一平さんの隠し味
尼崎の「グリル一平」のマスターが、カウンター越しに語ります。
目 次|過 去|未 来
第二部 その9
会長は立とうとして、隣に座ってる息子さんに止められた、息子さんは父に言った、
「一度も釣ってない一平さんに、またつらい思いをさせる事になるで!」
会長は・・・
「このチヌ研に一年もいて、一度も釣ってないって、ワシは自分が許されへんのや!何の為のチヌ研なんや!」
「みんなで知恵を出したらなあかんのや!行く度に坊主(一匹も釣れない事)で、辛かったと思う!」
「ずーっと一年間、みんなの釣った事の自慢ばなしばっかり聞いてきたんやで、よく頑張ったと思う!」
息子さんが・・・
「みんなわかってるよ、最近、みんなで一平さんの店に食事に行って帰りに
は、必ず一平さんを釣らせなあかんで!と、話して帰ってた・・・みんな教
えたくてウズウズしてたんやで、やっぱり最初のチヌは自分で仕掛けて釣る
事に意味があるんやと思ってた。みんなそうやで!一平さんの横で釣る人は
自分の事より一平さんのことが心配でソワソワしてた。こんなこと一平さん
の前で言いたくなかった・・・」
私は、ガーンと頭を打たれた!自分の商売のことしか考えてなかったし、みん
なが店に来てくれてた事に満足してた自分がとても、恥ずかしい思いがしたの
を、今でも憶えています・・・。
みんな、素晴らしい釣り人たちでした、そんな大きな思いやりの中で楽しませ
てもらった事に今でも感謝しています。
あれから・・・店も人手が足りなくなって、結局、チヌ研を辞めざるえない事
態になってゆきました。
時々、その頃の連中が今でも食事に来てくれます、必ず言うことは・・・
「最初に逃がした、あの・大きなチヌは、あれは、もったいなかった!」
(ありがとう!忘れないで下さいよ・・・涙)
またこの次
|