橋本裕の日記
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2002年01月02日(水) 明るいほうへ

 大晦日の夜に、DVDで「金子みすゞ」の生涯を描いた「明るいほうへ、明るいほうへ」というTVドラマを見た。金子みすゞは私のもっとも尊敬し、愛惜する詩人だし、主演は私の好きな松たか子である。

 放送を見損ねた私は、DVDが発売されたと知って、30日にさっそくインターネット(アマゾン)で注文した。驚いたことに、それが翌日には届いた。しかも、送料なしである。インターネットはすばらしい。

 そんなことはともかく、作品の出来は思った通りだった。松たか子はNHKドラマで「櫂」を見ていらい、その実力を買っている。時代背景も「櫂」と同じ、大正・昭和ということもあり、大いに期待したが、まさに期待にたがわない好演だった。題名になった、金子みすゞの詩を引用しておこう。

   明るいほうへ

  明るい方へ
  明るい方へ。

  一つの葉でも
  陽(ひ)の洩(も)るとこへ。

  やぶかげの草は。

  明るい方へ
  明るい方へ。

  はねはこげよと
  灯(ひ)のあるとこへ。

  夜とぶ虫は。

  明るい方へ
  明るい方へ。

  一分もひろく
  日のさすとこへ。

  都会(まち)に住む子らは。

 DVDには特典として、松たか子へのインタビューや、長峰由紀アナウンサーによる詩の朗読、関連書籍の紹介などがある。なかでも、この作品の監修者で、みすゞの発見者である童話作家・矢崎節夫氏が自ら語る、「金子みすゞ甦りの軌跡」がすばらしかった。

   大漁(たい りょう)

  朝やけ小やけだ
  大漁だ
  大ばいわしの
  大漁だ。

  はまは祭りの
  ようだけど
  海のなかでは
  何万の
  いわしのとむらい
  するだろう。

   星とたんぽぽ

  青いお空のそこふかく、
  海の小石のそのように、
  夜がくるまでしずんでる、
  昼のお星はめにみえぬ。
    見えぬけれどもあるんだよ、
    見えぬものでもあるんだよ。

  ちってすがれたたんぽぽの、
  かわらのすきに、だァまって、
  春のくるまでかくれてる、
  つよいその根はめにみえぬ。
    見えぬけれどもあるんだよ、
    見えぬものでもあるんだよ。

 矢崎さんは、「金子みすゞの宇宙」という言葉を使う。彼女の残した百数十篇の詩は、どれも夜空の星のように光っている。それはひとつの、広大無辺な宇宙だというのだ。そして、その中心にある巨星が「大漁」の詩だという。

 大漁で湧く浜辺、そのにぎわいと対照的に、海の中では何万ものいわしのとむらいがなされている。矢崎さんは学生時代に岩波文庫の童謡集の中にただ一編だけ収められていた金子みすゞのこの詩に出あって、彼女の存在をしる。

 こんな深い眼差しをもったやさしい詩はこれまでみたことがなかった。この詩を見たとたんに、童謡集に収められていた他の何百篇という詩がいっぺんにかすんでしまったという。

 もし、この詩が矢崎さんの目に留まらなかったら、おそらく金子みすゞは世に出ることはなかっただろう。もちろんこのような感動的なドラマが作られることもなかった。26歳で夭折した金子みすゞのかなしい魂も、これで迷わず天国へ行けるのではないだろうか。合掌。

(参考) 金子みすゞの世界


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