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| 2002年09月02日(月) ■ |
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| 書けないー。 |
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自分を戒めるため、今書いている台本の一部を乗せておきます。 まだまだ発展途上の本。もし批評などあれば掲示板にお願いします(^^;
『ただ僕が変わった』
#1 最後の夏
――静かな夜。時々、かすかに鈴虫の鳴き声が響くのが、辺りの静寂を一層際立たせている。 場所は、北海道の片田舎、町全体を見下ろす丘の上。 夜空を遮る光は少ないから、星がよく見える。 だから、ここは地元の高校の天文部が、よく観測所と して利用していた。 そんな丘の上に、美聡が一人。 望遠鏡と夜空を交互に眺めたりしている。
美聡 「……こと座のベガと、わし座のアルタイル。そして、二つの星の間を流れる天の川……か」
雅哉が歩いてくる。 美聡は雅哉に気付くが、夜空を見上げたまま。
雅哉 「そんなに星ばっかり見てて、よく飽きないな?」
美聡 「飽きないよ。私、星見てるの大好き。夜空には色んな星座があるから楽しいのよ。……ねぇ、あの星座、なんだかわかる?」
雅哉 「ん? ……どれ?」
美聡 「ほら、あそこ。天の川の中の、十字形に並んでる星座」
雅哉 「うーん……。わし座……かな」
美聡 「残念。正解は白鳥座でした。ほら、ベガとアルタイルの間に流れる天の川に、あの星座があるでしょう? 白鳥の尻尾にあたる部分の、明るい星がデネブで、ベガとアルタイル、そしてデネブを結ぶと、夏の大三角が見えてくるってわけ」
雅哉 「へぇ……なるほどね。さすが、我等が天文部の部長ってことか」
美聡 「まあねぇ」
雅哉 「でも、今日はもう遅いから、また明日にしたらどうだ? 合宿はまだ2日あるんだしさ」
美聡 「うん。でも、もうちょっと。だって今日は特別な夜だから」
雅哉 「ああ、そうか。今日七夕だもんな」
美聡 「そう、七夕。織姫と彦星が年に一度だけ、会うことを許される日」
美聡、しばらく空を眺めている。
美聡 「……ねぇ、年に一度しか恋人に会えないって、どんな気分なんだろう」
雅哉 「そりゃ、寂しいんだろうな。……けど、もう一生会えないよりは、ずっといいんじゃないか? 来年もまた会えるんだから、その日が楽しみになるだろ」
美聡 「えー。私だったら嫌だなぁ。1年なんて長すぎるよ」
雅哉 「堪え性の無い奴だな」
美聡 「だって、学校の授業さえあんなに長く感じるんだよ? それなのに1年なんて、気が遠くなっちゃう」
雅哉 「ははは。言えてる」
美聡 「それにさ、好きな人なら毎日でも会いたいでしょ? それが1年なんて……って思わない?」
雅哉 「そうかな……。やっぱり、寂しいんだろうな。天の川の東と西に別れるなんて」
美聡 「あ、ねえ、そういえば。天の川は天国へ続く道なんだって話、知ってる?」
雅哉 「天国へ続く道?」
美聡 「そう。あの天の川は、天国行きの列車が走る道なんだって。その天国行きの列車は、レールもプラットホームも何もない場所に音もなく現れて、死んだ人を乗せて、天の川を通って天国へ行くの」
雅哉 「つまり、死んだ人を迎えに来るってことか?」
美聡 「そう。みんなそれに乗って、天国へ昇るんだって。その列車がいつ来るのかは誰にも解らないけど、いつかはみんな乗るんだよね」
雅哉 「へぇ。天国行きの列車、か……」
美聡 「どんな列車なんだろう。天の川を走る列車って……。ねえ、私もいつかは、その列車に乗る日がくるのかな」
雅哉 「ああ、いつかはな。その頃には、ヨボヨボの婆さんになってるんだろうなあ」
