困った - 2003年04月30日(水) 日曜日にくれた携帯のメッセージに月曜日にメールで返事したのに、デイビッドは月曜日も昨日もメールをくれなかった。メールを出せばいつでもすぐに返事をくれる人なのに。だから心配してた。 マサチューセッツからの帰りに事故に遭っちゃったんじゃないかとか、ナターシャに何かあったんじゃないかとか。 そういう心配が始まるといつも止まらない。ずっとドキドキしてた。 今日お昼休みに電話してみたら、オフィスの電話のアンサリング・マシーンが今日の日付になっててほっとした。朝ちゃんと今日の日付と曜日を録音したってことは、生きてるんだ。ケガして入院したりもしてないんだ。ナターシャは? 帰って来てメールをチェックしたら、「これからジョギングに行ってきます」ってメッセージが来てた。変なメッセージなんだから。でもよかった。 バカだ。すぐそういう心配しちゃうのもバカだけど、デイビッドをそんなふうに心配するなんて。心配は愛の始まり? 「足長おじさん」のお話じゃん。 困った。ナターシャのこと愛しちゃってる。 それが一番困った。 母に電話してみる。日本のお昼。 「今日は仕事お休みなの?」なんて言ったけど、これはわけがわかる。 ほんとにいつまでたっても時差がわかってない。 少し元気になってた。 失くしたものは失くすべくして失くしたのだから、取り戻そうと思わないこと。 かわりのものがちゃんと見つかることになってるから。 ずっと前にアニーの教会で聞いたお話を母にした。 それから、 たったふたりっきりになっちゃった家族なんだから、その妹がいつもそばにいてくれることは幸せなことなんだよ、って。 そばに誰かがいてくれることって、ほんとに幸せなんだよ、お母さん。 - 賑やかなキルト - 2003年04月28日(月) ゆうべ遅くに電話が鳴って、あの人だと思ったら妹だった。 母の状態がひどくなってる。妹の話が事実だとしたら、とてもあの母からは考えられない。そっくり騙し取られた離婚の慰謝料にまだしがみついてて、妹のせいにして悪態をつく。妹を罵る。言ってることが支離滅裂で、突然泣き出し喚き出し、笑い出す。妹は病気が悪化して体の痛みに耐えられないと電話口で泣く。ようやく夫の死から立ち直りかけてたというのに。 前日の土曜日には母から電話があったところだった。そう言えば「もう退院したの?」って、いきなりわけのわからないことを言ってた。死にたい死にたい死にたい、それから母は泣くのをこらえながら言い続けてた。それでも妹がゆうべ話してくれたような状態ではなかったのに。生活保護を受けながら小さなアパートで今は一緒に暮らしてる妹には、甘えや本音をすべてぶつけてしまうんだろうと思う。無意識に。 そんな母の言葉や態度に子どもの頃の記憶を重ねてしまうせいで、妹の病気の体の痛みにどんどん痛みが増す。母を罵倒して子どもたちをバカにして夫としても父としてもあったかさのかけらもなかった父が仕事から帰ってくる音が聞こえるたびに、わたしたちは嫌悪感を覚えてた。その嫌悪を今妹はそっくりそのまま母に対して抱えてると言った。「死にたい」と言われるたびに死んでくれたらいいのにと思うって言った。 だけど、90パーセント母の不注意のせいだとしても、誰が母を責められるだろう。先の短い一人暮らしの老人のお金を騙し取る人間の神経が信じられない。それ以上に、完全な神経障害に陥ってしまった母を受け入れて治療してくれるような精神科のない日本の医療システムが信じられない。いまだにまともな治療を施せない精神医療のレベルの低さが信じられない。言ってもしょうがないけど。 そう。言ってもしょうがない。 わたしまでが一緒に弱くなってちゃいけない。 母の苦しみも妹の痛みも辛いけど、彼女たちの不幸がなくなる時が来るのをわたしはどこかで信じ切ってる。絶対来ると信じてる。離れているからこそ助けられることがある。わたしひとりの力ではどうしようもない。だけど大丈夫。絶対幸せは来る。 妹との電話の途中で携帯が鳴った。カダーだった。日本の妹と話してるとこだからって言って切った。かけ直したら「家族は大丈夫?」って聞いてくれた。カダーの声に元気がないから「あなたは大丈夫なの?」って聞いたら「Iユm OK」って言う。この前も OK だった。その前も OK だった。それまではいつも「Everything goes well」って明るかったのに。どうしたのかなって思う。わたしの考えすぎならいいけど。 それに、なんで電話をくれたんだろ。来週いっぱいでカダーはマスターを終了する。今が一番大変なときだ。マスターを取得したら今の仕事を辞めるって言ってた。新しい仕事を探さなきゃいけない。この国で生きてかなきゃいけない。また不安や心配に襲われたのかなとも思うし、ただ勉強に疲れて息抜きに電話してきたのかなとも思うし。でもどっちでもいい。 会って顔を見たいと思う。 恋しくて恋しくて会いたいんじゃなくて、顔を見たい。顔を見ておしゃべりしたい。 true love なんかまだ信じてないけど、もう安心して会える気がする。 今日はお休みだった。 ベッドのリネンを全部剥がしてお洗濯して、新しいベッドスカートをつけてキルトをかける。赤と紺と白を基調にした花柄や水玉模様やプラードやペイズリーやストライプのパッチワークのキルト。カダーが選んでくれた紺色の本棚のスクロールカーテンにも紺とグレイのストライプが入ったランプシェードにも合ってる。ちょっと賑やかすぎるのがお部屋の気分をよくしてくれた。 チビたちが気に入って、仲良く並んで賑やかなキルトの上で眠ってる。 チビたちによく似合ってる。 - 神さまの愛 - 2003年04月27日(日) 金曜日にアンナとスーザンのうちでやってる、バイブル・スタディーに行った。 おもしろかった。最初は緊張してたけど、ファシリテイターのなんとかって人がとてもお話が上手で、進行の仕方も上手で、いつのまにかディスカションにしっかり参加してた。でもまだジーザス・クライストがよくつかめないまんま。ジーザスと神さまをセットにして考えることが違うのかもしれない。何かに例えて解ろうとするのが間違ってるのかもしれない。 土曜日の仕事はキツかった。夜にダンス・スタジオでサルサ・パーティがあるから行くつもりだったけど、とても行けなかった。今日の朝に生理になって、キツかったのはそのせいもあったんだってわかった。そのまま今日も一日仕事がキツかった。 教会のブルースが CBGB でやるクリスチャン・バンドのライブに声かけてくれてた。まだ体がだるかったけど、絶対に行きたくてブルースに電話する。車の調子が悪いらしいから、わたしの車をオファーした。たくさん行くのかと思ってたら、前に教会のあとのランチで会ったシティの演劇学校に通ってる女の子とブルースの友だちの、4人だけだった。演劇学校のドームでその子をピックアップしてから、ブルースの友だちとは CBGB で会った。 CBGB ってあの有名な古い古いロック・クラブで、ローリング・ストーンズなんかもまだ売れない頃に演ってたらしい。大きなホールだと思ってたら、小屋みたいな小さなビルの小汚いとこだった。 クリスチャン・バンドのメンバーがステージで音合わせやってる。ゾクゾクした。 