日々楽しく生きている。

2003年06月27日(金) 現在(いま)ある俺

専門学校の卒業を1週間後に控えた俺は、まだ就職が決まっていなかった。


周りの奴らは既に就職を決め、卒業した次の日から働く予定の奴もいた。


俺は介護施設に就職する奴らを『よくやるよ・・・』と思って眺めていた。


軽蔑の眼差しだったのかもしれない。


『お前ら、よくやるよホント。』


そう思いながら、淡々と卒業までの日を過ごしていた。


将来の不安なんぞ、全く感じずに・・・・・・。







介護の専門学校に入ったのは、介護がやりたくて入った訳じゃない。


資格が欲しかった。


どこに行っても通用する資格。


国家資格。


履歴書にハクを付けたかった。


俺の選んだ学校は、卒業と同時に資格取得というのが大きな魅力だった。


『2年の我慢だ。』














人生をナメている20歳の甘い、甘すぎる考え。























『相坂さん、就職しないの?』


『俺らの中で相坂さんだけだよ、就職してないの。』


級友たちが、俺に笑いながら問いかける。




・・・・うるせーな。


・・・・俺は介護なんてやらねーんだよ。


・・・・俺はデスクワークやるんだから。


・・・・何笑ってんだよ、勝ったつもりかよ。


・・・・これからだよ、これから。


俺は表情では笑っていながらも、心では級友たちを見下していた・・・・。



















『相坂、就職してくれ。』


『はあ!?』


クラス担任に、懇願された。


卒業式があと2日。


もう目前だ。


2日乗り切れば、この腐った学校生活ともオサラバだ。


そう思っていた矢先の事だった。


クラス担任が懇願したのには訳があった。


学校の就職内定率を上げる為だ。


俺が就職すれば、内定率が95%に達する。


これでも年度平均より少なかったのだが、学校側としては、どうしても95の数字が欲しかったらしい。


これからの¨対入学者用¨の売り文句の為に。


理由は分かっていたが、断る理由も無かった。

















・・・・しょうがねえ・・・・。


















『クチ用意してくれてんの?』


『ああ。お前も実習で行ったろ。○○だ。』


『げっ!!○○かよ!?』




○○という施設は、学校の経営者が運営している老人保健施設。


しかも、かなり悪評高い。


実際俺も1ヶ月間、実習に行って嫌というほど見せ付けられた。


もし介護福祉士として働くなら、そこだけは絶対イヤだ!!と思っていた所。


よりにもよって、その施設を紹介しようとしている。


『あそこは嫌だ!!』


『まあ、そういうな。結構良いとこだぞ?』


『全然良くねーよ!あそこは!!』


『それは実習生だからだろ。職員になったら違うかも知れんぞ。』


『違う・・・・・か?』


『見る目の位置が変わるからな。』


『・・・・・・・・・。』


『どうだ?やってみないか?』


『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かった。』













画して俺は¨絶対行きたくない¨と思っていた施設で働く事となった。


だが・・・俺はやはり間違った決断をしていた。









・・・・・・この施設は最悪だ。最低だ。


・・・・・・俺はここで働きたくない。


・・・・・・こんなとこで働きたくない。


・・・・・・介護うんぬんの前に、人間としてここは嫌だ!!!















この施設・・・・・・・・


入所者に対する虐待があったのだ。


実習していた頃から、薄々感じてはいたのだが


それを目の当たりにした以上、こんなトコでは働けない!!働きたくない!!


このままでは、いつか俺も同じ事をしてしまう!!

















・・・・・・辞めよう・・・・・・。




















3日で辞めた。


実際行ったのは初日だけ。


次の日はサボり、3日目で辞表を出した。




















俺が辞めたという事実は、瞬く間に広まった。


『相坂さん、辞めたんだってよ。』


『しょうがねーな。だって相坂だもん。』


『たった3日で辞めたのかよ、根性ナシだな。』


結構、色々な噂があったらしい。あとから聞いた話だけど。

















でも、俺は言い訳しなかった。


虐待があったから辞めた、なんて言えなかったし


どこの施設でも¨少なからずある¨っていうのは知ってたからな。


働いていれば、そういう事にも慣れてきて


段々とその中に染まっていく。


埋もれていく。


そして、何とも思わなくなっていくのだ・・・・・。















・・・・・介護はやらない事にしよう・・・・・・















そう思い、事務職を中心に幾つか面接試験をする。


だが、全て断られる。


理由は


『せっかく介護福祉士の資格持ってるんだから、そっちに行ったら?』


全てこれだった。

















俺は、間違った資格を取ったんだろうか?


2年間も無駄な時間を過ごしたんだろうか?


1ヶ月間、葛藤した。
























ゴールデンウィークも迫ってきた、ある日の夕方。


夕刊広告に¨介護福祉士募集¨の記事があった。


ここでも虐待があったら、もうホントに介護はやめよう!!


そう決意し、面接試験に臨んだ。


















受かった。


















ゴールデンウィーク明けから仕事開始。


虐待はなかった。


3日のラインを越えた。


老人と触れ合う事の楽しさ。


介護を通しての人生の勉強。


いつしか俺は、介護福祉士としての自覚、自信に溢れていった。


そして、そこで現在の妻と知り合う。


妻が言うには、介護している俺が生き生きとして見えたそうな(笑







































あれから3年経った。


あの学校に入った2年間は無駄な時間じゃなかった。


あの施設での3日間もいい経験だったと、今にして思う。


じゃなかったら、現在(いま)ある俺は存在しないから。


まあ、ありがとうと言っておくよ。



























でもね・・・・・・






たまーに会議とかで


介護福祉士として、意見を言ってる自分が


¨介護やらない!!¨


って言ってた頃を思い出して、苦笑したりするけどね(^^



















俺はまだまだ成長する。成長したい!!


人間としても


介護福祉士としても


親としても、夫としても。





















現在の俺は、その為のステップを踏んでいるのだ。


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