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鉢合わせ - 2006年03月02日(木) って言うのかな。 違うかな。二人は会ってないから。 そんなのんきなこと言ってていいのかって思うけど。 朝の4時にジョーが電話をかけてきた。 うちの前にいるって。 なんでキッチンの明かりがまだついてるのかって聞く。 なんでこんな時間にまだ起きてるんだよって。 ジョーはときどき夜中に突然やって来てわたしを驚かすのが好きだった。 わたしもそれが好きだった。 でも今朝は違った。 「人が来てるの。入れてあげられない、今日は」。 後ろでわたしのコンピューターをアップグレイドしてくれてるジェイソンを気にしながら、わたしは電話の向こうの玄関先にいるジョーにちょっと冷たく言う。 「何? どういうこと? 入れてくれなくていいからちょっと出て来てくれよ」。 あれからずっと会ってなかった。 ・・・じゃない。一回会ったんだ。いつだっけ? そうだ、あのときも突然夜中にやって来たんだ。 金曜日の夜だ。2週間前? 先週? わかんない。翌日お昼前に目が覚めたら、ジョーは消えてた。わたしは電話もかけなかった。「起こしたくなかったんだ」って2、3日経ってからメールが来た。 「彼、ほら前に話したじゃない? 3ヶ月くらいつき合ってた人。今玄関の外にいるの。出て来てくれって言うの。・・・ちょっと話してくるね」。困惑してるのがわかって、ジェイソンは「大丈夫?」ってわたしに聞いた。 外に出ると、門灯の明かりから隠れるように壁に寄りかかってうつむいてるジョーがいた。 あの背の高いジョーが小さく見えた。 冷たいジャケットの腕に包まれた。冷たいほっぺたがわたしの顔を押し付けた。冷たいくちびるがわたしのくちびるに重なった。冷たい耳に手を伸ばして冷たいほっぺたにわたしはお返しのキスをした。裸足のつま先が冷たくなって痛かった。 ジョーはジェイソンのことを何も聞かなかった。ほかの誰かがこんな時間にいることを「Why is this?」って落ち着いた声で言うだけだった。15分でいいから一緒に歩いてよって言うジョーを黙って見つめてたら、「ほら、寒いから早く用意して来な」ってジョーは笑った。 お部屋に戻ってジェイソンがまた「大丈夫?」って聞いた。コートをひっかけて靴をはいて、「ちょっと外歩いてくる」って答えた。「ほんとに大丈夫? 僕がついてった方がいい?」「平気。携帯持ってく。平気じゃなかったら電話する」。心配そうにわたしを見るジェイソンに、わたしはハグをお願いした。 ワンブロック歩いて、ゆっくり歩いて、角のおうちの、初夏に紫陽花が咲き乱れる表庭のフェンスにもたれて、また歩いて、公園のベンチに座って、ジョーと話してジョーと過ごす時間はやっぱりほかのどこにもないと思った。戻らないって決めてても、どんなに決めてても、そこにいるジョーもそこにある時間もそこにいてそこにあるだけで、それは過去にも未来にも繋がらない真実の今だった。 ジェイソンがどう受け止めたのか全然わからない。 わたしは何も話さなかったし、ジェイソンも何も聞かなかった。 抱かれるときジェイソンのからだは重たい。眠るときジェイソンのからだは遠い。 ジェイソンは穏やかで寛容で、別れた夫のそれと似ている。 それを求めているわけじゃない。だけどそこはとても安心していられる場所だ。 一緒に眠ってお昼前に一緒に起きたら、天気予報通りに外は雪が積もってた。ライブレッドをパンパニクルに変えただけの前とおんなじ朝食を作って一緒に食べた。雪は冷たい雨に変わってた。わたしはジェイソンに傘を貸してあげて、雪がつもる道を途中まで一緒に歩いた。わたしは信号をわたって駅に向かう。ジェイソンは信号をわたらないで右に曲がって10ブロック歩いて友だちのところに行く。 「信号が変わるまで一緒にいるよ」。おしゃべりしながら信号が変わるのを待って、ジェイソンはわたしにいつものバイのキスをくれた。道路をわたり切って振り向くと、ジェイソンはまだそこにいてわたしを見ててくれてた。 -
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