ラップ・ロックは好きじゃないけど、そういう問題じゃなかった。ラップ・ロックのゴスペル・ソングなんてびっくりしたけど、そういう問題でもなかった。なんて言ったらいいのかわかんない。音楽は最高のコミュニケーション・ツールだなんて、なんかジジくさいようなアオくさいようなことを、ジンジンと体で感じた。神さまへの思いや祈りやそういうのが、ガンガンのラップ・ロックから伝わってくる。不思議だった。 まだ20歳くらいの男の子たちのバンドで、CBGB で演るのは初めてらしい。この日がトライアルで、次からの演奏はオーナーのジャッジにかかってる。すごくレベルが高いと思ったけど、CBGB でトライアルで演奏出来るって時点でレベルは高いに決まってる。次の出演の OK が出ればいいのにって思った。 あの人がプロになる前のライブを想像してステージを見てた。 あの人に話してあげたいと思った。 終わってからカフェに行く。 行く途中、携帯を見たらデイビッドからメッセージが入ってた。 マサチューセッツの弟と子どもたちに会いに行ってたって。今帰りの運転の途中でまだマサチューセッツって。それから「きみの週末の仕事が忙しすぎませんでしたように」って。思わず微笑んでしまった。 カフェでたくさんおしゃべりした。 わたしがディーナに言われて毎日お祈りを続けて、そしたらある日の朝突然ものすごく幸せな気分になったこと。それは今まで感じたことのない例えようのない幸せな気持ちだったこと。それからも時々そういうことがあること。そんなことをブルースに話したら、それがホーリー・スピリットなんだって教えてくれた。 あの頃、お祈りはすごくすごく苦しかった。 助けて欲しくて救って欲しくて受け止めて欲しくて、必死に神さまに手を伸ばしてた。そしてある日ディーナが言った。「もう大丈夫。私の助けなしに、あなたは神さまとコネクトしたから。あなたの人生はもう神さまの手の中にあるのよ」って。 わけがわかんないままそれを信じてお祈りを続けたら、あの幸せな気持ちが突然やって来た。 ブルースは違う言い方をした。「きみはそのときに神さまに受け入れられて、神さまがきみの中に入ってくれたんだよ」って。 こんな話をしたら、あの人は何て言うだろう。 天使なんだから、そんなこと当たり前みたいに「そうだよ」って言うかもしれない。 人間のふりしたまま笑うかもしれない。 天使のあの人が「ああ、よかった」って微笑んでくれて、人間のあの人がわたしのこと気が触れたと思うかもしれない。 ジーザスと神さまはまだ結びつかないけど、神さまの愛が今はわかる。いつもいつもそこにいて、呼べば必ず応えてくれる。いつも声を聞いていてくれる。抱き締めていてくれる。神さまの愛はとてつもなく大きくて、それに比べたらこの地上の愛なんてちっぽけで頼りない。そして、それが天使の愛がこんなに大きくて強い理由なんだ。 神さまが愛してくれてる。天使が愛してくれてる。 だから、カダーの愛がほんとに true love だとしても怖くないし、まだ信じられなくてもそれでいい。デイビッドの愛情が絶対に true love になりようがなくても、それもそれでいい。多分。多分。多分。 - 木曜日のひと - 2003年04月24日(木) 昨日デイビッドに「タンゴ踊りに行く?」ってメールしたら、ネットワーキング・イベントにサインナップしたから残念だけど明日は行けないって返事が来た。「でも9時には終わるから、そのあと会おうか」って書いてる。「じゃあタンゴはひとりで行ってくるね。終わったら電話するね。イベントってどこであるの?」って書いたら「前行ったとこと同じ場所」って、そのあとにアルジェンティンタンゴ・クラブの住所を書いて送って来た。わかってるんだって、それは。「そうじゃなくて、あなたのイベントがどこであるのか聞いたの」ってまた送ったら、もう寝ちゃったみたいで返事は来なかった。 平日のお休み利用してたくさんすることがあったのに、出来たのはドライクリーニングに出してた洋服を取りに行ったのと、ドラッグストアで歯磨きペーストとかボディローションとかヘアムースを買ったのと、前のアパートの近くにあるお店まで行ってベッドのキルトを買っただけ。お部屋の模様替えをしたい気分だけど、家具の配置をいろいろ考え直してみても今以上の空間を作れそうにない。だからせめてベッドカバーを素敵なキルトに変えようと思ってた。前に見たときにいいなって思ってたのが、セールになってた。 時計を見たらもう6時前で、急いで高速に乗る。初めて走ってみたルートなのに、珍しいことに間違えなかった。セントラル・パークを抜けてアパーウェストサイドに入る道ももう完ぺきに覚えた。そんなにえらそうに言うほどの道順じゃないんだけど。 少し遅れてアルジェンティンタンゴ・クラブに着く。 先週習ったことをすっかり忘れて、最初のパートナーの人のときはめちゃくちゃ緊張してたけど、太った大きなおじさんが踊ってくれたときはリードが上手くて、緊張がすっかり溶けた。右半回転、左半回転、右半回転、ってつま先でくるくる回るのを教わって、すごく楽しかった。「楽しー」を連発してた。汗いっぱいかいて気持ちよかった。 外は相変わらずまだ寒い。 イーストビレッジにいるデイビッドが地下鉄に乗って、わたしは車で少し下って、デイビッドのアパートの前で待ち合わせる。チョコレートを削ってファッジを作ってアイスクリームにかけてくれたのを食べて、それから一緒に歩いて出掛けた。 もう閉まってるお店のショウケースを覗いたり、ドラッグストアでクランチンマンチとキャンディ買ったりして、映画を観ようとしたら開演時間が20分過ぎてて入れてもらえなかった。わたしが靴屋さんのショウケースで素敵なサンダル見つけて眺めてるあいだに、隣りの隣りの隣りのレストランにひとりで入ってったデイビッドが出てきたと思ったら、手にビスコッティひとつ持ってる。「クランチンマンチひと掴みとトレードしてきた」って。変な人。ビスコッティ割って、半分くれた。ちょっとだけ犬のビスケットの味がした。 アパートに戻ったら、ナターシャが大喜びで迎えてくれる。座ってるナターシャを、しゃがんで後ろから抱き締めて背中に頬ずりしてたら、「フィルムがあったらよかった。すごくいい絵だよ」って、写真撮る格好してデイビッドが言う。今度デジタルカメラ持って来ようと思った。ナターシャと一緒に写真撮って欲しい。デイビッドとも一緒に写真撮りたい。ジェニーに見せてあげようかな。全然カッコヨクないんだよって言ったけど、ジェニーが想像してるよりかはイイかもしれない。わかんないけど。「ふうん」って素っ気なく言われちゃうような気もするし。 「土曜日はいつも何してるの?」って聞いたら、この日はいつも何してるっていうような曜日はないってデイビッドは言った。それから「でも木曜日は別だなあ。なんかさ、いつのまにか木曜日は『きみと会う日』になって、何も特別なことしないけどこういうのなんかいいなあって思うよ」って言った。一回は金曜日だったはずなんだけど。 デイビッドのアパートでの過ごし方はおもしろい。 わたしはたいていナターシャとくっついて床に座ってて、勝手に CD 選んでかけたり FM の好きなステーションかけたり、ちょっと歌ってみたり踊ってみたり。