2001年10月11日(木)
続く続く、長い長い空の色

 無事に都から帰還いたしやした。

 10日早朝。まだ日の出前。
 東京インターを降りたあたしたちは、漆黒の闇と
 折からの雨で、その日予定していた撮影に些かの不安を感じつつ
 とりあえず副都心に向かうべく、車を走らせていた。

 都庁、安田ビル、歌舞伎町、あたしの頭の中には
 ハンティングする前に、しっかりと焼き付けられた
 かつて自分がいた場所新宿の様子を甘く見ていたことを
 思い知らされた。
 小降りになった雨の中、安田ビルの横を走る自分・・・・
 「走る」なんて、いつぶり?
 カメラを構えても、ビル風は小雨さえも弾丸にする。
 自分の身体もそうだけど、このままではカメラがやられる。
 どんなに屋根のある処に入っても、降り込んでくる雨粒は
 あたしの、どこからか湧き出てくるかも分からない
 奇妙な「ハイテンション」を悉く潰していった。

 ここにいてもダメだ。
 とりあえず、雨が止むのを待とう。

 そう言って、青梅街道を少し下ったところ(中野・荻窪方面)にある
 ファミレスで食事をとり、
 そのまま駐車場で、しばらく仮眠をとることにした。

 冷え切った身体は、温かい食事をほんの少し入れたくらいでは
 持ち直さない。弱っていたのだ。
 運転席で、ダーリンがちゃんと眠っていてくれるのだけが救いだった。
 彼にはこれから延々と運転をしてもらわなければならないから、
 休んでおいてもらう必要がある。

 3時間もの間、シートを倒したままでいたが、
 あたしは結局一睡も出来ず、
 そのまま、今日のロケに付き合ってくれるはずだった
 I嬢に連絡を入れ、中止の旨を伝える。
 




1つ、何かが潰された






 そのまま、今度は横須賀方面へと車を走らせてもらう。
 に会うためだ。
 この日のために、あたしは八方手を尽くして、病院の名前と場所を割り出した。
 今、会わなければならない。
 そう思ったのは、ハイテンションが為せるワザだったけれど、
 まるで嵐のように降り続く雨は、あたしを徐々に萎えさせる。

 もってきたプレゼントは、看護婦さんにでも渡せばいいや。
 会えなくても、あたしがここにきたことの証明にさえなればいい。
 会えないかもしれない。
 だって、「来るな!」とあれだけ言われたのに乗り込んでいくのだもの。

 案の定・・・・は消息を絶っていた。
 病室が分からなくても、病棟さえ、フロアさえ分かれば
 そこの看護婦さんをつかまえて言伝できるはず。
 だけど、あたしには直感的に、そうすることが、
 彼女をとても傷つけるようなことのように思えてならなかった。
 ダーリンはもう少し探してみよう、別の処にあたってみよう、
 と、粘ってくれたが、
 あたしの中ではここで完了してしまった。
 これ以上深追いするのは良くない。
 あたしにとっても、にとっても
 良くないことなのだ。

 ふっと、緊張の糸が途切れて、涙が出てきた。
 空が晴れてさえいれば、こんな思いにもならなかったはず。
 どうすることも出来ない今の自分が情けなくて、もう後は泣くしかなかった。
 この時点で、あたしの脳みそと眼球は、24時間フル稼働していた。







また1つ、何かが潰された。







 横須賀から、今度は立川に向かう。
 今朝、撮影の中止を申し渡したI嬢と、せめて食事でもしなければ
 あたし的にはやりきれない(苦笑)。
 彼女とは1年振りに会う。
 1年前にホンモノの彼女(笑)<画像ではなく を見ていて、
 その時から、ちょいと閃くものはあったのだが、
 あたしにとってのその「閃き」は、
 案外的外れでもなく、今回、自分が立てていたプロットが
 より確かなものであったことを確信した。

 彼女のもっている独特の雰囲気、つまるところの「美」を
 あたしがしっかりと生かしきれるかという点については
 はっきり言って、こちらもプロのカメラマンではないので
 保証はできかねるところであるが、
 一創造者として、彼女を捉えるのに
 「文字」だけではとてもたらなすぎるような気がして、
 今回、写真のモデルに・・・・とお願いしたのだ。

