狭 い 行 動 範 囲

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★短編小説4 - 2003年07月12日(土)




[静かな午後]



授業をふけて屋上に向かう。
今日はとくに、寒いワケでも暑いワケでもなかったから、ふらっとここに立ち寄った。
誰か先に来ていると思ったけど、誰かがいる気配はしなかった。
空はいつものように青かった。


陽の光であったまったコンクリートに寝転がる。
その暖かさを背中に感じながら、額を隠す黒髪が風に揺れるのを感じた。
凄く凄く静かな午後だった。



遠くから聞こえて来る車のクラクションの音。
すぐ近くで吹く風の音。
風で揺れる木々の音。

そんな日常の音しか、聞こえなかった。



雲が流れて形を変える。
ただそれをぼーっと見て、頭の中では桜木のことを考える。
最近はこればっかりだった。
目に入れているものと、頭で考えているものが全然違う。
アイツのことしか頭に浮ばない。
重症だと思う。




目を閉じて、桜木のことを振り切ろうとした。








近くから、息を吐く音がする。
それは小さい音で、長くゆっくりと息を吐く音。
ため息とは違うその音が、頭の上の方から聞こえた気がした。


目を開けて見てみると、水戸がタバコを吹かせていた。


水戸はまたタバコを吸うと、肺から黒い煙を吐き出して。
俺はその動作をただ見ていた。
どこから沸いて出てきたのか、そんな事はどうでも良くて、ただその様子をじっとみている。

水戸は俺と視線を合わせようとしないで、小さく呟く。
「今日は静かだな。」
どこか遠くを見ていて、その様子は寂しそうに見えた。
俺はその水戸の表情を黙ってみていた。




「お前、花道の見舞いに行ったか?」
桜木が山王の試合で背中を怪我して病院送りになってから、俺はアイツの顔を1度や2度しか見なかった。
たまたま海岸を通り掛かったり、バスケ部で見舞いに行ってやった時くらいしか、アイツの顔を見ていない気がする。
俺は小さく「行ってねぇー。」とだけ答えた。



水戸はやっと俺と目を合わせて、寂しそうな目をして言った。
「アイツ結構寂しがり屋だし、お前が見舞いに行っても喜ぶと思うから。」
水戸は本当に寂しい目をして、俺に言った。


水戸のその寂しい目は、意味深に俺を捕らえていた。
バカな俺はその意味が分からないでいる。
もともと人の気持ちを読み取るのが苦手だから。

そんな目をされても、俺には水戸の気持ちが読み取れないでいた。



だけとたった一つだけ、分かることがある。
水戸はアイツのために見舞いに行けと、俺に言ってるんだろう。

どうして俺がそう言われるのかは分からない。
主将の妹でも誘えばいいのに、水戸は俺にそう言っている様な気がする。




タバコの煙が、俺の鼻を掠めた。
水戸は今も、寂しい目をしている。








end





花リハビリネタ。
初めて書いた気がします、リハビリネタ。
つっても花道さんは出ないで終わってますが。

流川さんも花のことが好きなのに、素直になれない。
花も流川さんが好きなのに、素直になれない。
洋平は花が好きなのに、花のことを想うとなにも出来ない。

洋平こそ、流花において一番切ない位置にいるような気がします。
もともと洋平と花の間には友情しかないと思っていますが、
たまには洋→花な感じもいいかなぁーと思って。




...

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