デイビッドはたいていカウチにお行儀悪く座ってて、キッチンに立ってお茶を入れてくれたりキャンディとか持ってきてくれたり。ふたりで別のことしててもおしゃべりが途切れない。 デイビッドが突然音楽を止めてテレビをつけると、わたしもカウチに座りに行って一緒に見る。でもまたいつのまにか、ナターシャとくっついて床に座ってる。 夕べは3時まで仕事したから今日は10時から2時までだけ仕事してそれからテニスしに行って、帰ってから5時まで仕事してそれからまた別の友だちとテニスしに行って、「なんでこんなくたびれてるのかと思ったら、テニスしすぎ」って、言い訳しながらデイビッドカウチでうとうとし始めた。「ちゃんとベッドで寝なよ。あたし帰るから」。そう言って、起こすの可哀相だからひとりで車のとこまで行くことにした。 車のとこに着くまで電話で話そう、そうすれば心配しなくていいから、ってデイビッドが言った。ドアのとこでバイバイをしたらもう突然携帯が鳴る。「hello」が電話の中と後ろのドアの両方から聞こえた。 2ブロック半歩くあいだ、「今桜の下歩いてるところ。バラも咲いてるところ」「車の信号は青だけど歩道の信号は赤だから止まってるところ」ってずっとわたしは実況中継してて、デイビッドがそのたびに「それ、フェイクのバラだよ。よく見てごらん」とか「その信号壊れてるからさ、永遠に渡れないよ」とか言ってた。 「無事車に乗り込んだところ。今エンジンかけたところ。じゃあおやすみ。ゆっくり休んでね」って言ってから「ではまた来週」っておどけて言ったら、「木曜日にタンゴで会いましょう」ってデイビッドが言って笑った。 - 天使にありがとう - 2003年04月23日(水) クレイジーな日だった。 ドクターの TPN のオーダーが3件ともめちゃくちゃで、めちゃくちゃなオーダーのままナースがセットしてる。慌ててドクターにペイジしてオーダーし直してもらったけど、ひとりのドクターが夕方までつかまらない。カバーのドクターもつかまらない。明日はわたしお休みなのに、放って帰るわけにいかない。 PEG 待ちの患者さんに、ドクターが食事をオーダーしてるし。だから。ディスフェイジアなんだから食べられないでしょ。そのために PEG 経管するんでしょ。PEG 入れる手術するまでの数日だけだから、めったに使わない既製の PPN のソリューションを処方してドクターにオーダーお願いしたら、「これ何? こんなの知らない」ってナースが焦る。だからそれでいいんだってば。「今日始めるの?」って不安そうに聞くナースに「お願いだから今日始めて。普通の PPN とおんなじだから」って言い残して、診なきゃいけない患者さんたちのお部屋に走る。 フランチェスカも「もうこんな仕事辞めたい」なんて言い出すほど今日は大変で、帰り際に「あたし頭痛がして来たから今日のダンスのクラス、パスする」って言う。 だからひとりで行った。 仕事が長引いたから遅れそうになって、地下鉄降りてから走る。 まだ気温が低い。5℃しかない。でも走ってダンススタジオに着いたら暑かった。 今日は1時間があっという間だった。 なんとかかんとかって言う新しいステップ習って、ちょっと難しくて何度も間違う。 でも楽しかった。まだまだスパニッシュっぽく踊れないけど、いろんなステップ混ぜて踊るとそれっぽくなって来た。 マスターのコース続けてどんどんカシコクなってくジェニーに比べたら、ダンス教室なんかに通ってるわたしって何だろうって時々思うけど、まあいいじゃんね。「ダンスのクラスどう?」ってあの人が聞いてくれて、「楽しいよ」って答えたら「いいなあ。僕も何か習いたいなあ」って言ってた。いろんなこといっぺんにたくさんやってて、「いいなあ」って思ってたのはいつもわたしだったのに。全然大したことやってないけど、ちょっとはあの人に近づいたかな。ほんとはほかにも習いたいこと出来ちゃって、昨日あの人に相談したらすごい喜んでくれた。音楽だから。でもお金ないから今すぐはダメ。そのうちね。 くたびれてくたびれて、帰りの地下鉄でうとうとしてたら乗り過ごしそうになった。 くたびれたけど気持ちがよくて、ポジティブ・エナジーちゃんとキープしてるよって空に手を伸ばしたい気分。 こんな日は Al Green が耳に心地いい。 天使が見える。いたずらっ子な顔して、笑ってる。 手を振って「ありがとう」って言いたくなる。 きっと何もかも天使の仕業だから。 - embrace - 2003年04月22日(火) ベッドに入りかけたときに電話が鳴った。 あの人だと思ったのに、カダーだった。 この前話したの、いつだったろ。 裁判所に行く前の日だったから、先々週の火曜日だ。 裁判所がカダーんちに行く途中にあって、終わってから電話したけどカダーは取らなかった。それからもうこっちからかけないでいようって決めてた。 「長いこと電話してこないじゃん」ってカダーが言った。 「忙しかったの」って言ったら「忙しかったの?」ってそのまま言い返されちゃった。 カダーはいつだって忙しくて、電話が途絶えたときの言い訳はいつも「忙しかったから」だった。わたしなんか忙しいなんてこと皆無に近くて、いつもたいくつでいつも淋しかった。とりわけあの頃は。だからカダーが驚いたって当然だ。 ほんとに先週は忙しかった。 忙しくしていたくて、ほんとに忙しくしていられた。 「なんで?」 「デートしてたの」 「そうか。そういうことか」。 別にそんなのどうってことないって言い方だったのに、「2回だけだけどね」って慌てて言ったら、「きみの電話待ってたんだよ」ってカダーは言った。 それからハイキングに行った話をして、カダーは昨日レントして観たっていう映画の話をしてくれて、なんかすごく穏やかにおしゃべりしてた。話が途切れるとすぐに「じゃあね」って言い出してたカダーが、話が途切れても少し間があいたあとで別の話を始めてくれる。いつもと違うって思ったのはわたしだけかもしれないけど、目を細めてカダーの顔を眺めながらおしゃべりを聞いてるみたいな、なんだろ、安心かな、そんな気持ちがずっとしてた。もう一生懸命頑張って信じなくても大丈夫なような気がした。 「ほんとにあたしの電話待ってくれてたの?」って聞いたら、少し黙ってから「ちっともかけて来ないからさ」って言った。そんな言い方がやっぱりちょっと意地悪だと思ったけど。 カダーの電話を切って少ししてからあの人が電話をくれた。 「アメリカ、楽しかった?」って聞いたら、「楽しかったよー」って嬉しそうに答える。忙しさに気を紛らせようとしてたわたしの気も知らないで。「いじわる」って言ったら「行くから。行くよ、ね」って、もう何百回聞いたかわかんないよ。 今日、仕事の帰りにディーナのところに行った。 ディーナの教会のわたしのキャンドルはもうすぐ燃え尽きて、そしたら次のキャンドルに火がともされて、また1ヶ月わたしのために燃えてくれるらしい。神さまがわたしを守ってくれるために。 わたしの新しい人生がジェネレイトするとても大事なときだから、ネガティブなエナジーを少しでも持っちゃだめって言われた。「この1、2年で、あなたの人生は驚くくらい変わるのよ」ってディーナは自分のことみたいに嬉しそうに言って、大きなハグをくれた。 幸せになれるかな。ならなきゃね。 自分がちゃんと幸せにならなきゃ、分けてあげられない。 