一橋的雑記所
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ミクシ日記の方でだらだらと。 言い訳めいた事書いてしまった、それが此れです。
前日分に書き書きした「空飛ぶ夢。」フェイトちゃん視点。 時間軸は少し前。 後で手を入れるかもしれません。 色々、迷ったり悩んだりしてます。 でも、あの時の彼女たちに比べたらそんなもの。 そんな感じです(何)。
これがでも。 己の中にある答えかどうかはまだ良く分からなかったり(何々)。
分かっていた。 分かってしまっていた。 彼女が一体、どんな状態なのか。 執務官補佐として様々な任務に赴く間に少しずつ得た知識と経験が。 彼女が重ねてきた無理や無茶の数々の意味を私に教えてくれていた。 それらが蓄積した結果としての、墜落と負傷。 その激しさと厳しさは病院に駆けつけるまでも無く、十二分に。 分かってしまっていた。 それでも、でも、もっと分かってしまっていたこと。
――彼女は、決して、諦めはしないということ。
空飛ぶ夢。― Side Fate. ―
誰もが、蒼白な顔をしてその場にいた。 地上部隊で研修中のはやてとリインフォース�供�二人を守護するザフィーラは言うに及ばず、本局勤めの筈のシャマルやシグナムの姿まであった。 そして、ヴィータは。 墜落の瞬間、なのはと同じ空に在ったという彼女は、日頃の姿からは想像もつかない程憔悴しきっていて、はやてに肩を抱かれてようやく待合のソファに座る事が出来ている、といった有様だった。
「フェイトちゃん……」
気配に最初に気付いたのはやはり、というか、はやてで、私たちにすら滅多に見せない困ったような切ないような笑みを浮かべた顔を上げた拍子に、寄り添っていたヴィータの肩がびくり、と大きく揺れた。
「フェイト……」
ああ……と思う間も無かった。一頻り泣き腫らした筈の目にまた、盛り上がる透明な雫。駄目だよ、とは心の中だけで呟いて、視線を合わせる為にそっと跪きその肩に両手を伸ばす。
「ヴィータは、無事だったんだ」
私が浮かべたであろう笑顔を認めたその瞳の虹彩が瞬く間に、広がる。
「良かった」 「……っ! ――なんで……っ」 「ヴィータっ!」
はやてが制するのも間に合わず、鉄槌の騎士の両腕が襟元を掴み上げてくる。
「なんで、そんな事……なんで……っ!」
怒りではなく深すぎる悲しみと自責に突き動かされて吼えるその眼差しを、真正面から見つめ返す私の頭の片隅にはけれども、酷く冷たい風が吹き抜けるだけで。
「ヴィータまで怪我していたら、なのはが悲しむから」
浮んだままの言葉が、意識するよりも先に口から零れ落ちていた。
「……っ!」
息を呑んで硬直したヴィータと見詰め合っていたのはほんの一瞬。 私たちの間に割って入るようにして、はやてがそっと彼女の肩を抱き締め直した。
「フェイトちゃんの言うとおりやな。ええから、落ち着き」 「……畜生……」
唇を噛み締め呻くヴィータに、胸の奥ではそっとごめんと呟きながら、私の感情は何処までも冷え切っている。その事にほんの少しだけ滑稽さを感じながら立ち上がり、シグナムとシャマルの方に向き直った。
「桃子さんたち……なのはのご両親には?」 「先ほどリンディ提督が連絡を。少し時間が掛かりそうだが、こちらへお招きする方向で動くとのことだ」 「そうですか……なのはの、様子は?」 「手術は終了したわ、2時間ほど前に。今は集中治療室だけれども、容態は安定しているそうよ」
その返答に、思いの外張り詰めていたらしい気持ちがようやく少しだけ解けるのが分かって息を吐く。それに気付いたシグナムが真っ直ぐな眼差しを寄越し、シャマルが痛ましげに視線を逸らす。それでも私の頭は冴え渡るばかりだった。
「命に別状がないのなら、良かった」
声にしてしまうとそんな言葉すら、とても冷たい響きを帯びている事に気付く。けれども今は、そう呟くしか無かった。 分かっていた。いつも、何処かで分かっていた。 訓練校や部隊での研修、現場への配属と任務。一緒に戦える機会はそうはなかったけれども、目の当たりにしたり伝え聞いたり、あるいは彼女自身から聞かされる話の内容からも、誰よりも分かっていた。 いつかは、こんな瞬間が、彼女に、訪れる日が来る事を。 だから、誰の事をも責めるなんて本当に、出来る訳がなくて。
