+女 MEIKI 息+
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2002年06月19日(水) Let's dance with me.

 ホテルのロビー、人が疎らにいる横をすり抜け人知れずひっそりと影を落すその薄闇の先、階段が見えてくる。そこを降りるとホテルの従業員ですら知らない者もいるだろうと思わせる地下室へと通じる。
 階段を下りるにつれ、段々と配管も露出する廊下が見えてくる。非常灯が眩しくさえ感じる、曲りくねった廊下が続くフロアに出る。その奥まった闇に、重いオーク材で堅く閉ざされた扉を隔て、一室がある。重厚感がある扉は、緊張の度合いに拍車をかけているようだ。
 部屋の中には、足元を照らすだけのぼんやりとした明かりと、部屋の中央に取り付けられた映すものをにび色に見せるであろうスポットライトが、歩みを沼に誘い込むように分厚い絨毯で敷き詰められたエントランス浮かび上がらせる。
 顔を上げると、部屋を仕切ろうように取り付けられた大きな扉。
 手前には、大きく黒い皮のソファと、金で縁取られた華奢な作りのスタンドの灯り。高い天井までの大きな仕切りの扉をあけると、このエントラスと続くひとつの部屋となり、奥の壁には、白くクロス状に取り付けられた太い角材、鉄のリング、鎖で繋がる黒皮の手枷。そして、その下には装飾が施された黒皮の足枷。見上げれば太い梁が架り、滑車が掛かっている。
 壁には縄と鞭とが整然と下げられた、とても静かな部屋。
 啜り泣きを吸い込む重い扉の内の厚い消音壁。

 胸から延びる細い鎖の先に、下げる錘の入った小箱、首輪を引く赤い組紐、追い上げる喜びの喘ぎを封じるGボール、悶える扉を開くためのフックのついたクリップ、それらは取り出しやすい棚に綺麗に並べられている。太股を伝う恥じらいの印までも写し出す大きな鏡は壁に掛けられ、さらなる快楽を求める肉体をゆったりと眺めるための深いソファ、愛しく身悶えする柔肌に光る汗を照らす証明へと続く。

 溢れたものをを纏いさらなる湧き出るものを呼ぶ太く逞しい形、喜びに定まらぬ視線の行方を追うのは光か陰か。
 打ち震える胸を絞り出す皮の帯、そして纏い付く縄目、耳元で低く内なるところへと響く囁き声、熱くうなじを撫でる唇、胸の稜線を伝う指先、動けぬ身体をくねらせる姿を楽しむ視線と言葉、微かなワインの香りと咽るほどの蘭の香り、テ−ブルから立ち上る紫煙は一筋、目を射る眩いライトの陰に映るのは、仄暗い部屋の中に一条の明かりで浮き出た肉体、薄く汗ばみ波打つ躯を晒して、一時の快楽に身を委ねてみて。
 壁の絵の貴婦人は微笑み、肖像の眼差しが枷を操る鎖を握る手に視線を送る。ほら、見据える先で広がる甘美な宴。

 狂おしく見つめる眼差しの先にあるものは
 快楽ですか
 愛ですか

もう此処へは迷い込まぬよう




鳥篭は今も部屋の隅に飾り
入り口の鍵の場所は誰も知らない
(カナリア)



香月七虹 |HomePage