母にも妹にも父にも、別れた夫にも、それから。 幸せになって欲しい人たちみんなに。 お祈りするよ。し続けるよ。 だから神さま。 わたしを抱き締めていてください。 - おやすみ - 2003年04月21日(月) 電話、ありがとね。 わたし眠たくて、何言ったかあんまり覚えてない。 「いつ帰って来たの?」って聞いて 「2時間くらい前」ってあなたが答えて 「なんでアメリカにいる間にかけてくれなかったの?」って聞いたら 「かけたよ、着いてすぐに。何度もかけたけどいなかった。それからずっと忙しかったから」って言ってた。 それからまた「いつ帰って来たの?」っておんなじこと聞いたら 「2時間くらい前」ってあなたがおんなじこと答えた。 それだけ覚えてる。 「いつ帰って来たの?」って、日本語間違ってるじゃんね。 あれ? 間違ってないのかな。 おんなじ国にいたのに、一度も声聞けなかった。 あなたの声が近くに聞こえるから、楽しみにしてたのに。 まあいいけど。いいけど。 あの時はちょっと淋しくて、 あなたは「明日のお昼に電話して」って言ったけど 「やだ。あなたがかけて。罰として」ってわたし言った。 そうだ。それも覚えてる。 キスもくれたっけ。 わたしお返ししたっけ? それから眠たくて眠たくて、眠りに戻った。 電話、くれないね。 もうとっくにあなたのお昼だけど。 わたし、寝るよ。 また明け方に起こされたって平気だから。 だから、きっとかけて。 わたし、寝るよ。 眠りながら待ってるからね。 あのね、明日は雨なんだってさ。 今日は寒かったの。 なかなか来ないよ、春。 - 一週間 - 2003年04月20日(日) 日曜日。 教会に行ったあと、お昼ごはんに誘われてみんなでアフガニスタンのランチに行く。 おうちの用事があって一緒に行けないジェニーがまたわたしのこと心配してたけど、わたしは全然平気で、楽しかった。4時頃までおしゃべりしてた。それからニーラムのおうちに行く。スーティがじゃれついて可愛い。 月曜日。 タックス・リファンドに、弁護士料と政府に払ったリーガルフィーをどうしても入れたくて、わかんないからお昼休みに病院の近くのタックスオフィスに行く。締め切りは明日で切羽詰まってる。結局80ドル払って全部任せることにした。仕事が終わってから車のインスペクションに行く。いつもの修理屋さんでやったら2時間半も待たされて、散々文句言った。そのあとカーウォッシュに行く。 火曜日。 教会で知り合ったアンナとスーザンちのパーティに行く。みんなが帰ったあともアンナと話し込んで、帰って来たのは12時。 水曜日。 サルサのダンスクラスに行く。今日はくるくるくるくるターンするのを習った。早く次のレベルに行きたい。フランチェスカは、今日初めて来てた男の子をキュートだってやたら言ってたけど、わたしは全然そう思わない。だってダンスがめちゃくちゃ下手で、それだけでパス。 木曜日。 マジシャン・デイビッドとタンゴを踊りに行く。アパーウエストサイドのスタジオ。「アルゼンティン・タンゴを教えてくれるとこが近くにあって、行ってみた」ってずいぶん前にデイビッドが言ってたのを思い出して、連れてってもらうことにした。デイビッドが仕事を終わらせる間にわたしが先に行ってることになって、電話でデイビッドが道を教えてくれる。「ハデハデにペイントした奇妙でへんてこりんなドアのビル」ってデイビッドは言ったけど、見つけたとき、すっごい素敵なドアだと思った。スタジオのアルゼンティーナな内装もとても素敵だった。 「初めてです」って言ったら、美人な女の先生がステップを一から教えてくれた。クラスじゃないから、どのカップルもみんな自由に踊っててすごく上手。かっこいい。遅れてやって来たデイビッドと別々に先生に教えてもらってからふたりでやって見たけど、デイビッドは真面目な顔して不真面目に踊る。わたしたちだけがふざけてた。おもしろかった。来週も来たいって言ったけど、デイビッドは「stupid」って言った。ごはんを食べてから、デイビッドを車でアパートに送ってって、ナターシャと会う。公園に一緒に散歩に行って、アパートでお茶を飲んで音楽聴いておしゃべりして、ナターシャとボール遊びをしてナターシャのびっこの足にヒーリング・タッチしてあげて、たくさんおしゃべりして、夜中の2時にうちに帰る。 金曜日。 仕事のあと、グッド・フライデーのミサに行く。まだジーザス・クライストと神さまがわたしの中で結びつかない。帰りにスーパーマーケットに寄って、明日のお弁当の材料を買う。ピタポケットのサンドイッチを2種類作った。タジキを使ったシーフードとチキンのサンドイッチ。それから、ベイビーキャロットとナッツ・アンド・ドライフルーツとブレッド・プディングとりんごをランチバッグに詰めて、ランチバッグごと冷蔵庫に入れる。 土曜日。 教会の人たちとアップステイトの滝にハイキング。先週のミサのあとのランチのときにブルースが言い出したプラン。2段になった滝は、2段目の滝の後ろ側のケイブを歩ける。トレイルはなくて、そこまで登るのはまるでロッククライミングみたいだった。滝の後ろ側を体を曲げて歩く。ミストをシャワーみたいに浴びる。ごうごう音を立てて落ちる滝の横に、ピラミッドを縦に引き延ばしたみたいに氷の山が出来てる。壮観だった。そこからまた上の段の滝のてっぺんまで登る。殆ど45度の傾斜。ブルースの指示に従って岩と木の根っこを掴みながら必死でよじ登る。からだ中ドロドロ。滝のてっぺんで、真夏みたいな陽差しを浴びてお昼寝をした。 今日。 イースターのミサに行く。ジーザス・クライストと神さまが、少しだけわたしの中で近づく。でもまだ結びつかない。この間デイビッドにそのことを話したら、それは頭で考えてわかることじゃないんだよ、って言われた。アンナはホーリー・スピリットを入れて「たまごみたいなものかな」って言ってたけど、違うと思う。だって、黄身と白身と殻はひとつでも全部違う役割をしてるから。だったら何に似てるんだろ。例えば。例えば何だろう。太陽と陽差しみたいなもの? 月と月明かりみたいなもの? まだわからない。デイビッドは、ジーザス・クライストの存在しないクリスティアニティもあるんだから無理に理解しようとしなくてもいいって言った。でも、わたしはわかりたいと思う。 教会から帰って来てから、大家さんちがイースター・ディナーに招待してくれる。「きみはたくさん食べるから気持ちいいねえ」ってフランクが言ってくれるから、調子に乗って食べ過ぎた。イタリアのマスカットで作った自家製のワインがおいしくて、グラスに2杯飲んだらもう眠たくなる。うちに帰って3時間もぐっすり眠ってしまった。 一週間。 あの人から電話がない。 まだアメリカにいるのかどうかもわからない。 平気。平気。平気。ひとりになっても平気でいようとしてみるけど、 平気を装えるだけの言い訳が見つからない。 - 自由 - 2003年04月12日(土) 大雨になるって言うから BBQ パーティはキャンセルになったのに、午前中曇ってた空が午後からすっかり晴れてしまった。最高の BBQ 日和。一番乗りの BBQ パーティが出来たはずだったのに。 予定がなくなってたいくつだから、ジャックとジャックんちの居候大学生のジョニーと、晩ごはんを食べに行くことになった。