橋本裕の日記
DiaryINDEX|past|will
3日後の日曜日、課税科の役人は再び数学者の家を訪れた。数学者に出された地理の問題をこの3日間考えてみたが、どうしても分からなかった。その答えを聞こうと思ったのだ。
数学者は役人がまた税金の話できたのかと不機嫌だったが、そうではないと知って顔をほころばせた。そして、「これから君に手品をおめにかけよう」と言って、一円玉と五百円玉を財布からとりだした。
数学者は役人の見ている前で、紙の上に一円玉を置き、その輪郭を鉛筆で描いたあと、ハサミで切って、紙に一円玉の穴を開けた。
「一円玉はこうして穴を通り抜ける。これは当たりまえだ。問題は、五百円玉がこの一円玉の穴を通り抜けることができるかどうかだ。もちろん紙を破ったりしてはいけない。君はどう思うかね」
「それは無理でしょう。一円玉の穴に比べて、五百円玉の直径は大きすぎます。でも、念のために、やらしてください」
役人は穴の空いた紙を受け取り、五百円硬貨を通そうとしたが、やはり無理だった。数学者はその様子を笑いながら見ていた。そして、役人から紙を受け取ると、その紙を二つに折って硬貨を挟んだ。穴から硬貨の一部が見えている。
「いいかね。今から僕がおまじないを言うからね。そうしたら、硬貨がこの穴をくぐり抜けて、下に落ちる。君は手でそれを受け止めてくれ」
数学者は「コロンブスの卵」と口に唱え、折り曲げた紙の端を少し動かした、そうすると、穴の口が拡大して、五百円硬貨が下にすとんと落ちてきた。
「どうだね。できそうにないことでも、発想を変えるとできることがあるんだ。不可能とあきらめてしまってはいけない。地球上で南東北にそれぞれ100キロメートル移動してもとに戻る場所を探す問題も、その気になって頭を使えば、君にだって解けるよ」
「そうでしょうか。3日間も考えましたが、どうしてもダメでした。いまはもう、答えが知りたくてたまりません」
「南東北に100キロメートル移動してもとの地点に戻るためには、何が必要かということだよ。行程を3つに分解してみよう。
�‘遒烹隠娃哀�ロ移動、A→B ��東に100キロ移動、B→C �K未烹隠娃哀�ロ移動、C→A
さて、これを整理すれば、A→B→C→A、ということになる」
「ちょっと考えさせて下さい。そうすると、問題は�△裡蔵�Cにありそうですね。つまり、100キロメートル東に移動したときに、もとの位置に戻っていればよいわけだ。そのとき、A→B→B→Aになります」
「その通りだよ。そうすると答えはどうなるのかな」
「100メートル東に移動してもとに戻る場所は、たしかにありますね。それは一カ所ではなく、ある特定の緯度のところにできる円周上の点がすべてそうです。答えはそうした円周から北に100キロメートルの地点にある緯度にできる円周ですね」
「そうだね。ここでひとつ補足しておくと、東に100キロメートル移動してもとに戻る円周の長さは、なにも100キロメートルでなくてもよいということだ。その1/2の50キロメートルでもいい」
「2回転、3回転してもいいのですね。100キロメートルの1/3でも1/4でもいいわけだ。そうすると答えも地球上の等緯度に描かれた無数の円からできていることになります」
役人は3日ぶりに問題が解決してほっとした。そして数学者の奥さんが運んできた紅茶をうまそうに飲みながら、「数理パズルも面白いですね。他にどんな問題をご存じですか」と訊いた。数学者はすでに次の出題を考えていたらしく、
「ここにある立体がある。上から眺めるとそれは○に見える。そして二つの側面から眺めると、それは△と□に見えるんだ。さて、その立体はどんな形をしているかな」
「円柱は○と□ですね。これに△が加わるわけですか」
役人は数学者から紙と鉛筆を借りて、いろいろな立体を描いてみた。しかし、容易にその立体は見つからなかった。
|