかさぁ。
人間さ、努力がみのって成長したり、誠意が通じて理解されたりさ、
何かをこつこつ頑張って、その結果が返ってきたりするとさ、
自信とか、充実感とかを手に入れられるわけじゃんさぁ。
でもでもさ、自分の力を少しずつ信頼できるようになってもさ、
家で足の小指ぶつけると、スゲェ無力感に襲われるよな。
この無力感は、いい歳して食事中に舌を噛んだ時のそれにも似てる。
一瞬の鋭い刺激と、次第にひいてゆく痛み、
強烈な無力感と、後をひきながらも遠ざかってゆくその感触…。
……ああ、こうして書いてみると、思った以上に至極どうでもいい話だぁ……。