実家で飼っていた鳥が死んだらしい。 紅雀で、名前はクロ。 紅色をしているのはオスだけで、クロはちっとも紅くなかった。 最初の飼い主は母方の祖父。 賑やかなほうがいい、と3ペアも紅雀を買い込む。 かごがせまく、祖母の反対もあり、1ペアをお店に返した。 もう1ペアは、あたしが希望して実家で引き取った。 でも、このこたちはあっけなく死なせてしまって。 残ったのは、クロともう1羽のオスだけ。 クロは、いじめられていた。 翼はゆがみ、羽は抜け落ち。 きっと、毎日つらかったのだと思う。 同居していたオスが、ふとしたはずみで籠を飛び出した。 祖父母が必死にさがしたけど、みつからなくて。 次の朝、店の片隅で死んでいるのをみつけた。 6羽いた紅雀は、とうとうクロ1羽になった。 この頃から、クロは少し元気になった。 祖母いわく、オスの真似をしてさえずるようになったらしい。 それから少しして、祖父母の引越しを機に実家で引き取ることになった。 うちにきたときのクロは、それはそれは痛々しかった。 歪んだ翼からは血を流し、足の指も壊死していた。 長く伸びた爪に、大きく固まった糞が足枷のようで。 見るもの全てに怯え、常に小刻みに震えながら、小さな声で悲鳴をあげる。 はじめはずっと、足音がするたびに悲鳴をあげ飛び回っていた。 しばらくすると少しずつなれて、おとなしくなった。 おそるおそる爪を切り、糞もできるだけ取り除いた。 新しい羽が少しずつ生え始め、キレイな紅色の模様ができた。 クロは、オスだった。 機嫌のいいときはとても良い声でさえずった。 掃除機にも動じなくなり、飛べないクロは歩いて散歩もするようになった。 あたしが家を出てからは、父が可愛がっていた。 ペットの死を悲しむこともできないと思っていた父だった。 餌をやったり掃除をしたり、なんて可愛がり方はできなかったけど。 かわいいなぁ、なんて眺めて。 寒い冬の夜に、籠を窓からはなしたり。 籠にひざ掛けをかけて、最低温度で暖房までつけて。 年取ると寒いんだよな、なんてつぶやいていた。 クロが死んだとき、父は泣いたのだという。 クロはとても幸せだったと思う。 どうか、安らかに。
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