それでも夜までたいくつで、ビデオを持ってジャックんちに押しかける。 ジョニーはエッセイの課題をやってて、ジャックは相変わらずバカみたいにお掃除してて、わたしは結局ひとりでビデオを観るハメになる。 「Sarafina!」。 フィロミーナが2週間くらい前に貸してくれたやつ。 この時期には重すぎる映画だった。 「Freedom is coming tomorrow」なんて、今は哀しすぎた。 昨日、テレビを観ながらマジシャン・デイビッドと戦争のことをたくさんたくさん話した。「日本のニュースも読む?」って聞くから、インターネットで読むって答えた。日本の報道とアメリカの報道の伝え方が全然違ってたことを話したら、「当然だろうね」ってデイビッドは言ったけど、多分わたしの言った意味はデイビッドの頭の中の想像とは違うんだろうなって、あとから思った。 「よかったと思う?」って聞いたらデイビッドは「そうだね」って言った。「イラクのために?」って聞いたら「イラクのためには哀しいよ。12年前にやってるべきことだったからね」って答えた。そうなのか。ガルフ・ウォーのときにはわたしは何もわかってなかったけど。だけどやっぱりそれは、あのガルフ・ウォーの直後に起こるべくして起こらなかったのではなく、起こるべきでなかったから起こらなかったんだとも思う。 それよりもわたしの思いは、これからのあの国とその近隣国にある。 イラクについてはデイビッドは、日本がそうであったのと同じだと言った。 「ジェネラル・マッカーサー?」「そういうこと。5年ってことはないだろうけどね。それが変われる術なんだよ」。もっと根強くて複雑なものがあるように思うけど、あのときの日本もそこに生きてた人たちにとってはそうだったのかもしれない。 そして、あのまわりの国々はどうなるんだろう。 どうなるんだろう。 カダーの国は? それから、イラニアンもジョーダニアンも。家族が自分の国にいる人たちが身近にたくさんいる。わたしなんかの心配どころじゃない不安や怖れにおびやかされてるに違いない。平和を求めて、例えば小さな紛争が起こり続けたとして、それはほんとにみんな平和に繋がるんだろうか。デイビッドは yes と答えたけど。 今日ジャックに同じことを聞いてみた。「よかったと思うかって? happy か sad か答えられることじゃないけど、答えが必要ならよかったと答える」。複雑で深刻で哀しい問題をたくさんたくさん抱えたカダーの国のことを聞いてみたら、あの国の中で解決出来ることでは決してないのだから、我々が国ごとテイクオーバーするべきなんだってジャックは言った。「我々って?」ってちょっと怒りそうになって聞いたら、ジャックは UN って答えた。 「どんなことがあっても戦争だけは起こってはならない」。そんなことを、ここにただ住んでるだけでアメリカ人ではなくイラクに繋がりがあるわけでもないわたしが、簡単に思っちゃいけないことなのかもしれないって、考えるようになっていた。 「戦争が早く終わりますように」ってお祈りすることも、間違ったお祈りの仕方のような気がしてた。実際、そんなお祈りは出来なかった。終わったところでそんなに簡単な問題じゃないことを、いろんな意味で感じさせられてたから。 これからの幸せを祈らなくちゃいけない。平和を祈らなくちゃいけない。 戦争が終わることが平和なんじゃない。 どんなに長いことかかっても、ずっと祈り続けなくちゃいけない。 でも、すぐに忘れてしまう人たちがきっとまたたくさんいる。 わかったようにあんなに騒ぎ立ててたくせに。 何かが起こったときに、批判しか出来ない人たち。 軽々しい物言いが許されすぎてる国。 自由の意味がわからない人たち。 ジャックんちの近所のイタリアン・レストランはおいしい。 たっぷりのオリーブオイルのせいか、言葉が滑らかにどんどん口から出て来て、いつもにも増してジャックと大笑いしながら、楽しいことばっかりおしゃべりしまくった。 帰るときには、またこころが重くなってた。 なんとなく、なんとなく、なんとなく、一日をまるごと後悔してるみたいな気分だった。 それから、またシルバーのリング失くしちゃった。 - Tomorrow is another day - 2003年04月11日(金) お昼休みに携帯をチェックしたら、デイビッドから missed call が入ってた。 仕事が終わってから電話して、大雨が降ってたから車でデイビッドんちまで行くことにした。アパーウェストサイドの、大きな大きな古いアパートのビル。車を停めるところが見つからなくて、アパートの前から電話する。デイビッドが犬のナターシャを連れて、出てきてくれた。 ナターシャを後ろに乗っけて、デイビッドが運転して、車を停めるところを探す。 30分ほどぐるぐる回って、やっとスポットをひとつ見つけて停めた。ナターシャに抱きついて話しかけながらキスしようとしたら、「No」って引き離された。「知らない人に異常接近されるとこの子は噛むから」ってデイビッドは言った。でもわたしは絶対噛まれない自信があった。 ディナーはレストランから注文してデイビッドのうちで食べることにした。「何が好き?」って聞かれて「ミドルイースタン。それかスペインのスパニッシュ」って答える。「アジア料理なら何がいい?」って聞くから「タイかマレージアンかシンガポーリアン」って言ったら、「ヴィエトナミーズは?」って言う。初めからデイビッドはヴィエトナミーズにするつもりだった。笑った。インターネットのメニューでアピタイザーひとつとアントレふたつを一緒に選んで、デイビッドが電話して注文する。 デイビッドはアピタイザーから順番に、綺麗なお皿ふたつに分けて乗っけてキッチンから運んでくれる。「きみはいつも選ぶのが上手だね」って誉めてくれて、「でしょ?」ってわたしは得意になって答えたけど、それはなぜかデイビッドとごはんを食べるときだけ。普通はわたしが注文するものはたいていハズレるのに。 かけてくれたのは、わたしの好きなジョニー・ミチェルだった。それからちょっと素敵なロシアンの音楽を聴かせてくれた。音楽は趣味だと思ってたのに、デイビッドは昔プロのミュージシャンだったらしい。子どものための音楽を創って自分で歌った CD を出してた。たくさん置いてあった楽譜をパラパラ見てたら、歌を書いた一枚の紙を見つけた。 バースデーケーキを床に落っことしたって そんなの平気。 明日があるさ。 Tomorrow is another day. Everythingユs gonna be OK. わたしの好きなフレーズ。わたしは歌詞を全部声に出して読む。「メリーさんが羊をなくしたって」ってところで、「ここ好き」って大笑いする。 「おもしろいの? わかってるなあ。そこ、笑うとこなんだよね」 「おもしろいよ。だってメリーさんは絶対羊をなくさないもん」 「そうそう。メリーさんは絶対羊をなくさないからね。子どもたちはみんなそこで大笑いするんだ」 デイビッドにその歌を歌ってってお願いしたら、ギターを弾いて歌ってくれた。バースデーケーキが床に落っこちて泣きべそかいてる子どもが見える。「メリーさんが羊をなくしたって」のところで泣きべそかいてた子が笑い出す。