オミズの花道
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『無欲の勝利か怪しい話か』
2003年05月22日(木)


ミナミで働いていると良く道を訪ねられる。
そりゃこんなに沢山ビルがあったら解らないだろうなと、通勤途中の急いでいる時でも、私は割と丁寧に道案内しちゃう方だ。

働いてる私たちも解らなかったりするんだから、遊びに来ている人達ならもっとそうだよね。
代表的なビル、筋の名前が付いているビルならそこそこ解るんだけれども、小さいビルになると殆ど解らない。


で、昨日。

喫茶店で出勤前のお茶を飲んでいたら、隣の席のオジサマが私に道を尋ねて来た。
丁度ネットに繋いでいたからテコテコと検索(サクサクな性能ではないバイ吉君2号)して、オジサマに道案内してあげたのだけれど、いたく感激されて名刺を求められた。

ちょっと戸惑ったがまあいいかとお渡しし、私は自分の店に出勤。
そんな出来事もすっかり忘れていた。
で、店も後半に差し掛かろうと云う11時頃、私は店長に呼ばれて表に出たのだが、ふと見ると、道案内したオジサマが別のもう一人と二人連れで立っている。

『あ、そうそう、このお姉ちゃんや。さっきはありがとうな。助かったで。
 親切に道案内してくれたから1回飲みに来たろ思うて。一見やけどいけるか?』

これにはちょっとビックリ。
店長が良いって言うからオッケーだけど・・・・これはちょっと・・・・っていうか大分困る。
料金を解ってて来るなら良いのだが、後で料金でもめるのなんて嫌だし。
大体道案内する事なんて良くあるから別にいいのに、と思うしね。

まあ・・・・取敢えず今の段階では店客だし、自分の未収さえ無ければいいので入って戴く。
ちょっとこわごわだったのだが、お話をお伺いして行くとかなり美味しいお客様だと解って来た。

と言うのは・・・・座るなりそのお客様の第一声が、
『俺達は貧乏やからな、店長、安くしといてや!』
だったのである。

この瞬間に私は自分で 『こりゃちょっと良い拾い物をしたかな』 と思った・・・・。

土地柄もあるのかどうかは解らないが、大阪の金持ちと言うのは死に金を使わない。
遊びになると尚更シビアで、気に喰わなければビール1本さえ抜かせては貰えないのだ。
その人種の特徴として最初の第一声がこのパターンというのが多く、冒頭のセコイ言葉の割には、最後に出てきた数字に文句を付ける事はまずない。

逆のパターンとして見せ金をチラつかせる人は『必ず』と言って良いほど、支払いの段階で値切って来る。
こういう嗅覚はどうしても女性達皆が鋭くなってしまうから、見せ金の席では酒がピタッと止まる。
それを横目で観察するのも面白かったりするのだが、自分の席では余り有難くない。
水商売とは、意外とこんな心理戦だったりするから面白いんだけどね。


『最近ミナミもうっとおしいなあ。道を尋ねたらすぐ自分の店に引き込みようとしよる。
 そやのにアンタ商売っ気無いなあ。そんなんでホステスとしてやっていけるんか?』

『はあ。息も絶え絶えですが、何とかやってます。 
 商売っ気ですか。余りありませんねぇ。
 マナーの悪いお客様を切る時は容赦なく切りますし、
 同伴ノルマも嫌いな客とはしませんし。
 良くこんな我儘女を雇ってくれてるなあ、
 ってママの事別の意味で尊敬してますよ。』

『はっはっはエライじゃじゃ馬やのう!!おもろいネエチャンや!!』

連れのお客様もサオリ相手に和んでいる。ヨイヨイ。
で、そのお客様同士のコソコソ話を聞かぬ振りで拾って行くと、超有名店の常連だという事が見えて来た。
・・・・こりゃ本当に美味しいかも知れない。だってその店って、うちより高いはずだもん。


顔に出さずに接客を続ける。
羽振りの良さがあるのは良いが、どういう業種の人達か解らないと。

私の嗅覚はヤクザセンサーが付いているのか、銀行員のようなヤクザでもヤクザと解る。
話さずともヤクザ屋さんは目をみるだけで、いやさ町を歩いているだけで解る。
が、このお客様方・・・・その業界ではない。

と、ここで嗅覚は消去法に突入。
サラリーマンではない羽振り、となると自営業。だが不動産、相場師、金融屋ではない。
土建屋でもない、店舗経営でもない、製造業でもない、ビル所有でもない。

言動が相場師のようにやや派手め、
金融屋のような気風の良さ、
だが製造業には無い面倒くさがりな面、
土建屋さんのように着飾らないラフな格好、

・・・・これはパチンコ関係だ。


『お姉ちゃん、ヘネシーあるか?今度女の子連れて来るから抜いておいて。』
私は黒服を呼び、ヘネシーを開ける。
他所の席のお姉様方が興味深そうに見ている。
ここでまた私は店長に呼ばれた。

『水上さん、大丈夫?』
『うん。大丈夫だと思う。』
トイレに行くフリをしたので、通りすがりに言葉を交わす。

『また後で店長も名刺を渡しておいて下さると助かります。』
『え、そんなに美味しい客なの?』
『美味しいかどうかは。思うにパチンコかパチスロか。
 アミューズメント関係なんじゃないかな。』
『そうか・・・・微妙だねぇ。』


で、時間も過ぎ閉店の時間になって支払いがやって来た。
このお客様、ろくに数えもせずに諭吉を私に渡す。間違いねえや。こりゃパチンコ屋だ。
死に金を嫌がる金持ちの癖に金に無頓着なのは、博打業界の特徴だよ・・・・。

『お姉ちゃん、楽しかったわ。また来るで。来てもええか?』

『ああ、勿論です。また是非にいらっしゃって下さいませね。』

『・・・・アンタ変な子やな。俺等を変な客やと思わへんのか?
 こんな店に一見で来て飲ませろ言うて、銭を持っとるかどうかも解らんのに。』

『いえいえ。
 ピラニアが血の匂いに敏感なように、私はお金の匂いに敏感なんです。
 ぷんぷんしてます。愉吉様が団体の時の匂いですね、こりゃ。ははは。』

『ふうん・・・・スーツも着とらんのにな。
 それやから何処行っても胡散臭がられるのや。
 アンタ、何の躊躇いものうヘネシー抜いたな。何でや?』

『ですから愉吉様の匂いが。』

ジャケットを羽織って頂き、お店の外へ送り出す。
店長がおつりを袋に入れて持ってくる。
おつりはしっかり受け取るんだな。さすがだ。


それにしても変な子とは妙な言いがかりである。
今日び道案内したくらいで感激して来るなんて、そっちの方がよっぽど変だ。
まあ確かに近年のミナミはこの客引きのせいで質がぐっと下がって、お客様も歩き難い。
その中で無欲が目立ったと云う事であろうか。良く解らんな。

でもちょっと怪しいかも。う〜ん、なんぞ裏でもあるのかしらん。
余りにも今回のことは美味しすぎるような気がする。


ちょっと警戒している水上なのであった。




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