橋本裕の日記
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2005年01月17日(月) サバイバルという言葉

 昨日の日記で何度か用いた「サバイバル」という言葉について、岡本三夫(広島修道大学法学部教授)さんから、数回に及びメールで丁寧に教えていただいた。要点は岡本さんの次の言葉に要約される。

<今回のエッセー中でお使いになっている「サバイバル」という言葉ですが 「サバイバル・ゲーム」のような特殊な場合は別ですが それ以外のときは 単に「生き延びること」の意で 「競争」の意味はないと思います>

 岡本さんはヨーロッパを中心に海外の大学での教授歴が長く、英語、ドイツ語については読み書き自在という方である。このあと、様々な辞書の用例も示されて、サバイバルという言葉に、競争という意味がないことを明らかにしていただいた。

 たしかに英語のサバイバルには本来的に競争という意味はないようだ。しかし、手元にあるCOBUILD英英辞典(Helping learners with real English)を引くと、<manage to live> とある。

 現代では一般的に、ただ「生き延びる」のではなしに、困難な状況を「やりくりして生き残る」という意味で使われているようだ。さらに今日の競争社会においては、「やりくりして」のなかに、「生存競争をしのいで」というニュアンスが少しずつ濃厚になってきているのではないか。

 たとえば、2004年5月にアメリカ兵の虐待問題について、アメリカ議会の公聴会で証言した直後の13日にイラクを訪れたラムズフェルド国防長官が、アメリカ軍兵士を前に、辞任要求を掲げる新聞への対抗心をむき出しにして、勝ち誇ったように、「私はサバイブした」と英語で語っていたのが印象に残っている。

 私の英語の参考書の一冊に、「理系のためのサバイバル英語入門―勝ち抜くための科学英語上達法」(ブルーバックス)がある。著者は、東大サバイバル英語実行委員会で、東大工学部の西村肇、小宮山宏、斎藤恭一など。ここにも「競争に勝ち抜いて生き残る」というニュアンスが感じられる。東大生に大人気だそうだ。

 三省堂の英和辞典には、「滅亡、死亡を免れて生き残ること」とある。さらに、講談社の「カタカナ辞典」で「サバイバル」を引くと、次のように書いてあった。
�’�烈な競争を勝ち抜くこと
��危機的な状況を乗り越えて生き残ること

 適者生存を英語で the survival of the fitest という。たしかに、もともとに英語には「生き残ること」という意味しかなかったのが、競争社会の到来とともに「競争を勝ち抜いて」というニュアンスが次第に色濃くなって行ったのだろう。

 最近では「サバイバル社会」という表現もよく目にする。ゴーグルで検索してみると、500件以上のヒットがあった。ほとんどが「弱肉強食のサバイバル社会を勝ち抜く」というふうな表現で使われている。

 私はこれまでサバイバルという言葉が嫌いで、サバイバル社会という表現も滅多に使わなかった。昨日の日記ではこれを批判する意味で、いつになく多用してしまった。いささか世間の風潮に流されていたようだ。

 結論として、岡本さんの助言はもっともだと思われたので、「命と命がサバイバルする社会」を「命と命がサバイバルをめぐって抗争する社会」に訂正した。さらに、「サバイバルの舞台」を「サバイバル・ゲームの舞台」、「サバイバル主義」を「サバイバル至上主義」に訂正することにした。

<それでは、私たちはどうすべきか。新しい文明を構築することである。それは、世界をサバイバル・ゲームの舞台にしないような文明である。人生を単なるサバイバルのための舞台にしないような、しなやかでやさしい文化である。>

<戦争や紛争、犯罪はサバイバル至上主義の文明がもたらした悪しき産物である。私たちはいまやもてる叡智の限りを尽くして、命と命がサバイバルをめぐって抗争する社会から、命と命が支え合い、共生する社会へと、私たちの生きる仕組みを変えていかなければならない。残された時間はもうほとんどないのだから>

 これでかなり改善された。カタカナ英語は充分な注意が必要だ。岡本さんのご指摘は<正確な日本語>を書くために、たいへん参考になった。これからも御意見やご教示をいただければと願っている。今後の教訓として生かしていきたい。

 なお、岡本三夫さんは「日本平和学会」の理事で、前会長でもある。日本の政治と平和の問題について、国際的な視野に立った研究をされていて、「平和学―その軌跡と展開」などの著書や、「暴走するアメリカの世紀―平和学は提言する」ポールロジャーズ (著)などの翻訳もしてみえる。すぐれたHPをお持ちなので、アドレスを書いておこう。
http://www.law.shudo-u.ac.jp/users/okamoto/index.html


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