2001年07月23日(月) |
幻想小説(風) 〜あなた読む人 私書く人〜 |
「夜の色って何色だと思う?」 暖かなコタツに向かい合わせに座って居る子が、ふと漏らした一言。私の方には目を向けず、手元の蜜柑をお手玉替わりにしている。 「ねえ。夜の色って何色だと思う?」 突然の質問に詰まっていると、また訊ねてきた。 突拍子もない質問だ。この子は脈絡のないことを言い出すのが好きらしい。しかしまた、夜の色は?という質問とは……。 「しょうがないな、降参?答えはね……」 ガタ。コタツが揺れた。ガタガタ。 ふたり、顔を見合わせて、ガタガタと揺れ続けるコタツを見た。今までの横揺れから今度は縦揺れに変わった。 やっとの事で抜け出し、私たちは部屋の片隅で激しさを増すコタツを見ていた。もはや、揺れという動きではなく持ち上がってしまっている。ガッターンと派手な音を立ててコタツはひっくり返った。お手玉にしていた蜜柑はボールに早替わり、転がっていく。天板はバーンと弾けて、コタツ布団は吹っ飛んだ。 コタツの中から人が出てきた。しかも、猟銃を持った男だ。男の顔色は炎に照らされたように赤く、怒りを感じる目の輝きで、こちらを睨んでいる。男は一歩踏み出し、猟銃を構えた。がちゃりと重い音がする。 次の瞬間、私たちは部屋を飛び出した。
夢中で部屋を飛び出し、猟銃を持った男から逃げる。背後からはガチャガチャという金属の音……きっと銃の音なんだろう……が少しずつ近づいてくる。メチャクチャに走り回る私たち。遠ざかるように走っているのに、近づいているようだ。男の気配が消えない。いつまでも、ガチャガチャと重い金属の音がする。 恐怖の感覚がおかしくなっているのだろうか、悲鳴が笑い声のようになっている。けたたましい嗤い。自分の声が耳に突き刺さる。不快。 気付けば、進路は絶たれている。崖の突端に居る私たち。 「前に、こんな風に追いつめられるホラー映画を観たことがあるよ」 こいつはそう言った。 「全く同じだよ。銃を持った男に追いつめられて、崖の上に来る。その映画では、無事助かるんだけど」 ホラー映画は大歓迎だが、自分がホラー映画のような体験をするのはゴメンだ。 「奴には弱点が在るんだ。ほら、見える?奴の胸の真ん中……鎖骨の下辺り。少し、赤くなってるのが」 確かに赤い。何か、絵の具のような赤が男のシャツに染み付いている。もしかして、血なのだろうか? 「違う。あれはね、口紅の跡なんだよ。あそこに奴の全てが残ってしまっているんだ。感情も、執念も、記憶も全部ね。あの赤を破壊させればこっちのもの」 破壊って、どうやればいい?こちらは何の武器も無いのに……。 「とは言っても、こっちには武器なんて無いから。とりあえずはこれで応戦してみよう」 取りだしたのは、蜜柑。皮を剥いて一房づつ私の手の中に置いていく。一房を弾丸に見立て指ではじき飛ばした。凄い勢いで飛んでいく。本物の弾丸のようだ。立て続けにはじき飛ばす。だが、蜜柑弾は奴の弱点には当たらない。弾数の少ないこの武器はもう使えなくなってしまった。 「う〜ん……あんまり言いたくはないけど、こうなったら仕方がない。最後の手を使うか。助かりたいよね?」 もちろん。たとえ夢の中でも死ぬのはゴメンだ。 「ほら、僕の胸も同じ位置が赤くなってるだろ?ココ。こっちを壊せば良いよそれなら簡単、確実でしょ?」 思いがけない告白に唖然とする私。 猟銃を構えた男は、もう逃げられない、反撃の手段のない私たちにゆっくりと近づいてくる。今まではっきりとは分からなかった奴の顔は、今、私の隣にいるこいつと同じ顔……。 「君のその爪でえぐっちゃえば良いんだ。貫いたっていい。ほら、早くしないと……」 見れば私の爪は、獣のように長く太い爪になっていた。 「何をしているの?早くしないと!ああ、ほら。グズグズしているから、君も同じになってしまった……」 奴らと同じように、私の胸元に赤い口紅の跡が。 「しょうがないな。じゃあ、私が片を付けちゃうよ」 私の胸に爪を突き刺したのは、私。 猟銃を持った私が狙いを定めて、引き金を引いた。 夜の色は恐怖の色。恐怖は赤い口紅の色。
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近頃、ウェブ上のおもしろ占いを色々チェックしている。その中の一つに『WEB日記占い』というのがあった。 日記を書く際、どういったテーマ、キーワードで書くと良いのか?という占いをしてくれるのである。まぁおもしろ占いだから、全編ギャグなんだが。 私がやってみたところ、(本日分の日記のネタとして)コタツの中から 思いがけず告白 猟銃を持った男 口紅の跡 をキーワードに夢に見た様にまとめるのがラッキー★だそうだ。そして、日記のタイトルは「あなた読む人 私書く人」 せっかくだから、それで書いてみたがまあ、こんなトコである。少々無理はあるが、社会人となってから想像力(創造力)を働かすことはめっきり減ってしまったのでいい頭のトレーニングになりそうだ(笑) またやるかもしれない。その時はまたお付き合い下さることと祈りつつ……
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