詩のような 世界
目次|←|→
あの子が 「抱きしめて」 って言うから
僕は黙って ギュッとした
「愛してるよ」
小さな声の不安定な揺らぎは
愛している という言葉を
懇願していた
君は飛べない小鳥なのか
下手な女優気取りなのか
どっちなのかな
いずれにしても
僕は無表情を君に見られぬよう
君の望みを叶えるよ
黙っていても
包み込んでくれる誰かの胸
僕は待っていたみたいに笑う
その誰かも満足そうに
さよならの時間まで 隣にいる
与えられた流れの中に
気まぐれに人は訪れて
アーチ型の窓を開け放てば
薄明るいグリーンの空が広がっていた
どこにも行けない
だから誰よりも
飛びたいと 願う
「寒いから窓閉めて」
ベッドの中から よく知らない声
僕は振り向きかけたけれど
やっぱりもういくことにするよ
さよならのない世界へ
さよなら
窓からこちらをのぞく
しま猫の一鳴きがスタートの合図だった
曲を作るには最高の空模様
ボイルレースのカーテンは
さらさら と揺れ
静かな雨音を運ぶ
目を閉じると
この手は鍵盤ではなく
みずみずしく艶やかな葉に触れていた
懐かしいにおい 質感
よく見れば
それは幼い子の手のひら
忘れてしまっていた と
おしえてくれた
硬直した指が
火の鳥が
遠くの鍵盤を踊りながら渡る
僕は確かに地上を望むのに
僕のものであるはずの身体は
暖かな土の中に落ちていきたがる
地の底まで伸びる根を
やさしく撫でながら
炎のダンスは永遠に終わらない
いつまでも 時を刻み続ける
どんなに強い雨にもくすぶらず
勢いを増してゆくのだろう
時々ふと
無邪気なほどの あの笑顔を
思い出させてくれる
しとしと
雨
|