「……フェイトちゃん、大丈夫か?」
考え込んでしまった時間はほんの一瞬だった。けれども、はやてには気付かれてしまったようで、気づけば覗き込むような視線がこちらに向けられている。
「うん、大丈夫だよ」 「そーか? 流石にちょぉ疲れてるみたいし、何か温かいもんでも飲みに行かん?」 「あ、それなら私もご案内ついでにご一緒するですよ」 「ええよー」
肩の上でぴょこんと跳ね上がったリインフォース�供�ごく最近、ヴォルケンリッターの仲間入りを果たしたばかりの彼女が彼女なりに懸命に上げた言葉をそっと優しく制して、はやては立ち上がる。小さなその身体を両手で包み込むと、ぼんやりとその様子を見上げていたヴィータの肩に預けて少し微笑んで見せる。
「フェイトちゃんと会うたんも久々やし。休憩がてらお茶、してきてもええやろ?」 「はやて……」 「はやてちゃん」
虚ろな眼差しで見上げるヴィータと心配そうに眉を寄せているリインにいつものように暖かい微笑みを掛けると、ほないこか、と先に歩き始めたはやての背中に、私は、従うしかなかった。
「……随分と、参ってるやん」
一つ下のフロアにある売店の前まで来た所でぽつりと呟くと、はやては足を止めた。
「それは、はやてたちの方じゃない」 「そやね。でも、フェイトちゃんほどやないよ」
振り返ったはやての顔には、淡い苦笑いが浮んでいる。
「さっきはちょぉ、どないしようかなーと思たけど」 「さっき……?」 「ヴィータ、泣き出しそうになったやん」
頭半分ぶん位下にある黒目がちの瞳が、すうっと細くなる。
「フェイトちゃん、あの子殴り飛ばすんやないやろか、とか本気で心配してたんよ」 「まさか」
ちょっと吃驚して目を見開いたら、堪忍、と笑った。
「私もちょっと、動揺してしもてたみたいやね」 「……はやて」
そう受け止められても仕方が無い程殺気立っていたという意味では、あながち間違いでは無かった。そう思った私は、緩く首を振って見せた。
「私が、ヴィータに対して酷い事を言ったのは事実だし……ごめん」 「……フェイトちゃん?」
表情を改めたはやてを何だか真っ直ぐには見返せなくて、窓辺に視線を移す。傾き掛けた冬の日差しが酷く寒々しくこの目を刺す。その痛みを有難いとさえ思った。 多分、なのはの事は、誰も守れなかっただろう。 たとえ、自分がその場に居たとしても。 その動かない事実と痛みから目を逸らしたかった。 彼女を守れなかった事を悔い悲しむことの出来るヴィータが、私はただ、羨ましかった。 多分、そういうことなのだ。
「フェイトちゃん」
さっきよりももっと複雑な色を纏った深い笑みを浮かべて、はやてがそっと手を伸ばしてくる。頬に触れた手は、随分と冷たかった。
「大丈夫か?」 「……大丈夫だよ?」 「あんまり、思い詰めたらあかんよ」
私の言葉を軽く受け流すと、頬を包み込んだ掌をぽんぽんと跳ねさせてはやては柔らかく笑んだ。
「さっきの台詞やないけど、なのはちゃんが心配するで?」 「大丈夫だって」
そうやろか、と複雑な色をその笑みに混ぜた後、表情を引き締める。
「フェイトちゃんのことやから、もう察しはついてると思うけど」 「……うん」 「なのはちゃん、もしかしたら、もう」
うん、分かっている。 分かっていた。 もうずっと、随分前から。 でも。
「はやて」
怖いくらい真剣な顔をした親友に、私は笑いかける。 はやてが、面食らったように目を見開いた。
「それでも、なのはは、きっと、また、飛ぶって言うと思う」
たとえば、歩けなくなるとしても。 同じようには、飛べなくなるとしても。 なのはは、ただ、空を目指す。 少しでも、その身体が動くのならば。 決して、諦めたりはしないだろう。 その手を取って歩き出した、あの日から。 少しずつ、ちょっとずつ重ねてきた時間と記憶が私に教えてくれる。 何があっても、何が起こっても。 なのはは、その心の求めるものを、決して、手離しはしないのだと。 私の心を、全てを、諦めず受け止め、救い出してくれたあの眩さで。 彼女が、何かを求め望むというのならば。 私は、それを拒めない。 どんなにその危うさに気付いていても、分かっていても。 全て受け止め、見届けるしか、ないのだ。
