無責任賛歌
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| 2001年12月10日(月) |
“神様”を読むこと/『SFJAPAN vol.3 冬季号 手塚治虫スペシャル』ほか |
書き忘れていたことから。 挿絵画家の小松崎茂氏が、12月7日、心不全のため死去。享年86歳。 グラビア集や伝記本も持ってて言うのもなんなんだが、私はあまり小松崎さんの絵を「魅力的」と感じたことがなかった。 ある世代以降の人間が、手塚治虫や石ノ森章太郎のいかにもマンガマンガした絵柄を受け付けないのと同様に、小松崎さんの影響を受けて登場して来た次世代のイラストレーターたち、例えば高荷義之氏らに共感はしても、その先駆者たる小松崎さんのメカ描写にはイマイチ入れこめなかったのだ。はっきり言えば、私の子供のころには、小松崎氏の絵はもう充分、「ダサく」なっていたのだ。 小松崎氏がもしも大戦期の軍艦や戦闘機のみを描き続けていたら、こんな印象は持たなかったろう。氏の骨太の線は、過去へのノスタルジイを喚起させるものとしては有効に働いていたからだ。 しかし、正直な話、SFやら未来予想図やら描かれると……ちょっと待てって言いたくなる設定も結構多かったんだよねえ。 だって海底軍艦「豪天」だしなあ。 先端にドリルだしなあ。 地上ならともかく海底でドリル使ったら、船体自体が回転すると思うが。 いくら映画がウソを語るものとは言え、ものには限度ってものがあるんである。野暮は言いっこなしなんて言わないように。まだ熱光線かなにかで岩盤を溶かしていくって設定にしてくれてた方がよっぽど納得いくよ。要するに発想が貧困だってことなんだよね。 過去の東宝特撮、小学生でも分るような設定ミスがやたらとあった。さてこれは小松崎さん本人に責任のあることなのか、それとも東宝の製作部に責任のあることなのか。 どっちにしろ、「そんなに魅力的でない」と感じていた理由、おわかりいただけたであろうか。もちろん、小松崎氏の科学イラストの先駆者としての業績を貶めるつもりはないんだけれども。
具合が悪くなって、仕事を途中で切り上げて帰ることにする。 しげに連絡を入れて1時間早く来てもらい、車のシートを倒して横になると、「自分ばっかり寝て」と文句をつける。 しげは夜が仕事なので、今は昼間に寝ている。 ちょうど私が仕事している間、グーグー寝ている。 しかし、そうなるとつまり、1時間早く来てもらうということは1時間寝る時間を削ってもらってるってことになるわけだ。しげにしてみれば、確かに文句の一つも言いたくなるのだろうけれど、無視して一人でタクシーなんか呼んだりするとそれはそれで機嫌が悪くなるのだ。 素直に感謝したくてもこれじゃなかなか感謝できないよなあ。
腹が減っているので、ともかく栄養を補給したいと、ブックセンターホンダで本を買って、諸岡のロイヤルホストでマカロニとスパゲティのセットを食べる。 腹が満ちると気分自体は少しは落ちついてくるが、今度は胃もたれを感じるようになる。 つくづく難儀なカラダしてるよなあ。
マンガ、高橋留美子『うる星やつら/恋人泥棒』(小学館・300円)。 この雑誌スタイルのコミックス、いちいち感想書いてないけどずっと買っちゃいるのである。ここしばらくは古川登志夫さんのインタビューなんかが載っていたが、今号はメガネ役の千葉繁さん。 ……うわあ、白髪が増えたなあ。 最近あまり声を聞いてない気がするけど、多分もう50歳くらいだろうし、昔みたいなハイテンションな死後とは避けてるのかな。それとも音響監督や演出家としての仕事の方が多くなってるんだろうか。 『うる星やつら』のアニメが原作をも凌駕する傑作となりえたのは、押井守監督と千葉繁さんとの出会いがなければ(『タイムボカン』シリーズで出会ってはいたが)ありえなかったろう。 「アフレコ現場の床には血が飛んでいた」というのは、他のキャストの証言もあることだし、誇張ではあるまい。メガネのあの血管が切れそうな声は、本当に血管切らせながら声を張り上げてた結果なのだ。 『ワンピース』じゃバギーをやってたみたいだけど、できればもっと出番の多い役で出演してほしかったなあ。ウソップの役、昔だったら絶対千葉さんがやってたと思うんである(『幽遊』の桑原にあたる役だもんね)。 若いアニメファンの方々にも、千葉さんの命懸けの演技を今からでも追っかけて、『うる星』中でも傑作の声高い『さよならの季節』や『スクランブル! ラムを奪還せよ!』なんかを見てほしい。役と役者が一体化した稀有な名演がそこにはあるのだ。