 食事をする。
 この時点で、あたしの脳みそと眼球は30時間フル稼働。
 翌日たとえ天気が良くても、彼女をフレームに収めるのに
 荒い言葉が出たり、過酷な要求をするのは
 素人を相手にした場合のあたしのスタイルではない。
 無論、被写体がプロだというのなら
 こっちも、そのプロ根性を試す所存ではあったが、
 如何せん、撮る側も撮られる側も素人というのは
 進行に数倍の時間と余裕がなければならない。
 無理をすれば、必ずどこかにしわ寄せが出てきて、
 それはあたしと同時に、彼女のことも苦しめることに他ならない。









明日も中止っ♪( ̄^ ̄)











 答えを出すのは、案外、すんなりと・・・・。
 何のためにこちらへ出てきたのか( ̄∇ ̄;) 
 大した観光も無しに、ダーリンが黙々と車を走らせてくれることに対する
 罪悪感みたいなものがむくむくと出てくる。
 嗚呼・・・・やりきれない。










また1つ、何かが潰された。












 翌日(11日)は、びっくりするほどよく晴れていた。
 あれだけ、あたしたちを苦しめた雨粒はどこへやら。
 光線の加減もばっちりだ。
 この日、立川(というか、ほぼ府中)を宿にしていたのだが、
 また、新宿に戻ることを決心。
 撮り損ねた風景だけでも、ばっちりと撮ってこようではないかっ!
 こんなに天気がいいのなら、今一度I嬢に泣きついてでも、
 来て頂くところではあるのだが、やめると、あたしが言い出したのだ。
 そのまま、東名か中央道をとれば、確実に速く帰れるところを
 ダーリンにお願いし、首都高をとっていただき
 いざ、再び新宿へ・・・・。

 空気も澄んでいて、絶好の撮影日和だ。

 光線が強めに出ているいい気候だったので、
 車中からでも撮影が可能なほどだった。
 否、車中でないと取れないアングルというのも数枚あって、
 これは自分の中では貴重なものになった。
 専用機材を持っていない、素人カメラマンのあたしに
 こういう写真が手に入るのは
 何をおいても、ドライバーであるダーリンのおかげ。







昨日潰されたものが、1つ1つ戻ってくる感じ・・・・











 正午には、ほぼ自分のプロットに合うアングルの撮りを全て終えて
 お昼は、昔よく行ったお店でランチを食べた。
 その後は、ゆっくりと買い物やらお土産あさりやらをして、
 何となく充足した気分になる。
 そして、全てをやり尽くし帰ろうと戻った駐車場では、
 からの一報が入った。




せっかく来てくれたのにごめん。
今、会っちゃうと、頑張れなくなっちゃうから。
あさみちゃんだけじゃないんだ。
誰とも会ってないんだ。
だから許してね・・・・。




 自己満足・自己完結だったものが、確かなカタチへと変わる瞬間だった。
 このままを訪ねずに帰るのは
 悪いことなんかじゃない。
 そう、自分に言い聞かせてきたものが、
 もっと、ずっと、確かになった。

 これで全て、御破算だ。
 昨日のマイナスが、全てプラスになって、この日返ってきたのだ。


 この日の空は、夕陽が落ちきるまで
 ずっと美しかった。
 雲の形や、青の色、
 表情全てが、あたしの中にあった澱みを
 すっかり洗い流していってくれるような美しさであった。





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 東京には空がない
 と、高村智恵子は言ったそうだけど・・・・。

 東京にも、空はある。

 いくら人が文明を利用し、空に届かんばかりの大きなビルを建設しようと
 開発を積み重ね、轟音で飛ぶジェット機を造ろうと
 東京にも、ちゃんと空がある。
 そんなものでは凌辱できない処に
 しっかりと居座っている。ありがたいことだ。



 それを知るための旅だったような気がする。

 改めて、ありがとう。
 ダーリン、I嬢、バイトでお世話になったママ、A氏、
 そして、お姉ちゃん。

 
 明日から、あたしはまた
 生涯一創作者のもと(笑)がんばれそうです。










追記

 帰って、メールチェックをしていたら、
 あたしのサイトを、きちんと見てくれた上で返事をくれた
 とある方からのメールが届いていた。
 それを見て、感涙したことは必至。

 そう。
 絶賛されれば、裏で同じだけ批判されてもそれは仕方のないこと。
 あたしはどうして今まで、こんなに簡単なことで
 貫かれては勝手に傷ついていたのだろう(笑)。

 このメールをくれた方の日記は、あたし的にはとっても愉快で
 いつも愛読しているのだけど
 自分に宛てられたメールを読むことで、
 この人の、温かさみたいなものを感じることができた気がする。
 この場を借りて、お礼申し上げます。
 どうもありがとうございました。m(_ _)m
 

あさみ


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