「フェイトちゃん……」
はやての、私の頬を包む手に緩やかに力が籠められる。 その冷たい指先が、目尻に触れ、ゆっくりと降りてゆく。 まるで、何かを拭い取るように。
「独りやないよ?」
静かな、穏かな声がゆっくりと近づき、額に、彼女のそれが触れてくる。
「なのはちゃんが独りで頑張る必要が無いように、フェイトちゃんも、独りで何もかんも抱え込むこと、ないねんよ?」 「はやて……」 「……なんてな」
ふふ、っと小さな声を立てて、はやては笑った。
「ホンマは、私も怖い。なのはちゃんの強さが」
そっと額を離して、透明な笑顔のまま、はやては目を逸らす。 その先には窓越し、夕映えにきらきらと輝く眩い光を湛えた空がある。
「でも、それと同じ位、もしかしたらそれ以上に、なのはちゃんに憧れてる。なのはちゃんが飛ぶ空を、その先を、何処までも見届けたいて、本気で思う」
ただ、と、ほんの少しほろ苦いものを滲ませた笑みを口元に浮かべて言い淀む。私はその先を促さなかった。はやてもそれに気付いてか、まあええわ、と小さく呟いて首を振った。
「……せやから、分け合えるもんがあるのやったら、分け合いたい。それは、なのはちゃんに対しても、それから、フェイトちゃん」
一端逸らされた眼差しが、再び私の目を射抜く。
「フェイトちゃんにも、思てること」 「私……?」 「まあ、無理にとは言わんし、私自身、抱え込んでしもてるもんがあるし……でも、」
それでも、と。 いつもの雄弁さを失ったように途切れがちなはやての言葉と、いつも以上に切なさも苦さも包み込むような穏かな笑顔に私は、次第に項垂れてゆくしかなかった。
「ごめん……はやて、ごめん」 「いややなあ、フェイトちゃんが謝らなあかんことなんて一つも無いよ?」
それに、と頬を包み込んだ掌がそのままゆっくりと閉じられ、押さえ込むように力が込められる。
「こういう時、言わなあかん言葉は他にあるやろ?」
その手に促されて上げた視線の先、悪戯っぽくて随分と大人びた、はやてらしいいつもの笑顔があって、それに釣られるように、私はようやく、笑顔を返す。
「『ありがとう』……?」 「正解やー」
じんわりと熱を取り戻した指先が、悪戯っぽく頬を軽く引っ張った。
「なのはちゃんが空を望むように、フェイトちゃんはなのはちゃんを望む。私は、そんな二人が舞う空を守ることを望む」
静かな笑顔に、ほんの少し滲む、苦さと痛み。 幼いかもしれない、脆い想いかもしれない。 それでも。でも。
「もっと、強くなりたい。ならなあかんと思う」 「はやて……」
はやての胸に灯る炎はきっと、私やなのはと同じ熱を持っている。 そう信じることの出来る眼差しに、ゆっくりと頷いて見せる。 間に合わないことは、この先何度でも起こりうる。 伸ばした手が届かないことだって。 それでも、なのはは……そして私たちは、行くのだろう。 この胸の痛みと熱が、続く限り。 お互いの瞳の中に良く似た眼差しを映し合いながら、見詰め合ったのは多分、ほんの数瞬のこと。 さて、とはやては身を起こし、三歩先にある自動販売機に視線を伸ばした。
「あったかいもん飲んで、戻ろかー。これから色々、大変やからな」 「……うん」
それから二人して、甘くて暖かい飲み物を買って、言葉少なに飲み干して。 眩い光が、迫る宵闇に沈み込んで行くのを窓越しに眺めながらそれでも。 空を、なのはが飛ぶべき空を。 私は……私とはやては。 遠く思い描いていたのだろう。 肩を並べて皆の待つ場所へと戻りながら、私たちはその日、それぞれの背に負ったものの大きさを、少しずつ少しずつ、実感し始めていた。
でも。 大丈夫。 大丈夫だよ、なのは。 またいつか、必ず。 同じ空を、私たちは共に、飛ぶだろう。
空飛ぶ夢を、夢で終らせないために。 なのはが諦めないように。 私たちも、決して、諦めない。 きっと、何処までも。 いつまでも。
終っとけ(何)。
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