美聡 「雅哉だって、ヨレヨレのおじいちゃんになってるでしょ」
彩奈がやってくる。手には短冊を持って。
彩奈 「二人とも、短冊に願い事書いた?」
美聡 「あ、私まだ」
雅哉 「俺は書いた。彩奈は?」
彩奈 「書いたよ。『雅哉が赤点取りませんように』って」
雅哉 「……そりゃどーも」
彩奈 「どういたしまして。で、美聡は何にするの?」
彩奈、美聡に短冊とペンを渡す。
美聡 「うーん、どうしよう? 雅哉は何て書いた?」
雅哉 「秘密」
美聡 「何それ、教えてよ」
雅哉 「いいって。大したことじゃないし」
美聡 「ふーん。まあいいか。じゃあ私は『卒業しても、ずっとみんなと仲良しでありますように』」
彩奈 「……そうだよね。私たち、来年の春にはもう卒業なんだよね……」
雅哉 「夏休みが明けて、学校祭のプラネタリウムが終わったらもう引退で、あとは受験勉強の毎日。そして、受験……か。そう考えると、あっという間だよな。卒業なんて」
彩奈 「そうだよね。……あーあ。卒業かあ。私たち、小学校に入学したときに出会ったんだよね。それから今までずっと一緒にいたのに……。来年の春にはもうお別れなんて。なんだか……信じられない」
美聡 「うん……。来年の春か。ねぇ、さっきは1年は長い、なんて言ったけど、やっぱり短いかなあ」
雅哉 「そうだな。あっという間だ」
少しの間。それぞれが、それぞれの思いをはせている。
彩奈 「あはは! なんか暗い話しちゃったね」
美聡 「そうだね。こんなの私たちには似合わないよね。何も、これで一生のお別れってわけじゃないんだし」
彩奈 「うん。またいつでも会えるよね」
美聡 「そうそう。ねえ、じゃあ約束しない? 5年後の今日、またこの丘の上に皆で集まろうよ」
彩奈 「え?」
美聡 「いつか、なんて漠然としすぎてるでしょ? それに、社会に出てしまったら、もう余り会えなくなると思うし……。だから、約束。5年後、この丘の上に集まろうよ」
彩奈 「いいね。なんか、小さい同窓会みたい」
美聡 「じゃあ5年後、絶対集まろうね」
彩奈 「うん、5年後に。……5年後かあ。その頃は、社会に出た1年目のはずだよね」
美聡 「うん。どうなってるんだろう? 私たち」
彩奈 「ほんと、どうなってるんだろ……。その時が楽しみだね」
笑いながら、彩奈と美聡は短冊を笹にくくりつける。 他の短冊と一緒に、それは風に揺れている。
暗転。彩奈にサス。 美聡はける。
彩奈 「……こうして、いつの間にか北海道の短い夏は過ぎていき、学校祭のプラネタリウムも無事成功して、私たちは天文部を引退した。受験勉強に追われている間に時間はどんどん流れていって、気付いた時にはもう、高校生活は終わりを告げていた。卒業してからそれぞれの道を歩き始め、高校の頃みたいに、滅多に会うこともなくなっていた。大学生活は色々と忙しかったけれど、それでも私達はずっと変わらずにいられるって、そう思ってた。けれど、4年前、大学生最初の夏、あの日に起きた事件をきっかけに、私たちはどんどん変わっていってしまった気がする。そして、月日は流れ、丘の上に集まろうって約束した日が、もう間近に迫っていた。その頃には、社会に出て、仕事に追われていたのだった」
彩奈はける。 同時に明転。
――北海道。片田舎のバス停。 一台のバスが、そのバス停にゆっくりと停車する。 そこで降りたのは、雅哉一人だけ。 雅哉は小さなラゲッジを手に、懐かしそうに目を細め ながら辺りを見回している。 バスはそんな彼を残し、走り去ってゆく。 辺りはセミの鳴き声が一杯に響いている。 太陽の陽射しが強い。
雅哉 「あー……。やっとついた」
長旅で、少し疲れた様子の雅哉。 肩を叩いたりしながら。
雅哉 「さて。えーっと、家はあっちだな」
