お鍋の中には煮込み途中のシチューがコトコト音をたてている。 わたしはその横で、ハンバーグをじゅうじゅう焼く。 お皿には、マッシュポテトと茹でたブロッコリー。 時計を見ると、もうすぐ彼が帰ってくる時間だった。
わたしと彼が付き合い始めてもうすぐ4年目。 一緒に暮らして、今日がちょうど1年。 柄にもなく、同棲1周年パーティーなんて、企画してみたりして。
ハンバーグを焼きながら、この一年を思い出してみたりする。 よく友達に、仲がいいねぇ。とか愛し合ってるねぇ。とか いわれるのだけど、実際のところそうでもない。
彼の嫌いなところは、この1年で山のように見つけた。 たとえば、冷蔵庫をほんの少し空けたままにするとこなんてありえないし たまに朝歯を磨き忘れていることとか、げんなりする。 びしょぬれで、お風呂上りに部屋をうろうろ歩くのも いくら言ってもやめないし。
わたしが彼に対してたくさんの不満があるのと同じように 彼もわたしに対してあるだろう。 (しょっちゅうぶつくさ言っている)
けどそれでも二人でいる理由は、なんだろう。 それすら許してしまう何かがあるんだろう。
たとえば、彼のそばに漂う空気が好き。 一緒に本を読むだけでなんとなく落ち着く空間が好き。 お腹を抱えて笑うことのできる自然さが好き。 なにより、彼と一緒にいるときの、自分自身が好きだったりする。
あともうちょっとで料理が出来上がるって時に、彼は帰ってきた。 玄関に丸めた靴下を放り投げる。
「それ、やめてってば!」
怒るわたしの声を聞きもしないで 台所に入って輝くような目で彼は料理を見つけた。
「うわー、すげーご馳走!」
喧嘩しては、仲直りをして。 抱きしめあって、罵り合って、傷ついて。 泣いて、笑って、寄り添うように眠って。 君と一緒なら、どんな悲しい夜だって明けるだろう。 君と一緒なら、いつだって新しい朝が生まれるだろう。
「美味そう!美味そう!」
あまりにも嬉しそうに彼が笑うから わたしは怒っているのも忘れて、微笑んでしまうのだ。
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