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スティックドライブの受難
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朝、いつもの満員列車。
ぎりぎり乗り込んだ私の前で、扉は閉まろうとしていた……私のUSBスティックドライブのストラップを道連れに。
不幸中の幸いか、駅のホームにも、ホームと電車の隙間にも落ちずにすんだドライブは、しかしぽとりと床に落ちた。
車内は、朝の私鉄急行上り列車宿命の大ラッシュ。屈むことは愚か、手を下に降ろすこともできない。
視線だけを動かして、ドライブの安否を確認すれば、それは隣のちょっと強面のお兄ちゃんの足元にいた。
このままでは、ドライブは踏まれるのを待つしかない。
バックアップがとってあるとは言え、あれにはサイトや小説の全データが入っているし、まあいいやで諦めるにはちと高い。
困った私はとりあえず、サンダルをこっそり脱いで、足でそれを引き寄せた。
とりあえず、これで当座の危機は去ったわけだが、この先がいかんともしがたい。
次の駅は出口が反対側で、降りる人は然程多くないから、屈んで拾うだけの隙間は出来ない。かといってその次の駅……私の下車駅だ……はこちらの扉が開いて、すごい勢いで人が降りる。屈もうものなら、降りる人の勢いでホームに転げだすのは必至。ドライブは哀れ踏み潰されるか、駅と列車の隙間に蹴落とされるかのどちらかだろう。
思い悩んだ挙句、私はドライブを足で拾ってサンダルの中に落とした。少し大きめでもあるし、あまり繊細なデザインではないサンダルだが、さすがにドライブとストラップが足にあたってひどくごつごつする。
しかし、背に腹は変えられない。万が一他人に拾われて中身を見られでもしたら、一生の恥である。
ともかく危機は去り、私は下車した駅のホームでサンダルからドライブを救い上げることができた。人々の好奇の視線が痛い。
女として、ちょっと何かを捨ててしまった気がするのは気のせいだろうか。
- 聊斎志異(上) (蒲 松齢 立間 祥介訳 岩波文庫)
2003年07月09日(水)
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