雅哉はラゲッジを持ち替えて歩き始める。 反対側から、彩奈が歩いてくる。 彩奈は本を読みながら歩いてきて、雅哉は周りを見ながら歩く。 お互いに気付かず、肩と肩がぶつかって、荷物が落ちる。
雅哉 「あ、すいません。大丈夫ですか?」
彩奈 「いえ、私が前見てなかったから……。ごめんなさい」
彩奈は雅哉の持っていたラゲッジを拾って、雅哉に渡 そうとする。
彩奈 「あれ? 雅哉?」
雅哉 「えっ? ……彩奈!」
彩奈 「あははっ。驚いた。帰ってきてたんだ」
雅哉 「ああ。ついさっき。それにしても久しぶりだな」
彩奈 「ホント。……あの日以来、だね」
雅哉 「そうだったかな……。まあ、あれ以来、全然連絡も取ってなかったな」
彩奈 「皆別々の大学にいっちゃったしね。雅哉は、東京の大学だったでしょ?」
雅哉 「ああ。東京の大学って言っても、地元の人間すら知らないような大学だけどな」
彩奈 「そんなことないでしょ。どう? 東京は」
雅哉 「やっぱり、北海道のほうがいいな。東京の夏は地獄だよ。うっとうしい梅雨もあるしな」
彩奈 「そう? でも、北海道の雪に埋もれる冬よりはいいじゃない?」
雅哉 「住んでみればわかるさ。あの暑さじゃ、雪に埋もれたくもなる」
彩奈 「へぇ……。そんなもの?」
雅哉 「そんなもの。ゴキブリも出るしな」
彩奈 「うわー……。ゴキブリは嫌だな……」
雅哉 「慣れれば可愛いけど」
彩奈 「……マジ?」
雅哉 「冗談」
彩奈 「あー、よかった……。ところで、今回はどのくらい居る予定?」
雅哉 「今日が8月5日だから、1週間くらいかな。仕事が一段落して、休みがもらえたんだ」
彩奈 「そうなんだ。じゃあ、しばらくはゆっくりできるね。前に雅哉が帰ってきたときは、色々と慌 しかったからね」
雅哉 「そうだな……。3年前だったよな。前に帰ってきたとき」
彩奈 「うん。もうあの日から3年になるんだね」
雅哉 「ああ……」
彩奈 「ねぇ、これから予定ある?」
雅哉 「いや。別に」
彩奈 「じゃあさ、久しぶりに学校に行ってみない? 天文部の様子も見たいし、さ」
雅哉 「ああ、俺は構わないけど。いいのか?」
彩奈 「いいよ。どうせ暇だし」
雅哉 「暇って言っても……。仕事が忙しいんじゃないのか?」
彩奈 「こんな田舎町だからまともな就職なくて。今はまだ実家で近所の子供たちの家庭教師やってる。パラサイトシングルってやつ? それみたい」
雅哉 「へぇ……。大変だな」
彩奈 「本当にね。だから、暇なんだ」
雅哉 「そうか。じゃあ、実家に荷物置いてから行くよ」
彩奈 「うん。後で迎えに行くから」
雅哉 「ああ」
暗転。雅哉にサス。
雅哉 「そして、俺たちは久しぶりに母校へ向かった。学校へ行く途中、この小さな街を、まるで初めて来たみたいにゆっくりと見て回った。外見は何も変わってないように見えたけれど、少しずつ、街の表情が違っていた気がした。町も、人も、変わってゆくものなのだ……」
場面が変わる。
――少し古びた、どこにでもあるような校舎。 学校は夏休みに入っていて、いつもより人は少ない。 遠くで、部活に汗を流す生徒たちの声が聴こえて来る。
彩奈 「懐かしいね。ついこの間まで高校生だったんだけどな……」
雅哉 「ああ。それが今じゃ、来年にはもう社会人になるのか」
彩奈 「ホント。信じられない……」
しばらく、二人は校内を見て回っている。 里山先生が歩いてくる。 手には何かの書類を持って。
里山 「あれ、雅哉に彩奈? 久しぶりじゃない」
彩奈 「あっ、里山先生! ……ちょっと老けました?」
里山 「こいつ!」
雅哉 「ははは。先生、お久しぶりです」
里山 「ああ、雅哉。東京から帰ってきてたのかい。放っておけば一生帰ってこなさそうだけどね」
雅哉 「そんなことないですよ。あの暑い中、東京に居続ける気にはなれませんし」
里山 「そうだろうね。北海道に比べればずいぶん暑いでしょう。私も昔住んでたことがあるからわかるよ」
