橋本裕の日記
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少し前に、一泊二日の旅から帰ってきた。宿は昼神温泉の近くの阿智村のペンションである。そこに文学を愛好する同人誌のメンバー数人があつまった。
緑と花に囲まれ、家族的な雰囲気の宿で、前田さんと奥さんの心ずくしの手料理を食べながら談笑していると、いつか時間を忘れていた。たのしいひとときだった。
宿は見晴らしのよい高台にあり、そこから周囲の山や川が見えた。山と里はすでにコスモスが咲き乱れて秋の気配。それもそのはず、暦の上ではもう10日も前から秋なのだ。
秋きぬと目にはさやかに見えねども 風の音にぞ驚かれぬる
住の江の岸による浪よるさへや 夢の通ひ路人目よくらん
古今集にある私の好きな歌。作者は藤原俊行で36歌仙の一人。秋の歌、恋の歌に秀歌が多い。こうした歌を口ずさんでいると、本当に日本語は豊かで、繊細で、美しいなと思う。
詩人の新川和江さんの『ことばの森へ』から、印象に残った一節を引用しておこう。
「わたしは辞書を引くとき、森に花摘みに出かけていく童話の中の少年少女のように、いそいそとした気分になります。美しい花や、まだ見たこともないめずらしい花が、森にはたくさん咲いています。おいしい木の実がこぼれているかもしれません。日に幾度となくことばの森へ出かけていきたくなったとしても当然でしょう」
「いきなり、森の真ん中に入っていって、五分でひきあげてくることもできますし、一日ゆっくり未知の世界を散歩することもできます。すぐに通りぬけてしまう町外れの森や林と違って、なにしろ言葉の森は、この地上のどこにもないくらい、深く大きく豊かなのです。ことばの一つ一つを発音しながら歩いていけば、数千数万羽の小鳥たちの楽園にふみこんだ心地がします」
辞書の中で眠っている美しい言葉たちを、眠りから覚まして生き生きとした魂を吹き込み、表現という広い大地に自由に羽ばたかせてやれたら、それはどんなに素晴らしいことだろう。
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