第1章。 主人公(プレイヤー)たち一行は、さらわれたヒロインを助けるために、 どこぞの山賊を追いかけて、アジトにやってきていました。
そうして、おそらく初のボス戦らしいボス戦へと突入したのですが・・・
「犬! 犬が邪魔だー!」 「HP激減してるぞ」
相も変わらず激弱プレイヤー、 序盤のボス戦に、早くも圧され気味です。 しかし、こちらには回復役メガネハンマーがいるのです。 (※勝手に命名されたあだ名です、ご了承ください。)
「ファーストエイドを頼む!」 「承知した!」
主人公は、ファーストエイドの命令を出しました。 ところが、数秒、数十秒、主人公のHPは何故か全く回復されません。 ファーストエイドの詠唱は既に終わっていますし、 詠唱を邪魔されたわけでも無さそうなのです。
「ファーストエイドー!」 「承知した!」
再度指示を出しますが、やっぱり回復されません。 そうこうするうちに、主人公は力尽きてしまいます。 グミ類、ライフボトルもあっけなく切れました。
こんなことが、実に4、5回続いた後、序盤のボス(モーゼス)にあっさりと敗北した一行は、 ゲーム開始後1時間足らずでゲームオーバー画面を拝むハメになり、 惨めにデータをロードし直していました。
ボス戦直前のセーブポイントで、対策会議中の一行です。
「回復をきちんとしないからだろう」 「ファーストエイドは何回も頼んでるんだよ」
リボンの騎士風味の女の子が忠告します。 実際、メガネ君には何度も回復指示を出していたはずなのです。 女の子は不思議そうに首を傾げました。
「いや・・・レイナードはきちんとファーストエイドを発動させていたぞ?」 「え?」 「戦闘中、何度か光ってたし」 「いや、そうじゃなくて」
主人公がひょいと、その話は置いといて、という仕草で詰め寄ります。
「レイナードって誰?」 「だから・・・そこの、ウィル・レイナード(フルネーム)のことだ」
メガネを指差しながら説明する女の子。
「え? ウィルって・・・どっち?」 「・・・バカにしているのか、或いは、頭でも打ったのか?」 「メガネハンマーがウィル、剣士の私がクロエだろう」
うら若い乙女にメガネハンマー呼ばわりされたウィルでしたが、 聞かぬ素振りを決め込んでいます。
「そして、お前がセネルだ」 「・・・ええッ!? 俺(主人公)がウィルじゃないのか!?」 「お前もう1回ニューゲームしてこい!!」
メガネハンマー・ウィルが超高速で、 異次元から取り出したコントローラを投げつけました。
シリーズ初、それは史上最大の間違いでした。 プレイヤーは、戦闘中、どこをどう取り違えたか、 主人公(セネル)の名前をウィル、メガネ親父(ウィル)の名前をセネルだと勘違いしていたのです。
つまり回復術ファーストエイドは主人公ではなく、延々とメガネ親父にかけられていたわけで、 (自分で自分にファーストエイド状態となり、) 主人公くんのHPが回復されるわけがないのでした。
開始1時間でようやく気付いた、重大問題です。
「・・・で、クロエって誰?」 「取説を読め!」
ウィル(覚えました)はまたも高速でレジェンディアの取り扱い説明書を投げつけます。 マッスル親父はウィル、半身タイツの女の子はクロエ、白タイツ主人公はセネル、とばっちり書いてあります。
「だって全員3文字な上に、女か男か、ぱっと分からない名前だし・・・」 「文字数の問題なのか、それ?」 「ウィルって主人公っぽい名前だし」 「そんなこともないと思うが・・・」
セリフを何度かすっ飛ばした経験を持つセネル(プレイヤー)、 クロエがクーリッジと呼ぶ意味が分からず、誰のことを言っているのか見当付かなかったようです。
「よし、メガネはウィル、リボンの騎士はクロエ、そして主人公はセネル・・・」
呪文のように繰り返し暗記を始めるセネル(プレイヤー)の背中に、 普通、主人公の名前忘れるか? と冷たい視線を送るパーティーメンバーたちでした。
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「おい、ノーマって誰だ!? マッスルハンマーのことか!?」 「まだ覚えてなかったのか!?」 「えーと、何してんの? あれって何の話?」 「・・・知らない方がいいぞ」
そしてさらに数分後、 水晶の森でミーハー娘(3文字)が仲間に入った一行の間に、再び、 ”誰が誰だか分からない症候群”が発生することは、ほぼ必然だったのです。
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