『SFJAPAN vol.3 冬季号 手塚治虫スペシャル』(徳間書店・1800円)。 う、うわあ、こりゃすごいぞ! もう、これはプロの作家さんたちによる「手塚治虫同人誌」と言ってもいい。 パロディと言うか、パスティーシュと言おうか、手塚ファンの作家たちによる“新作”小説の数々。 井上雅彦『ブラック・ジャック』(イラスト・小島文美) 太田忠司『W3』(イラスト・あさりよしとお) 大塚英志『ふしぎなメルモ』(イラスト・羽海野チカ) 梶尾真治『鉄腕アトム』(イラスト・村田蓮爾) 草上仁『ミクロイドS』(イラスト・安倍吉俊) 田中啓文『三つ目がとおる』(イラスト・安彦良和) 五代ゆう『バンパイヤ』(イラスト・篠原烏童) 二階堂黎人『火の鳥』(イラスト・大本海図) 牧野修『ビッグX』(イラスト・菅原芳人) 森奈津子『リボンの騎士』(イラスト・多田由美) 山田正紀『魔神ガロン』(イラスト・開田裕治) 若木未生『ルードウィヒ・B』(イラスト・なるしまゆり) 更にはとり・みき、唐沢なをき、水玉螢之丞のマンガ、小松左京、うしおそうじ、校條満、中島梓、池田憲章、米澤嘉博のインタビュー評論、有栖川有栖、上遠野浩平、貫井徳郎、ひかわ玲子、藤木稟、古橋秀之、山本弘、伊藤伸平、草��琢仁、藤原ヨウコウ、星野之宣、安永航一郎、わかつきめぐみのエッセイ、永井豪と寺田克也、杉井ギサブローと富野由悠季の対談、そして、これが一番の大目玉、未完に終わった手塚治虫自身のオリジナル『COM版 火の鳥・望郷編』! 思わずほとんど目次を引用してしまったけれど、そうでもしなけりゃこの豪華さ、とても伝えきれないだろう。
残念なことに、手塚治虫という存在は、若い世代、特に手塚氏自身がターゲットにしていた10代の少年たちにとっては、もはや“神様”でもなんでもない。過去の人、というより、存在自体を知らない者も多いというのが実情だ。 手塚治虫が亡くなってもう12年、その間、手塚治虫の“伝説化”“神格化”は徐々に進んでいった。 しかし、それはたいていシンパの証言によってその偉大さ、ヒューマニズム、未来への視点などが語られるばかりで、その作品自体を鑑賞する機会はかえって減ってきている。 その是非はおくとして、石ノ森章太郎、藤子・F・不二雄両氏の作品が、作者を変え、継続されつづけているのに対して、手塚作品は、『コミック伝説マガジン』の『鉄腕アトム』の例のように、継続性を拒否されている。 作品が生きる、ということは、誰かによって語られる、ということではない、読まれ続けることだ。そして、本当にその作品世界が愛されているものは、作者の死後も数多くのパロディ、パスティーシュを生む。 シャーロック・ホームズしかり、アルセーヌ・ルパンしかり、ジェームズ・ボンドしかり。 なのに結局、手塚作品は神棚の上に飾られたまま、ただ拝まれるだけの存在になってはいなかったか。 そのことを考えると、この本は手塚氏の死後、初めて生まれたと言っていい「手塚作品の新作」なのである。手塚治虫ファンならずとも、これだけ読み応えのある本を見逃す手はないと思うがどうだろうか?
もちろん、全ての作品が傑作、というわけにはいかない。 実はまだ全部読んではいないのだが、読んだ中でも大塚英志の『メルモ』なんかは、作者自身がオトナになったメルモと恋に落ちるという自分の妄想をそのまま引き移しただけの作品で、ちょっと開いた口が塞がらない。 読者が望んでるのは手塚治虫の「新作」「続編」なんであって、手塚ファンのオナニーではないのである。 いみじくも梶尾真治がこう書いている。 「自分だったら、どんなアトムが読みたいかと考えてたら……やっぱり『書かれていたかもしれないアトム』なんだなあ。」 残念ながら、今回新作“マンガ”の手塚作品は一本もない。『コミック伝説マガジン』の轍を踏むまいという配慮が働いたのかもしれない。けれど、例えば今回あさりよしとおが描いた『W3』や『やけっぱちのマリア』のイラストを見て……彼の手になる「新作」を読んでみたいと思った人は私のほかにもいないものだろうか。 手塚信者のヒステリックな叫びは無視していい。 私だって、描かれざる『どろろ』の妖怪退治の旅を、『バンパイア』の続きを、『火の鳥/アトム編』を、『トイレのピエタ』を読んでみたい。 手塚氏の筆によってそれが叶えられないなら、複数の作家によってそれを続行させるくらいの勇気あるエディターがいたっていいんじゃないか。
『NEWTYPE THE LIVE 特撮ニュータイプ No.1』(角川書店・980円)。 モロ、『宇宙船』の二番煎じなんだけれども、氷川竜介氏による「ふしぎの海のナディアに見る特撮魂」などの見るべき労作もある。 ともかく『仮面ライダー』『ウルトラマン』ともに復活を遂げていたからこそ創刊できた雑誌であることは間違いない。2号以降も買うかどうかは分らないけど、1号の印象、そう悪くはない。ライダー、ウルトラマンともに第一作からちゃんとフィーチャーしてあるので、旧作を見てみたいという若い人が増えてくれると嬉しいなあ。
2000年12月10日(日) 外見でしか人を判断できないヤツ/『あずまんが大王』1・2巻(あずまきよひこ)
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藤原敬之(ふじわら・けいし)
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