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- [2004年01月20日(火)] 蒼海に浮かぶ、紅涙の月 序幕
その出会いは月の光の中でなされた。
綺麗な満月の下で、全てが凍りついたような静かな夜に。
蒼海に浮かぶ、紅涙の月
序幕「残酷な出会い」
森の奥のにある草原。なだらかな傾斜を描くそこが、シンジのお気に入りの場所であった。
ここではどれだけ泣こうが叫ぼうが、誰も干渉しては来ないから。
ここには彼を苛める者も、彼を虐げる養父母もいないから。
たった一人だけの世界。
淋しくないといえば嘘になる。実際に寂しさのあまり泣き出したこともある。
でも。それでも。
他の誰かに傷つけられるよりは遥かにマシだったから。
「妻殺しの息子」
この枷はまだ幼いシンジにとって、とてつもなく重い十字架であった。
しかしそれからシンジを守るものは誰もおらず、故に彼はこの世界から隔絶された世界へと逃げ込んだ。
それがほんの一時のことであったとしても、彼にはそうすることしかできなかったから。
気がつけば辺りは暗くなっていた。
帰らなきゃ。
シンジはそう思い、のろのろと立ち上がる。
温かく迎えてくれるわけではない。それどころか、シンジの自室は離れのプレハブ小屋であり、食事の時以外にほとんど顔を合わすことさえない。
しかし幼いシンジにはあそこに帰るという選択肢しか持ち合わせていなかった。
あの家を出る、という考えさえ浮かばない。
良くも悪くもシンジの世界は狭い。家と、学校と、この草原と。
ふと顔を上げたシンジの目に、一人の女性の姿が映る。
金色の髪の毛を揺らし、ゆらゆらと俯いて歩く様はどこか寂しげだった。
全身に月の光を浴びるその姿は、幽鬼と呼ぶにはあまりにも存在感がありすぎて、しかしこの世のものとは思えないくらい幻想的で。
その女性がシンジの姿を捉える。たった今気付いたような感じ。でも、そこにいて当然といった風情。
こちらを向いた女性と、目が合う。
その瞬間、
音が消える。
せわしないセミの鳴き声も、
風が揺らす木々のざわめきも、
自分の鼓動の響きさえも。
シンジは女性の瞳から目を離せなかった。
その色はシンク。
血のような鮮血の紅。三日月のように深淵の紅。
深い悲しみの果てのような紅い瞳から目が離せなかった。
ゆっくりと一歩一歩シンジのほうに近づいてくる。
身体が金縛りにあったように硬直し、呼吸をすることさえ困難になる。
それでも瞳は一心に、こちらに歩み寄る女性の姿を追う。
――僕は、この女(ひと)を、知っている?
見れば記憶に残らないはずのない、初めて会うこの女性を。
シンジの体の中の、遺伝子よりもっとずっと深い何かが、そう囁く。
「貴方、名前は?」
いつのまにか目の前に来ていた女性が問い掛ける。
「シンジ。碇シンジです」
初対面では必ずあがってしまう少年が、どもらずに自分の名前を女性に告げた。
――まるで僕じゃないみたいだ。
シンジの中の冷静な部分がそんなことを考える。
「ふぅん」
女性はしかし、興味なさそうにシンジを頭のてっぺんからつま先まで眺めると、シンジの首元に顔を近づける。
ぺろり。
女性の舌がシンジの首筋を舐める。
その瞬間、シンジの身体に電流が走る。
それは快感。それほどまでにそれは甘美だった。
女性は顔を顰めた。
何かを確かめるようにシンジの瞳を覗き込む。
紅い瞳いっぱいにシンジの顔が映っている。
――この人はなんて悲しそうな目をしているのだろう。
やがて何かを確認したように、頷く女性。
次に見せたのは笑み。
この月夜の下で見るにはもったいないほどの太陽のような微笑みは、少年の心を魅了して止まなかった。
彼女の、次の言葉を聞くまでは。
「貴方は私を殺す。ただそのためだけに存在するの」
それが碇シンジと真祖の姫君、アルクェイド・ブリュンスタッドとの出会い。
悲しいほど残酷で、無情なほど優しい出会い。
見届けるのは蒼海に浮かぶ月のみ。
真円を描く物言わぬ月は、俯瞰し何を思うのか。
答えは――――出ようはずもない。
うぇーっと、なんとなく「日記書いてねぇなぁ」とか思って載せてみました(爆)。
校正も推敲もしていないので、人目に晒すのは恐縮ですが、これを読みに来てくれたどこかの誰かの為に。
一応あと一話は書いているんだけど、続きを書くつもりはさらさらありません。というかあらすじが、「最後の瞬間に秋葉を選んだ志貴。彼が死んで悲しみに暮れ、世界をさすらうアルクェイド。そんな中、彼女は自分を殺せる存在――シンジと出会う」って感じなんです。
これを書いたのはゲームを書く前で、ゲームやってから知ったんですが、「遠野家シナリオにアルクェイドは背中しかでねぇ!!」ってことで、ぼじゃーんです。はい。
つーわけで気が向いたら残りの一話も掲載するかもしれませぬ。