橋本裕の日記
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| 2001年08月24日(金) |
「共生なき競争」の世界 |
シャーレの培地の中に細菌を移植すると、一時的に繁殖しても、やがて栄養を食べ尽くして死滅する。その際に、共食いが生じたり、一斉に自ら毒素を出して、集団自殺のようなかたちで死滅することもあるらしい。
こうしたことは人工的環境ではごく一般的なことで、試験管の中にA,B,C,D・・の何種類かの微生物を入れたとき、そのなかで最強のAが他を駆逐して残っても、最後にはAそのものも生存条件を奪われて死滅することになる。
人工的な環境と違って、自然界ではA,B,C,D,・・など多種多様な生物が、それぞれ補食関係を構成しながらも生き残り、子孫を絶やすことはない。自然界は非常な多様な種が無数に存在し、関係しあう「複雑系」をなしている。そしてこの多様な豊穣性が、生物の「共生」を可能にしている。
人間世界もそこには様々に異なった人種や思想信条を持った人々が共存する「複雑系」である。また、人間世界はさらにそれを包摂する自然界の一部であり、私たちはこうした多様な自然と生命の恵みに支えられて生きている。
しかし、人間はややもすると、単純な原理によってこの世界を割り切り、支配しようとする。その最初の現れが一神教であろう。「産めよ、増えよ、地に満ちて地を従わせよ、海の魚、空の鳥、地の上を這う生き物をすべて支配せよ」という「旧約聖書・創世記」の言葉はその力強い宣言である。
やがて自然科学が興隆し、18世紀に入り産業革命が成功すると、人間の自然に対する支配はさらに加速された。そして21世紀を迎えた私たちの前にある自然は、いたるところでもはや原形をとどめないほど無残に破壊されている。
世界の人口は1600年には5億、1830年には10億、1900年には15億人ほどだったと考えられている。それが21世紀を迎えた今は60億人である。わずか100年間で4倍に増えている。人口の増加につれて、環境破壊が進み、この一世紀で4分の1の生物種が滅びたという報告もある。
人類は今や遺伝子の本体であるDNAの構造を解明し、生命現象そのものを自らの支配下におこうとしている。まさに神のように自由で、強力な存在のように見える。しかし、人類のこの繁栄が永遠に続くと考えるのはあまりに楽観的というべきだろう。
人口の増加につれて、破壊されたのは自然だけであろうか。世界一豊かだといわれる日本の社会で、毎年3万人以上の人が自殺している。学校では登校拒否やいじめが横行し、鬱病や精神異常、凶悪犯罪もじりじりと増加している。厚生労働省への児童虐待の相談件数は90年の約1100件から10年で10倍以上、夫婦間の暴力事件は3倍に増えた。警察へのストーカー被害相談も97年から3年間で4倍増だという。
今私たちの目の前にあるのは、「競生」と「凶生」と「狂生」の世界ではないのか。私たちは他者の生存条件を奪ことで、自らの環境を貧しいものにしつつある。こうした愚行が行き着く先がどのようなものであるか、「共生なき競争」の不毛さは今や誰の目にも明らかではないだろうか。
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