雅哉 「へぇ。そうなんですか」
里山 「そう。学生時代にね」
彩奈 「でも、先生? 今年は天文部の合宿はないんですか? 毎年この時期だったはずだけど……」
里山 「ああ……。そのことなんだけどね……」
彩奈 「なんですか?」
里山 「残念だけどね。天文部は……もう廃部になってしまったよ。つい1年前のことだけどね」 彩奈 「えっ? 嘘!」
雅哉 「まあ……無理もないか。部員少なかったもんなぁ。うちの部活は」
里山 「この学校は運動部に力を入れているからね。天文部みたいな小さな部活はすぐに潰れるんだよ。……もちろん、私は反対したんだけどさ」
彩奈 「そっか……。もう無いんだ……」
しばらく黙っている。突然、彩奈が思いついたように。
彩奈 「先生、部室はまだ残ってますか?」
里山 「ええ。機材も部室も、まだそのままになってるよ。誰も整理しないんだよねぇ……全く」
彩奈 「それじゃあさ、望遠鏡持ってあの丘の上に行こうよ。久しぶりに星空が見たい」
雅哉 「星空?」
彩奈 「そう。星空。最近、空なんて見てないでしょ?」
雅哉 「まあ、そうだな……」
里山 「そう、行ってきなさい。久しぶりに見るといいものだよ」
彩奈 「ね。行こうよ」
雅哉 「よし。じゃあ行こうか」
里山 「部室のカギは、今守衛さんに開けてもらうから」
彩奈 「はい。先生、行ってきます」
里山 「はい、行ってらっしゃい。気をつけなさいよ。はしゃぎすぎて丘から転げ落ちるんじゃないよ」
彩奈 「そんな、もう子供じゃないんですから」
里山 「そうかい? なんだか心配だねぇ」
彩奈 「大丈夫ですってば。もう23歳ですよ?」
雅哉と彩奈、部室へ歩いていく。 里山はそれを見送っている。目を細めながら。
照明暗くなる。 雅哉、舞台の中央へ。サスがあたる。
雅哉 「“あの日”以来、俺たちは久々に、天文部の観測所だった丘の上に登った。その丘の上に行くには、気の遠くなるほど急で、長い階段がある。高校の頃は何でもなかったこの階段も、今はとても長く感じてしまうのが、時の流れを感じさせた」
場面が変わる。 天文部が合宿所として使っていた丘の上。 まだ、夕暮れ時で星は見えない。
彩奈 「あー……疲れた……」
雅哉 「高校の頃は何でもなかったんだけどなあ。あの階段」
彩奈 「そうだったっけね。でも、ここへの道は、あの気の遠くなりそうな階段以外にないから……」
雅哉 「もう歳かな」
彩奈 「かもね。……それにしても、懐かしいなあ、ここ」
雅哉 「ああ、あの頃のままだな」
彩奈 「なんか時間が止まったみたい」
雅哉 「まあ、丘の上の景色なんて、そうそう変わるものでもないだろうけどな」
彩奈 「東京は景色が変わりやすい?」 雅哉 「見た目はあまり変わらないけど、昨日あった店が今日にはもう無くなってる、なんてことはよくある話だよ。眠りにつくこともなく、絶え間なく変化してる。あの街は」
彩奈 「そうなんだ。
雅哉 「そうだな。それに比べて、ここは変わらない」
彩奈、空を見上げて
彩奈 「……空をこうして見上げるのって、久しぶりだな」
雅哉 「ああ。東京じゃ、電線が邪魔で空が狭いんだ」
彩奈 「360度のまるい空。ここでしか見れないもんね」
雅哉 「そうだな……。すっかり忘れてた。そんな空」
彩奈 「ねえ、ちょうど4年前、ここで合宿したっけ」
雅哉 「ああ。七夕の日だったよな。4年後に、また皆で集まろうって言ったのは」
彩奈 「うん。……明後日だね。その約束の日」
雅哉 「明後日で5年にもなるのか。……色々あったな」
雅哉にサス。
雅哉 「そう、5年間の間に、本当に色々あった。その5年間の間に、色々なものが、少しずつ、変わっていったのだった」
以下、4年前の回想シーン。 夜空には満月が出ている。 天体観測をしている、美聡と雅哉。
美聡 「ねぇ、雅哉は大学どこに行くつもり?」
