傳言
 傳へたい事があつたから、僕は虚構の世界を構成する駄文の合間に言葉を次々潛り込ませた。
 あの頃は彼が、女性にしか見え無い彼が居たから僕は傳へたい事が山程在つた。口頭で傳へる譯にはいか無かつた。彼は隱喩を好み、美しく儚いものを愛しこそすれ、直接意思を傳へる下品な遣り方を好ま無かつたから。

 あの頃は彼が居た。
 下品な原色遣ひの衣服を嫌い、淡い色合ひの物を好み、枯れても萎れぬ薔薇を愛し、薔薇の如く見目麗しい自身に醉い癡れる彼が。

 あの頃は居た彼はまう居無い。
 傳へたい事はまう傳へ終えた。
2003年05月28日(水)
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