もものねこぱんち
春休みの校内は驚くほど閑散としていて、まるで異世界だ。ほんの数週間前までは当たり前の日常がここで繰り広げられていたというのに、この違和感はどうだろう。部活をする連中の掛け声さえもどこか遠くの方から聞こえる気がする。
久しぶりに履く上履きがなんだか窮屈に思えて、踵を踏んで歩いた。
「いよぉ、蓮見。珍しいじゃんお前が休日の学校に来るなんて」
「ちょっとな、鈴木こそなんだよ?」
鈴木は小脇に抱えた参考書類を指して見せた。
「市立の図書館は予備校生とかがいて、なにかと混んでんだよなぁ。変に縄張りみたいなのがあったりしてさ、その点学校はいいぞー。静かだし、広いし・・・場所に飽きたら、別の教室移動すればいいし」
「お前、偉いなぁ。よくそんな勉強する気になるよ」
「何、言ってんだ。俺ら2年だからって余裕ぶっこいてると、あっちゅーまに受験だぜ?今からでも計画立てて取り組まないと・・・そういう蓮見はどうなんだよ?」
廊下を並んで歩いていた純平は少々驚きの色で鈴木を見た。
ホンの少し前まで鈴木は、春休み前に掛け始めた眼鏡のフレームを気にしながら、『眼鏡を掛け出したら、急に女の子達から騒がれるようになった。女心は分からん』と不思議そうに呟いていたのに・・・。
「・・・同じように学校生活送ってんのに、この差はどっから出てくるんだ?・・鈴木、お前、やっぱ偉いって!俺なんて先のこと全然っ頭になくってさ〜。おかげで担任に呼び出しくらう始末だよ」
廊下に上履きのぺたりぺたりという乾いた音が響く。
「案外いい話かもよ?」
「んな分けないって」
「その通りよ、蓮見くん。担任に呼び出されて、いい話だった経験なんて先生の人生にも存在ししないわ」
上履きの音を掻き消して、凛と良く通る担任の杉原の声がした。
モクジ|カコ|ミライ
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睦月
|テガミ