一橋的雑記所

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2004年10月20日(水) 記念日。

綺麗に包装され真紅のリボンを纏ったそれは。
真白いテーブルクロスの上に小ぢんまりと佇んでいて。
扉を開くや、どうしても目に留めずには居られなかったから。

「どうしたのかしら、これは」

ごきげんようの挨拶も抜きに掛けた声の先では。
流しに向かって湯茶の用意をしている友人の。
きっぱりと切り揃えられた黒い髪が揺れていた。

「プレゼント、ですって」

歳に似合わない落ち着き払った声音が。
けれども今日は軽く弾んでいる。
それで、ああ、とようやくに思い当たった。

「それは、おめでとう」

いつもの席にそっと鞄を置いて、浅く腰掛ける。

「有難う」

微笑みながら振り返った彼女はその手に、
2人分の紅茶を用意したトレーを捧げ持っていた。

「言っておくけど、何も用意して無いわよ?」
「そんなもの期待して無いわよ、あなたたちには」

嫌味なくあっさりと応えた彼女の言葉に満足して、
目の前に置かれたティーカップに手を伸ばす。

「察するに、彼女からかしら?」
「ええ」

日本でも有数の財閥のお嬢さまが選ぶプレゼント、か。
中身は何かしらと思うと興味は尽きないけれど。
思うに彼女は、この場では決して開けたりはしないだろう。

「今日は来ないの?」
「さっきまで居たのよ」

穏やかに微笑んで、彼女は自分の定位置に座る。
その瞳が懐かしげな色を湛えて、彼女の妹の定位置である隣の椅子を見遣る。
慈愛、というものを説明するどんな言葉よりも抽象画よりも。
今の彼女の眼差しは雄弁で明快にその意味を知らしめるものに見えて。
思わず、笑みを零す。

「……何?」
「いいえ、何でも」

一層深めた笑みで応えると、ほんの少しだけ寄せられた彼女の眉が、
溜息と共に緩められる。

窓から差し込む、柔らかな陽射が。
優しくティーカップを包み込む彼女の長い手指の陰をテーブルクロスに落とす。
その直ぐ傍に置かれたささやかな、けれども愛しさに満ちたプレゼントの小箱。

「いい日ね」

彼女の淹れてくれた紅茶の香りと味を楽しみながら。
ふと、思いついた言葉をそのまま唇から零してみる。

「……そうね」

彼女は、にっこりと微笑を返してくれた。


― 了 ―




己的妹さまを始めとする。
10月生まれトリオの皆さまに。
心から、お祝いを。


そして。
ずれにずれ込んでいる雑記にも。
これにて一日分の、穴埋めを(コラ)。


つーことで。
もしかして、己的初の凸蓉ってことになりますですかこれは(マテ)。



一橋@胡乱。 |一言物申す!(メールフォーム)

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