Love Letters
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かつて結婚していたあの人が
突然家に来ました。
あの頃の暴力をまだ身体で覚えているというのに、
どうしてあの人を家に上げてしまったのか。
年月が人を変えると錯覚した私が迂闊でした。
家へ来た時のあの人は
弱々しい哀しい目をしていたから、
私は家の中に招き入れずにはいられなかったのです。
それに、
私と別れた後に付き合い始めた彼女と
まだ続いているものだと思っていたのです。
もし彼女に振られた直後だと知っていたら、
決して家に入れたりはしなかったでしょう。
子供達はそれぞれの部屋に居ました。
夕食のおでんの残りがあったので、それを出すと、
あの人はあの頃のように
「いただきます。」も言わず、
無表情で平らげました。
食べ終わった後、
あの人が少しずつイライラしてくるのが、
恐ろしいほどにわかりました。
頭の中に過去の恐怖がフラッシュバックして、
あの人にも聞かれてしまうのではと思う位、
動悸が激しくなっていました。
別れた後、
私と子供達があの人無しで
穏やかな生活を送っていることが恨めしかったのでしょう。
あの人は冷たい表情を私に向けると、
別れた彼女に対する憤りの言葉を
荒々しくぶつけて来ました。
それは私が別れて欲しいとあの人に告げた恐怖の時間を
思い出させるものでした。
以前生活を共にしていた時、
あの人の激しい怒りを鎮めるものは、
あの人を疲れさせ、そのまま眠りにつかせるような
愛情のないSexでした。
あの人との生活では、
暴力の延長線上にSexがあるような感じでした。
もはやそれが無理であることがわかると、
あの人は近くにあった新聞紙を丸めて、
私の頭の上に何度も振り下ろしました。
本当は素手で殴りたかったのでしょう。
子供達が起きている時間だったので
それは出来なかったのだと思います。
痛みはなくても
恐怖感は素手で殴られるのと全く同じでした。
むしろ
エスカレートしていくあの人の怒りが
余計に恐ろしく感じられました。
様子がおかしいことに気づき、
子供達がリビングに来たので、
あの人は我に返った様子で家を出て行きました。
丸めた新聞紙で殴られた位では
警察に通報することなど出来ないでしょう。
ましてあの人は
可愛い子供達の父親でもあるわけなのだから。
あの人が帰った後、不意に涙が零れたけれど、
あなたに連絡することはしませんでした。
抵抗もせずに屈辱に耐えていた
惨めな私を知られたくなかったから。
0574 W.S.R
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小夜子
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