「平気だよ。明日はいい日になるからさ」ってデイビッドが笑いながらその子を抱き上げるのが見えた。 ギターを貸してもらって、わたしも弾いてみる。 ドレミファソラシドしか出来なくて、それもちゃんとは覚えてない。ときどき間違えながら「メリーさんの羊」を弾いたら、デイビッドが笑った。 ナターシャがずっとわたしのそばに座ってた。 可愛くて可愛くて抱き締めてキスすると、ナターシャはわたしのほっぺたに顔をすり寄せる。「ねえ、見た? 見た? 噛んだりしないでしょ?」「珍しいよ、こんなの。ナターシャはもうきみが大好きだよ。きみは無条件で動物と仲良くなれる子なんだね」。 デイジーも、ニーラムんちのスーティーも、Dr. チェンんちのマギーも、わたしはすぐに仲良くなって誰もが「珍しいよ」っておんなじこと言ってくれる。だけど、もう12歳のちょっとやせっぽちでびっこを引いてるラブラドールのナターシャは愛しさが特別だった。ときどき咳をするのは、悲しいけど心臓病の前兆だと思った。年老いて心臓病で死んじゃったうちの子と、優しい目もおんなじだった。 帰るときに、昔出したっていう CD を「これもらっていい?」って聞いたら「そんなこと聞いてくれて嬉しいよ」ってデイビッドが言った。 音楽やってた10年間は大変だったって言う。今は全然別の仕事をバリバリやってる。 「あの曲、もう一度レコーディングしたくなったよ。子どもたちのためにまた曲を創りたくなったよ。きみがあの頃を思い出させてくれたよ」 「やりなよ。だって、もう大変じゃないんだから。今なら・・・」 言いかけたわたしの言葉をデイビッドが続けた。「思いっきり楽しんで出来る」。 音楽が好きで、動物が好きで、子どもが好きで、言葉が好きで、お料理が好きで、おしゃべりが好きで。わたしの好きなもの全部好きな人。 だけど好きになっちゃいけない。絶対なっちゃいけない。ならない。 ときどき明日がいい日になれば、それでいい。 - みんなキャンセル - 2003年04月10日(木) 大雪が降って積もった日。いつだっけ。月曜日だっけ。 仕事が終わって駐車場でちょうど車に乗り込もうとしたとき、携帯が鳴った。 ID がマジシャン・デイビッドのだった。 「元気?」「元気だよ。あなたは?」「元気だよ」。 デイビッドだと思い込んでたら、違う人だった。 携帯電話をどこかで拾ったけど持ち主がわからないから困ってて、call history の一番上に表示されてた番号にかけてみたって。「この電話の持ち主をご存じですよね?」って。前の日の晩に、デイビッドはわたしの携帯に電話して来てた。 拾った人はモハメドさんって名前だった。 連絡先を教えてもらって、すぐにデイビッドのオフィスの電話にかける。 デイビッドったら携帯失くしたことにも気づかずに、セントラル・パークで雪の中、子どもたちと雪合戦してたらしい。「僕も彼らを知らなくて、彼らも僕を知らないんだよ。なのに夢中で遊んでた」って、嬉しそうに話す。 それからメールが来た。 「ほんとにありがとう。モハメドさんはとてもいい人でした。ちょっといいプレゼントをしたよ。お金は受け取ろうとしてくれなかったから、『これで奥さんにお花を買ってあげてください』って渡したんだ」。 いい人だなあって思う。 子どもたちは楽しかっただろうな、知らないおもしろいおじさんと雪合戦。 モハメドさんの奥さんは、お花を喜んだだろうな。 今日会おうって誘われたけど、断った。昨日は裁判所に行かなきゃいけなかったからダンス教室に行けなくて、今日に振り替えるつもりだったから。行ってみたら、今日のサルサのクラスは人数が少ないからキャンセルになったって言われた。 それでデイビッドに電話してみたけど、デイビッドは電話に出なかった。 ex-ガールフレンドとか ex-ex-ガールフレンドとか、そういう人と遊んでるのかもしれない。 仕方なく、とぼとぼうちに帰ったら、あの人から留守電が入ってた。 今朝電話くれるって言ってたのに、かかって来なかった。 「ごめんね、時間なくてかけられなかった。向こうからかけられる時にかけるね」。 もう行っちゃったのかな。 いつ着くんだろ、アメリカ。 あっちっ側はもうあったかいよね。 ここはあの大雪の日以来、冬みたいにずっと寒い。雪もまだ残ってる。 金曜日ならいいって言ったから、明日デイビッドと会うかもしれないのに、まだ連絡が取れない。キャンセルになりそうな気がする。 土曜日のジャックんちの BBQ パーティも、この気温じゃキャンセルっぽい。 震えながら BBQ ってのもおもしろそうじゃんってわたしは思うけど。 明日のデートがキャンセルになったら、ディーナのところに行こう。 「この一ヶ月は、ポジティブな力をたくさん集めなさい」。 そう言われてたのに、 全然だめだ。 - 不思議の国のアリスの裁判 - 2003年04月09日(水) 仕事の帰りに裁判所に行く。 去年の夏にスピード違反でつかまったやつの、plea of non-guilty しに。 無罪の申し立て、っていうの? 今頃になって通知が来た。 まだ引っ越す前だったから、裁判所は前のアパートの近くのだった。 遅れちゃいけないと思って、仕事終わって大慌てで向かったら、早く着きすぎてしまった。ひとりだと思ってたのに、待合室で待たされてるあいだにどんどん人が来て、驚いた。 名前を呼ばれたら検察室に行ってくださいって言われて、一番最初に名前を呼ばれる。 検察官の人に、スピード違反を減刑して一時停止無視にすることが出来るから、それに合意すれば6点の点数が3点になって罰金も少なくなります、そうしますか? って聞かれる。 「裁判で無罪を申し立てたらどうなるのですか?」って聞いたら、「あなたは制限速度30マイルのところを59マイルで走ってます。『倍』ですよ。レーダーで測定した記録が残ってます。そのときのポリス・オフィサーも来てます。負けると点数も罰金もそのままです。6点は最高点ですよ。次の車両保険料が跳ね上がります」って言われた。 罰金払わすに済むようになるのかなって思ってたのに。それより点数のことなんか考えてなかった。yes って言わないわけにいかない。いろいろ言い訳考えてたけど、そんなの通るわけないし。 「そうします」って言ったら、「では法廷に行ってください」って言われて、なんで法廷? って思った。広い法廷に座ってたら、あとからまた続々人が来る。卒業式に着るガウンをもっとかっこよくしたみたいなのを着た裁判官のおじいさんが入って来た。 裁判官がなんだか長々と行程を説明したあと、また順番に名前が呼ばれて、今度は一番最初じゃなかった。呼ばれた人は前に出て、なんかいろいろ言ってる。わたしは何を言えばいいのかわかんない。スピード違反じゃなくて一時停止無視でした、って言うの? そんな嘘言っていいの? わかんないよう。 怖くなって、席を立って受付のおにいさんのところにこっそり行って聞いたら、「言われたことに yes って言えばいいんだよ」って言われる。 しばらくしたらさっきの検察官の人が入って来て、裁判官じゃなくて今度はその人が順番に名前を呼び始めた。そこでやっとわかった。 わたしの名前が呼ばれて、前に出る。