|
|
■■■
■■
■ シクラメン
○○学会のリーダーで、
選挙以外でも何かと声をかけてくる、
斜め向かいのおせっかいな奥さんは
あたしが仕事から帰って車庫に車を入れようとすると
たまに、駆け足で飛んでくる。
その日もおしゃべりが面倒くさいあたしは
その場を速やかに立ち去るために
買ってきたばかりの、えいひれを手渡し
愛想のみで、さっさと、家に入ろうとした。
そのお礼にともらった、シクラメン。
あたしの家の観葉植物は、花をつけないものばかりで
白い台所の中で、ピンクの花が、ひと際美しく見えた。
けど、この10日程、あたしは台所に立ち入らず
水をやることをすっかりと忘れていて。
気付いた時には、土は乾き
茎と葉は、枯葉色に変わり
花には皺が出来
大きく手足を広げるような形で死んでいた。
忘れ去られて。
生きる術を失って。
水さえ与えてやれば、死ななかったはず。
そこに放置されて
気づいてもらえなかっただけで。
その死に姿が、悲しくて悲しくて。
慌てて水道水を、乾いた土にぶっかけた。
でも、もう手遅れ。
可哀想だが、手遅れ。
そして、あたしは忘れていく。
人が死んだ時もそう。
恋を失くした時もそう。
悲しみにくれても、
それは人が生きている中では、一瞬のことで
泣きながら、又、日常に慣れていく。
立ち上がれないと思っていても
又、知らぬ間に他の事に夢中になって
思い出にさえもならない。
そうやって、忘れることで
悲しみから逃げていけるんだろう。
死んだことを素通り出来るという、冷たい人が生きていける。
あたしも、素通りして生きてきた。
あたしが一番愛した人は、空にいる。
あたしが見上げるところに、いつもいる。
昼も夜も。
昼は青い空に溶け込んで
夜は月になって、あたしをみている。
この人に恥ずかしくないように、
あたしは生きていかなければならない。
あたしが信念を貫くのは
この人に見てもらいたいため。
そして、いつか会える日に
又、好きでいてもらいたいから。
死ぬことが、怖くないのは
この人がいるから。
あたしのことを
曲がった事が嫌いで、いつも一生懸命だと。
そこが好き、と言ってくれた、あの人がいるから。
今日、死んだと思ったシクラメンは
手のひらを上に、思いっきり伸ばすように生き返った。
あたしは、泣いた。
静かに泣いた。
2004年12月30日(木)
|
|
|