イヴ
 イヴなのに、いやイヴだからこそ色んな事情が重なつた。

 母の病が一つだけでは無い事を忘れて居た事を思ひ出した。
 半年前には僕は彼女の胸の病では無く轉移したものについて案じてゐた事を思ひ出した。
 忘れて居た、といふのも實は違ふ。考へたく無かつたのだ。是以上誰かを失う事について考へたく無かつた。彼女はずつと僕の傍に居てくれるものだと思ひたかつた。
 自分から傍を離れたくせに今も僕は我儘に彼女の生を渇望してゐる。

 「君、何か僕に言ふべき事が無いか?」と、親友に詰問された。彼に言ふべき事なんて山積みになり過ぎてどの事を指してゐるのか全く見當もつかなかつた。
 怒つて居る彼が何を僕に言はせたいのか、何について僕に怒りを感じてゐるのかさえも全く判らなかつた。
 「愛想盡かしていい?」こんな遣り取りで僕等の友情は途絶えてしまふのか。

 「アタシを助けて!」
 ずつと幼馴染が僕にそう謂ひ續けてゐた。メールも電話の着信も全て彼女で埋まつた。
 助けを求めてゐる筈の彼女は別れる筈の彼氏の部屋でもう何日も彼氏と喧譁中だ。
 僕の言葉が君に屆かぬと僕に思ひ知らせたのは君自身なのに君はそんな時にだけあくまでも君の味方をする存在としての僕を欲するのか。

 止まぬ雨は無い。明けぬ夜は無い。
 だから、僕は大丈夫。今でもちやんと笑へるから、僕は大丈夫。
2002年12月24日(火)
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