検察官の人が、スピード違反ではなく一時停止無視の罪なので減刑してください、ってことをなんだかもったいぶって説明して、裁判官がまたもったいぶって同じこと繰り返して答えて、「今日ここで罰金を支払いますか?」って聞かれて「はい」って答えて、確か195ドルだった罰金が100ドルになって、終わった。 ちょっと深刻なふりしてチェック書き込みながら、可笑しくてくちびるの両端が緩んできた。 でもまたちょっと深刻な顔作って、みんなが座ってる中、通路を出口に向かって歩いた。 受付のおにいさんが「どうだった?」って笑って聞く。 「平気だった」って笑って言ったら、「でしょ? さっきは緊張してたね」だって。 「今度からもう大丈夫よ」って言ってバイバイって手を振った。 おもしろすぎ。 あれは偽物の裁判官と検察官だったのかなって思った。 不思議の国のアリスの裁判みたいだったなって思った。 - 会えないから幸せなのかな - 2003年04月08日(火) あの人がアメリカに来る。 やっぱり仕事で、やっぱり反対側で、だからやっぱり会えない。 突然決まったスケジュール。あの人は嬉しそうだった。 つまんない。会いになんか行けないよ、そんな突然。 昨日は1時間も話した。 「私に一杯おごらせてください」 「この辺でいいカフェをご存じですか?」 「すぐ戻りますから、ちょっと待っててください」 「好きな体位は何ですか?」 「もうイカせて」 って、英会話の練習。 発音の練習して、笑って笑って、応用編ってエッチなのばっか聞かれて教えて、エッチはやっぱり丁寧語じゃなくちゃって「もうイカせていただいてよろしいでしょうか?」とか練習して、笑って笑って、楽しかった。そういうんだったら1時間でも平気で電話してくれる。 今朝もかけてくれた。昨日の続きって復習して、また笑って笑って。 それから、「仕事頑張っておいで」って言ってくれた。 切ってから淋しくなった。 シャワー浴びながら、淋しかった。 車運転しながら、淋しかった。 淋しいよ。 3時間しか時差のないとこに来てくれるって、いつもそう思って嬉しかったのに 3時間しか時差のないところが今はものすごく遠い。 なんでこっちで仕事ないんだろ。 たくさん会えるのに、 そばにいてくれるのに、 どうしてそういう悲しいこと言うの? なんでそんなに悲しいことばっかり考えるの? わたしは会えないから幸せなのかな。 - 消えた1時間 - 2003年04月06日(日) 教会に遅刻した。 1時間も遅刻した。 なんで遅刻したのかわかんなかった。 なんで今日は1時間も早く始まったんだろって思ってた。 お話半分しか聞けなくてバイブルのところ聞きそびれちゃったけど、今日はなんだか泣けてきそうになる。ここんとこ、ちょっとエモーショナルすぎてるかもしれない。 ミサのあとに映画鑑賞があって、それを楽しみにしてた。 劇場公開を見逃した「My Big Fat Greek Wedding」。同僚の間で大評判だった。2月に DVD が出たときにジェニーが一番に買って、貸してくれることになってたけどまだ借りてなかった。こんなに笑った映画、珍しい。でもグリークの世界がこんなに身近じゃなかったら、これほど笑えなかったかもしれない。コメディ・ロマンスのお約束通りペーソスももはずしてないけど、最初から最後までカームなハッピー・パーソン役のイアンがいい。なんか、久しぶりに思いっきり笑ったみたいな気がする。 映画鑑賞は教会の「シングルの会」みたいなやつのイベントで、ほんとはそれも楽しみにしてた。ジェニーは今週末シフトが入ってるから来られなかったけど、「アンタは絶対行っておいでよ、シングルが集まるんだから」なんて言われてちゃっかり参加したら、映画終わってからちょっと感じいいジャーマン系の男の人が話しかけてきた。もっとおしゃべりしてみたかったけど、お手洗いに行って戻って来たらもういなかった。 まあいいかって、車に戻って、久しぶりにマジェッドに電話した。 今度の土曜日ジャックんちで BBQ パーティやるから、誘うため。久しぶりで、いっぱいおしゃべりした。相変わらずジェニーのこと聞くから、どうしようかってちょっと迷ったけど、つき合い始めた人がいること話した。大丈夫。大丈夫。マジェッド、大丈夫。あなたならきっといい人に巡り会える。「ジェニーが来ても、BBQ 来る?」って聞いたら、「何も予定が入らなかったらね。もし行かなくても、ジェニーが来るからじゃないよ」って言ってた。来ないかもしれないな。 そして、マジェッドに電話して初めてわかった。 教会に遅刻した理由。 デイライト・セービング・タイム、今日からだったんだ。 「え? 6日からだよ?}って言ったら、「今日6日だけど」って言われた。 なぜか6日は来週だと思ってた。毎日日記書いてて、昨日は5日のバースデー・メッセージも書いたのに。 そう言えば、ゆうべコンピューターの時刻が「1:57」を示してるのを見てて、少し経ってから突然「3:10」なんてのになってたのが、「アレ? もう3時? いつの間に?」って不思議だった。まだ全然気づかず、「消えた1時間」なんてマヌケなこと思いながら。 そのあとカダーにも電話した。 「教会行ったの?」って聞いてくれた。 先々週の月曜日に話したとき、牧師さんのお話のわかんなかったとこ聞いた。バカにしないでちゃんと答えてくれた。今日はゴスペル・ソングの歌詞に、よくわかんないとこがあった。電話したときには、わかんなかった歌詞がわかんなくなって、聞けなかった。教会なんかに行き始めたこと、笑わないでいてくれるのも嬉しい。足首の捻挫のこと聞こうと思ってて忘れた。「またあとでかけるよ」って言ったくせに、かかって来なかった。 日本との時差が1時間縮まって、あの人との電話の約束がもっと難しくなる。 今日かけてくれることになってるのに、あの人からもまだかかって来ない。 「来週から夏時間だよ」って言っちゃったから、あの人は今日時間が変わったこと知らない。 タックス・リターンの申請を、やっと今日始めた。 マジェッドはもうとっくにやって、今頃始めたわたしのこと笑われちゃった。なんとか間に合わせなきゃ。 明日は大雪になるらしい。 夏時間が始まったっていうのに。 カダーが恋しい。 マジェッドも恋しい。 マジシャン・デイビッドまで恋しい。 早く電話かけてきて。 あの人の声で、週末のエモーショナル消したい。 - Remy Shand を聴きながら - 2003年04月05日(土) Remy Shand を聴きながら あなたのことを想ってます。 あなたにも、 そんな時がありますか? お誕生日おめでとう。 遅れたんじゃないよ。 ここは今日が5日だからね。 寂しくない寂しくない寂しくない。 笑って笑って笑って。 貴女の広くて大きなこころが 微笑みで埋め尽くされますように。 今日も明日もあさっても。 ずっとずっとずっと。 - 許す - 2003年04月04日(金) 頭痛がおさまらなくて、今日も休んだ。 昨日のお昼ごろ、Dr. チェンが心配して電話をくれた。 ドクターの診察そのまんまで、次から次から質問されたけど、頭痛がひどかったのとなんとなく話したくなかったのとで、適当に答えてた。 今日も電話をくれた。 髄膜炎の可能性があるからスパイナル・タップしに行くとかって脅かす。「やめてよー。ただの頭痛だって。もうブツブツも消えたし、平気だって」。 