日記。

2004年05月06日(木) クロ。

実家で飼っていた鳥が死んだらしい。
紅雀で、名前はクロ。
紅色をしているのはオスだけで、クロはちっとも紅くなかった。
最初の飼い主は母方の祖父。
賑やかなほうがいい、と3ペアも紅雀を買い込む。
かごがせまく、祖母の反対もあり、1ペアをお店に返した。
もう1ペアは、あたしが希望して実家で引き取った。
でも、このこたちはあっけなく死なせてしまって。
残ったのは、クロともう1羽のオスだけ。
クロは、いじめられていた。
翼はゆがみ、羽は抜け落ち。
きっと、毎日つらかったのだと思う。
同居していたオスが、ふとしたはずみで籠を飛び出した。
祖父母が必死にさがしたけど、みつからなくて。
次の朝、店の片隅で死んでいるのをみつけた。
6羽いた紅雀は、とうとうクロ1羽になった。
この頃から、クロは少し元気になった。
祖母いわく、オスの真似をしてさえずるようになったらしい。
それから少しして、祖父母の引越しを機に実家で引き取ることになった。
うちにきたときのクロは、それはそれは痛々しかった。
歪んだ翼からは血を流し、足の指も壊死していた。
長く伸びた爪に、大きく固まった糞が足枷のようで。
見るもの全てに怯え、常に小刻みに震えながら、小さな声で悲鳴をあげる。
はじめはずっと、足音がするたびに悲鳴をあげ飛び回っていた。
しばらくすると少しずつなれて、おとなしくなった。
おそるおそる爪を切り、糞もできるだけ取り除いた。
新しい羽が少しずつ生え始め、キレイな紅色の模様ができた。
クロは、オスだった。
機嫌のいいときはとても良い声でさえずった。
掃除機にも動じなくなり、飛べないクロは歩いて散歩もするようになった。
あたしが家を出てからは、父が可愛がっていた。
ペットの死を悲しむこともできないと思っていた父だった。
餌をやったり掃除をしたり、なんて可愛がり方はできなかったけど。
かわいいなぁ、なんて眺めて。
寒い冬の夜に、籠を窓からはなしたり。
籠にひざ掛けをかけて、最低温度で暖房までつけて。
年取ると寒いんだよな、なんてつぶやいていた。
クロが死んだとき、父は泣いたのだという。
クロはとても幸せだったと思う。
どうか、安らかに。


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成瀬ルナ [MAIL] [HOMEPAGE]