2002年05月15日(水) ピアノ


ずっと昔、幼稚園のころ、私はピアノを習っていた。
母が好きだったピアノ。
私の意思を尊重してくれる母にしては珍しく、
母の趣味で通わされた習い事だった。
母はきっとピアノが上手になって欲しかったのだろう。

けれど、私はいっこうに上手くならなかった。
ピアノ教室のみんなのリズムの難易度が上がって行っても、
私だけ「ズンチャッチャ」という簡単なリズムで弾いていた。
当時は私もみんなも幼かったから良かったけれど、
今だったら私はきっと教室に行かなかっただろうし、
みんなはきっと私をばかにしただろう。

母は「かわいそうなことをしたと思うよ」とこぼす。
祖母は「付き添いで行ったとき、ずいぶん下手だと思った」と言う。
私だっていやだった。
ピアノ教室なんか大嫌いだった。
弾けども弾けども上手くならないし、
楽譜も素早く読めないし。

おうちで母に無理やり練習させられたこともあった。
夜遅くまで、何度も何度も。
私は泣きながら練習した。
音色なんて関係なく、ただ、ミスせずに弾くだけ。
あれほどつらかった音楽は他にない。
やっとその曲が弾けたとき、私は泣いた。
けれど、それは「やっと弾けた」という
嬉し涙だったのだろうか。
それとも、「もう練習しなくていいんだ」という
安堵の涙だったのだろうか。

ピアノの才能はまったくなかったけれど、
私には歌の才能と絵の才能があった。
いや、それが才能なのかは分からない。
ただ、好きなだけ。
それでも、下手に才能があるだけよりはずっとましだ。
歌うとき、絵を描くとき、私はただ熱中できるから。



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