雅哉 「俺さ、東京の大学に行こうと思ってるんだ」
美聡 「東京? ……遠いところだねぇ」
雅哉 「ああ。けど、一回くらい、日本の首都で暮らしてみるのもいいかなんて思うんだ。別に、この田舎町が嫌いなわけじゃないけどな。それに、夢を叶えるためには、どうしても上京しないと」
美聡 「夢って?」
雅哉 「宇宙飛行士」
美聡 「宇宙飛行士!? ホントに?」
雅哉 「ホントに」
美聡、笑う。
雅哉 「なんだよ」
美聡 「ごめん、笑って。でも、意外だったから……。雅哉って結構少年の心を忘れてないんだね」
雅哉 「そうかな」
美聡 「じゃあ、昨日の短冊に書いたのって、『宇宙飛行士になれますように』だったの?」
雅哉 「まあな」
美聡 「へぇ。宇宙飛行士かあ。がんばって」
雅哉 「そんな、人事みたいに」
美聡 「だって、人事だもん」
雅哉 「そう言う美聡はどうなんだ?」
美聡 「私? 私は……天文学者になろうかな」
雅哉 「へぇ……」
美聡 「なんちゃって」
雅哉 「なんだよ、それ」
美聡 「まだ決めてない。それに天文学部なんて、外国の大学に行かなきゃないんだし」
雅哉 「ぴったりなんじゃないか? それが一番。星が好きなんだろ?」
美聡 「そんな、人事みたいに」
雅哉 「人事だからな」
時が今に戻る。 美聡と月が消える。
彩奈 「そうそう。さっき聞かなかったけど、雅哉は今どんな仕事してるの?」
雅哉 「ごく普通のサラリーマンだよ。中小企業のね」
彩奈 「サラリーマン? 宇宙飛行士はやめたの?」
雅哉 「ああ……。やっぱり無理だったよ。試験に落ちたんだ」
彩奈 「それで、諦めたの?」
雅哉 「夢だけで飯は食っていけないよ」
彩奈 「そっか……」
彩奈にサス。
彩奈 「最後の夏合宿の時、私たちはここで、4年後の七夕にまた集まろうと約束をしたのだ。……けれど、その約束が果たされることは、もうない。夢をかなえることも、たぶんもうないと思う。4年前、大学一年生最初の夏の、あの日――。あの夏から、私達は空を忘れてしまったのだった」
場面が変わる。回想。
美聡 「あれは天国行きの列車に間違いない!」
彩奈 「またそんな事言って。ドラマの見すぎなんじゃない?」
美聡 「本当なんだってば! レールも何も無いところにその列車がすっと現れて、夜空に消えていったんだから」
彩奈 「本当に?」
美聡 「本当に!」
彩奈 「ふーん? でもさあ、それを見た人って、近いうちに死ぬって言うよね」
美聡 「え……そうなの……?」
彩奈 「うん……。あの夜空を走る列車は、いつも天の川を走っているんだって。でも、生きている人は、その列車を見ることはない。それが見えたっていうことは、もうすぐ空からお迎えが来るって言う合図なんだって……」
美聡 「嘘……」
彩奈 「あはは。嘘。そんなの、ただの作り話に決まってるでしょ」
美聡 「じゃ、じゃあ、私が昨日見たアレは何?」
彩奈 「夢でも見たんじゃないの?」
美聡 「ちゃんと起きてた」
彩奈 「酔ってたとか」
美聡 「飲んでない。大体、まだ19歳だし」
彩奈 「何かと見間違えたとか?」
美聡 「あんなの見間違えようがないよ」
彩奈 「まさか……薬……」
美聡 「絶対違う」
彩奈 「まあ……とにかく、気のせいか何かだって」
美聡 「そうだったのかなあ……」
暗転。彩奈にサス。
彩奈 「レールも何もない場所に不意に現れて、夜空へ消えてゆく列車。それは、死者を天国へ運ぶ列車だと、言い伝えられていた。そう、天国へ続く、天の川を通って。そして、生きている内にその列車を見たものには、近いうちに死が訪れるのだとも、伝えられている。そんなの、ただの作り話だと思っていた。思って、いたんだけど……」
汽笛の音。続いて、列車が走る音。
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