詩のような 世界
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ここは
寂れて海の家なんか1つもない海岸
3人の大学生風の男の子たちが
上半身裸で砂浜に転がっている
少し離れたところには
部活帰りだと思われる
ジャージ姿の女子中学生たちが10人弱
喋ることもなくそれぞれがマンガに夢中だ
腐りかけた木の椅子に座っている少年は
携帯電話を握り締めてうつむく
時々海に目を向けるのだけど
その瞳に映るのは青い穏やかな水面ではなく
長い髪を揺らす少女の影だった
私は砂浜に突き出た小岩の上で片足立ちをし
両手でバランスをとりながら
それらの光景を王様になった気分で見下ろした
浜の住人は誰1人、滑稽な王に気づかない
そのうち自分は存在していないのではないか
と真剣に考え始めた
そして愕然とした
私は自分の世界すらもっていない
彼らのように
自分としてその場にいることができていない
ということがわかったからだ
彼らにとって私は
初夏の海には場違いな
空っぽ頭の不安定にぐらつくかかし
大切なものが波にさらわれてしまったから
ここに来たのに
片足は痺れだし
それは時の知らせなのだと悟った
そろそろ探しに行かなきゃ
どこか遠くへ流された自分を取り戻しに
無様な王様、無意味なかかしとはお別れ
余裕の顔はもう捨てて、余裕などなくなるほど
命あるものとして
この両手いっぱいの
壊れてしまった欠片が
夕方の涼しい風に乗って
上へ上へ
召されるときがくるのでしょうか
君の笑顔がいつしか陰るようになったのは
僕のせいかな?
思わず口にしたら
僕が笑わなくなったから
と君はこっちを見ずに答えた
灰色と黄金に輝く雲が
ぶつかり合いながらも混ざっていった
空はなくなり
複雑で奇妙な天からは
ミントグリーン色の雨が降り注いだ
君のやわらかな髪の毛を濡らし
僕の熱くなった頬から滴り落ち
この両手いっぱいの
壊れてしまった欠片
傷つけられても
こぼさないように
忘れないように抱えてきたけれど
夕方の涼しい風に乗って
上へ上へ
広がり始めた夜の中で
ぽつぽつと現れる星に
星になったらいいな
となりを
目の周りを真っ黒に囲み
毒々しい派手な口紅を塗った(派手にはみ出していた)
男の子が通り過ぎた
君は
世の中馬鹿ばかりだ
と冷え切った茶色の瞳で辺りを見渡す
自分の世界を理解してほしいと願いながら
みんな頭が悪いから
そう舌打ちして
君はいつも独りで丘の上に立つ
どこよりも高いから
ここが僕の場所なんだって
君は意地悪そうに笑ってみせるけれど
そこには何百年も前から
悠然と植わっている大きな木があるからなんだ
って僕は思う
木の下に座って街を見下ろしては
太陽をさえぎる新緑の葉を見上げる
時々差し込む細い光を
邪魔くさそうに避けている
一瞬照らされた君の目には
澄んだまるい海が映っていたんだ
穏やかで
とても温かそうだったから
僕も入れてってお願いしたい
でも
君は人馴れしていない子猫のように
さっと逃げて消えてしまいそうだから
そばにいるだけにするよ
君の持っているもう1つの世界を
そっとおしえてあげたいな
丘の上でゆっくり寝転んで
一緒に
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