+女 MEIKI 息+
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寝付けないまま外を通る新聞配達のバイクの音を起き出す合図に、ベッドからのそのそと降りてTシャツ一枚を着た。今迄、何処で寝ていたのか気がつくと足元に猫が纏わり付いて、尻尾を絡めながら彼なりの優しい挨拶をしてよこす。屈んで抱き上げようとしたら、その腕をすり抜けて階下に来いと促す。起きたら飯か、判りやすいヤツ。眠ってたわけではないのに、まるで今迄寝ていたように覚束無い足取りで階段を一段ずつ降りると、彼もそれに合わせてゆっくり、けれど私の比ではないほどの軽やかな足取りで降りて行く。彼のご飯皿は、乾燥した餌の一欠片も残っていなかった。ザラザラと音を立てて皿を餌で満たしてあげると彼は、ありがとうもいただきますも言わずに、小さく丸くなって食べ始めていた。静かな部屋の中で、カリッと食む音だけが聞こえ、それも長くは続かなかった。座って見てた私の横に彼はやって来て、毛繕いするのも億劫なのか、もう半分以上夢の中に戻って行った。 夜とも朝ともつなかい時間は、家全体、表通り、街灯までもが寝静まっているようだ。外がどれだけ眠りのベールが掛かっているのか、見たくなった。いや、一人で起きているのが私だけかも知れない、もしかしたら私しか居ないのかも知れない、部屋の中に居ると静さに厭な気分になるのが恐くて外に出た。 手を伸ばせば届きそうな低い鉛色の空の下、薄墨色に染められた眠りのベールとはまた違った湿感のあるベールが全てを覆ってた。サンダルがアスファルトを擦る音だけ、やけに大きく聞こえていた。その単調な音を少しだけ立てていると、歩道の真中にお腹を地面に付けて座る猫が居た。私以外にも起きているモノを発見したようでなんだか嬉しい。ところが、とこちらが近づくのは、とうに気付いているだろうに動こうとしない。あまり近くに寄って逃げられるのも寂しいので、チッチッと口を鳴らしたが聞こえていふりをする、反応してくれない。微動だにしない彼の視線の先を辿ると、握り拳のような石がゴロゴロしている資材置き場で、点々と間隔を空けまあるく輪になって集会している猫達が居た。歩道に座っている彼と輪になっている猫達と等間隔をとるように、私もその集会の輪に入ったような気分になって、その場にしゃがんでみた。どれだけ時間が経ったのだろう、どっちつかずの時間が朝であることを思い出した頃、猫達は一斉に彼等の持ち場に帰って行った。その場に一人取り残されるのが厭で私もすぐに家路についた。ドアを開けると、猫が玄関まで迎えに来ていた。
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