東京では珍しくないというものの、今日は熱心に降りましたね。 近所の桜はまだ5分咲き程度だったのでキュッとすぼまった感がありますが (まさに花冷え)、開き切っていた花はさぞ寒かったことでしょう。 一昨日あたりから春休みを狙ったかのような寒波で、 しまいこんだ手袋を思って手を袖のなかにちぢこめたり、 一旦はずしたコートの裏地をまたつけたりしたものです。
ずいぶん前に読んだのでうろ覚えですが、 作家の山本昌代がシンプルな貧乏生活の報告をしていたエッセイで、 「冬の初めに安い綿入れのジャンパーを買う。 それでひと冬過ごして、春が近づくと、だんだん暖かくなっていく気候を見ながら 少しずつ綿を抜いて薄くしていく。 気温が上がってはまた冬に戻ったりするから、 読みを誤って早くに薄くしすぎてしまったときは、 その失敗を身をもって(寒さという形で)感じられる」 といったようなことを書いていたと思います。 ある意味とても高踏的な愉しみかもしれません。
とうとう更新しないまま3月が終わってしまいました。 書かずにはいられない、というものを書く場所ではないので 余裕がないと自ずとほったらかしになってしまうようです。 あ、掲示板もだいぶ前から壊れています。 レンタル元へもつながらないし、直る(直す)見通しもないので とりあえずリンクを切っておきました。あまり使うこともないので。 精力的に更新できるようになったら(…)また考えたいと思います。
その医療施設は、市街地をかなり外れた所、なだらかな丘陵の中腹に建っていた。 丘陵一体は花木の郷として有名な景勝地で、花が咲き始める今頃の時期から 観光客で賑わいを見せる。 それはいいのだが、問題は、ちょうどこの花木と同様に分布するある種の生物(おそらくこの木を食草として依存していると思われるが、正確なことはわかっていない)が、 花が咲くのと同時期に、いっせいに繁殖期に入り始めることだ。 厄介なことに、その生物の雄が空中に撒き散らす精子は、 一部の人間に激しいアレルギー症状をひき起こすのだ。死亡例も少なくない。 精子の飛散状況は、天候にも左右されるが、月の満ち欠けにも影響を受けるらしく、 まだ厳密なデータは出ていない。とにかく、特定の日にいっせいに精子を撒き散らすらしいので、私は理科の時間にビデオで見た「サンゴの産卵」のようなものかとイメージしている。
というわけで。私のようにこの生物の精子に対してアレルギー陽性である者にとって、 麗しい花の季節は、くしゃみと鼻水、目のかゆみや鼻・咽喉の痛みに悩まされる鼻の季節でしかない。 それなのによりによって、この花木の郷にある診療所を例年今ごろになると決死の思いで訪ねるのは、ここの医師がアレルギー症状に対する独自の治療を行っているからである。 独自の治療であって他所でやっていないということは、その効能や副作用について異論が多いのに違いないが、 経口薬だと覿面に気分が悪くなる私にとって、この季節だけ行われる注射を一回か二回受けることが一番楽な方法だった。 症状が少し軽くなるだけにすぎないが、少なくとも帰り道に花見の中心地に立ち寄って、 霞むような花景色とほのかな花の香を楽しんでくる余裕はできるのである。 だから。 行きはよいよい帰りは怖い。ではなくて、 帰りはいいけど行きは地獄である。 畜生なんだってこんなロケーションなんだ…それは多分 アレルギーの元凶がすぐ傍にあるから自然と研究が進んだのだろうけど。 けど、とりわけ今日は。 天気がいい。乾燥している。風も強い。 こんな日にはとりわけ精子がよく飛ぶのだ。 ∴ ∵ ∴ ∵ ∴ ∵ 突然激しいくしゃみの発作が襲ってきて、私は自分の鼻水に噎せ返った。 咽喉と鼻の奥がつうんと痛み、搾り出すように涙が噴き出す。 みるみるうちに視界が霞み、まばたきができなくなる。 これは経験がある…眼の血管がふくれ上がり、眼球が腫れ上がって瞼が下りなくなるのだ。 自分が今どんな顔をしているか、鏡を見なくてもわかる。凄まじい形相だ…。 耳にも閉塞感が襲う。あらゆる粘膜が腫れ上がる。 鼻腔の、咽頭の、気管の内側がふくれ上がって、気道が急速に狭まるのを感じる。 毛穴まで詰まっている気が、する。皮膚呼吸が、できない。 これも経験が、ある。 カラダ中の穴、管になった部分が、 すべて内側に腫れ上がって、 閉塞、 状態、 に、なるのだ。 もう、自分の姿を想像したくない…気分は、 全ての孔に固い泥が詰まったレンコンとでも言えば上等か…。 もう少し、もう少しで診療所に着くのに。 あそこに着いて一発打ってもらえば(…)この危機からはとりあえず解放されるのに。 辿りつけずにここで力尽きたりしたら、と思うとぞっとした。 ぞっとしたのに、感じるのは熱さだけだ。 顔の裏側に狂おしい痛痒が走る。掻き毟りたくなる。 頭の中に鉛がつまったように重苦しく、熱くなってくる。 堰き止められた血が沸騰するイメージが、瞼の内側を駆け巡る。 この症状で死ぬ。と思ったことがある。 こんどこそ、本当に死ぬ、かも。 と思うくらい、苦しい。けれど ここで死ぬわけにはいかない。 行楽客で賑わう花木の郷の真ん中で、アレルギー症状により頓死。 それは嫌すぎる。いや、TPOを問わず死ぬのは嫌なものだが、 ひとが遊びに来る場所で、きれいな花を見ていい匂いをかいで楽しむ場所で 感覚気管が詰まりきった状態で窒息死。それは腹立たしすぎる。 それはいやだ。 いやだ。 い や だ やだやだやだやだやだ… * * * * * ふいに陽が翳った。 すっと大気が冷え、汗が冷え、沸騰していた血が急速に常温に戻っていく。 気温が下がり、湿度が上がると精子の飛散はとたんに鈍くなる。 霞む目で見上げると、厚い雲がにわかに空を、太陽を覆い始めていた。 今日は寒くなると予報があったけれど、まさか、雪雲…? ともあれ天気の変化に助けられた。 私はしびれた脚を引きずって診療所への最後の勾配を登りはじめた。 あと少しだ。 もう少し。 もう少しで楽になる… …え゛? ‐‐‐‐‐‐‐‐ 息を切らしながら辿りついた私の目の前で、診療所の扉は無情にも閉ざされていた。 「定休日」だって? そんな…去年までは平日休みなしだったのに…! そりゃあ油断して確認せずに来た私も悪いが…今年から木曜定休だなんて。 けれど、さらにその隣の張り紙を読んで私は絶句した。 先代の医師が去年亡くなって、以前あった治療は最早なされない由が書いてあったのだ。 * * * * * * * * 呆然と立ちつくす私のはるか上空で、寒気は煮凝りのように固まり、 やがてひらひらと白いものが舞い落ちてきた。 春の雪。 そういえば花木の郷も、遠目に見てまだ蕾はほころんでいないようすで、 道ですれ違う行楽客の表情も物足りなげではあったけれど。 まさかこんなに本気で雪空になるとは思わなかった… さきほど自分を救った?寒気の固まりを 目に見えるもののようにはるかに見上げながら、早くも凍えながら、 今日これからの予定をどうしようかと私は考えていた。
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はい、馬鹿な話でした。書いてあることは嘘っぱちですが、ほとんど体験談です (あまりに日記が書けないので…)。 前半は去年、後半は今年の体験なので、破綻していますが、 花粉症がつらいのは本当です(終了)。
あっという間に上巳の節供も過ぎ。 なんと、2月はほとんど日記を書かないままで終わってしまいました。 ここに書きたいようなことが無かったわけですが、情けない。
雛祭りに蛤を食べそこねたので、その替わりといってはなんですが貝の話を。
図鑑の類はだいたいみんな好きだけれど、 以前お気に入りだったのは、ポケット判の海の生物図鑑。 海にはほとんど行かないので実用品ではなく、ウミウシ類の華麗な姿などがカラーで楽しめる写真集として見ていたのですが、 なりゆきで人にあげてしまったので、また欲しいなんて思っていました。
そうしたら同じ東海大学出版会から、昨年の末に大きな 『日本近海産貝類図鑑』(MARINE MOLLUSKS IN JAPAN)というのが出ました。 世界最大の最新貝類カラー図鑑だそうです。 5106種をとりあげ、カラー写真8200枚だそうです。 「貝殻の特徴だけでなく軟体の形態や色彩がわかる」んだそうです。 ……すてき。 いや、自分では買いません。そんな、専門家でもない人がちょいと買う代物ではありませんが。 誰か買ってくれないかな〜と無駄に夢見るのが楽しいような代物です(笑)。
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