スパイナル・タップって、強烈に痛い。骨髄液採取するやつ。前に住んでた街でやったことがある。ひどい偏頭痛で転げ回って、やっぱり ER に飛び込んだとき。3日間歩けなくて、1ヶ月腰が痛かった。 「昨日よりずっと元気になったじゃん」って、 Dr. チェンは笑った。 それから、先週の土曜日のクラブでのことを、Dr. チェンは謝った。すごく一生懸命謝ってくれた。ほんとはキスされそうになったんじゃなくて、された。ジャズ聴いてるとき。「ちょっとダンスフロア見てくる」っていきなりキスして席立ったから、怒るヒマもなかった。ダンスしてるときにまたされそうになって、「No! Donユt!」って両手でドクターの口思いっきり塞いだ。 「ごめん。ちょっと酔いすぎてた。ほんとにごめん。どうかしてた。僕は普通はそんなふざけた男じゃないんだけど。ごめん」。あんまり一生懸命だから、「酔ってたことはわかってるけどさ」って笑った。 ジェニーと一緒に、仕事終わってからお見舞いに来てくれるって言った。「スパイナル・タップするよ」って、まだ言ってる。 「何が食べたい?」って聞かれて、「なんかあったかいもの」って答えた。昨日から何も食べてなかった。マレージアンのヌードルとチキンを買って来てくれた。 Dr. チェンはジェニーに、先週末のジャズ・バーもクラブもすごく楽しかったことを話す。「知ってるよ、聞いた」ってジェニーが言ったら、「ちょっと酔いすぎたんだ。あんなことして」なんて言い出すから、慌てて「ストップ! もういいって」ってドクターの腕をひっ掴む。バカ。そんなこと、ジェニーにだって話してないのに。「何よ何よ。何があったの? やっぱりいいや。聞きたくない」ってジェニーが言った。うん。聞かないほうがいい。お昼休みに電話をくれたジェニーは、「Dr. チェンってほんとにいい人だよ。アンタのことものすっごく心配してさ」って言ってたばかり。 キスぐらい、なんて思えない。 一番許せないのは、結婚してるのにってこと。 許せるのは、奥さんを心底愛してて、アレはほんとにはずみだったってこと。もし奥さんと上手く行ってないとかだったら、100パーセント許せない。 二番目に許せないのは、たとえもしも Dr. チェンが結婚してなかったとしても、絶対にキスなんかされたい相手じゃないのにってこと。 だけど、いくら仲いい男友だちだったって、ふたりっきりで踊りに行ったりしたわたしが軽率だった。くっついても平気な「お兄ちゃんみたいな大好きな友だち」のマジェッドとはわけが違う。 だから総合して「許す」。 デザートに、アイスクリームにラム酒をかけて出す。 「ウイスキーもあるけど、飲む?」ってからかってやったら、「もう勘弁してよ」って、Dr. チェンは本気で困ってた。 ジェニーはデートの約束があった。Dr. チェンは「大丈夫? 僕はもう少しいてもいいけど」って言ってくれたけど、「ジェニーに駅まで乗っけってもらいなよ。あたしはもう大丈夫だから」って、ふたりを送り出した。 ふたりが帰ったら急に淋しくなって、やっぱりいてもらえばよかったかなって思った。もう絶対ワルイコトしないだろうし。 夜になってフランチェスカが電話をくれた。水曜日のダンス教室のあとの食事のせいで、わたしの胃がまたおかしくなったって思ったらしい。「Dr. チェンがものすごく心配してたよ」って言ってた。ジェニーと来てくれたこと話したら、「いい人だね。いいね、Dr. チェンみたいな男友だちがいたら最高じゃない」だって。 だから誰にも内緒にしてあげる。Dr. チェンは、腕がよくて頭が切れて患者さん思いで奥さん思いの、誰からも評判のいいドクターのままでいなきゃ。 妹に電話した。会いたいと思った。 それから、別れた夫の顔がたくさん浮かんだ。淋しい顔。悲しい顔。辛い顔。やり切れない顔。 苦しくなる。なんで思い出すんだろ。なんで笑顔を思い出せないんだろ。 昨日も今日も、少しだけ胸が痛い。 - 答えなくていいです - 2003年04月03日(木) 頭が割れそうなほど頭痛がして左足が痺れて立てなくて、腰が抜けそうにだるくて痛くて、 仕事に行けなかった。 昨日もお休みだったのに。 フラフープのしすぎかと思った。 そしたら生理が始まった。 夕方になって、顔と首筋にブツブツがいっぱい出る。 最近冴えない。 体調崩しっぱなし。 「何もかも上手く行ってる」なんてほんとかなって思う。 そして気が沈む。 だから、ソルトバスに浸かって、お祈りをいっぱいした。 あの人のことも母のことも妹のことも父のことも、 カダーのこともマジェッドのことも たくさんたくさんお祈りして、 それから、わたしのこの沈んだ気持ちをどうかどうか取り除いてくださいって お祈りした。 なのに。 あなたの仕事なんか嫌い。 あなたの仕事なんか応援しない。 あなたの仕事が上手く行かないようにお祈りしてあげる。 あなたなんか嫌い。 もう電話しなくていい。 あの人は少し怒ってたくさん悲しんだ。 「わかった。きみがそんなふうに言うんだったら、僕はもう・・・」。 言い終わらないうちに電話を切ったのはわたし。 そんなの嘘に決まってるじゃん。 あなたの仕事が大好き。 あなたの好きな仕事が好き。 あなたの仕事が好きなあなたが好き。 あなたが好き。 なんであんなこと言ったの? 神さま、みんな嘘です。 わたし、あの人の仕事がずっと上手く行くように、お祈りします。 神さま、わたしはあの人の仕事が好きです。 神さま、わたしはあの人が好きです。 だから、あの人が幸せでいられますように。ずっとずっとずっと。 なんでかわかんないけど、チビたちが死んじゃうかもしれない、死んじゃったらどうしよう、突然そんなこと考えて涙が溢れ出して、泣きながらまたお祈りした。 明け方になって電話が鳴った。 「もしもし?」 「・・・」 「さっきはごめん」 「・・・」 「やっぱり電話したい。きみと話したい。だめ?」 「・・・」 「もうきみは話したくない?」 「・・・」 「僕のことが、ほんとに嫌い?」 「好き」 「うん。じゃあ仲直りしよ」 「ん」 「月曜日、電話するから」 「あなたの仕事、好き」 「うん。今もう行かなきゃいけないから」 「あなたの仕事応援してる」 「うん。ちゃんと寝なよ? 僕はもう行くけど」 「あたし、いっつも応援してる」。 だから。あの人が忙しいのに、そうやって切り際に切りたくなくてずるずるずるずる引き延ばそうとするのがいけないんだってば。 あの人が好き。 一番好き。 誰よりも好き。 神さま、ほんとはあの人が true love でしょう? 答えなくていいです。 - 恋人でもないのに - 2003年04月02日(水) お休み。 フランチェスカとダンスのクラスに行くために、夕方から病院に行く。 病院に車を置いて、地下鉄に乗る。 クラスは8人で、ひとりだけ男の人がいた。その人の彼女みたいな人が一緒だった。 先週見学したラテン・テクニークのクラスは男の人が8人もいて、「よかったじゃん」ってジェニーが言ってたけど。わたし男見つけるためにダンス習いたいんじゃないのに。 先生は男で、ティピカルなダンスの先生って感じだった。だぼだぼのパンツ履いて、胸のところを紐で編み上げるシャツ着てて、細くて背が低い。なんかわかんないけど、「ダンスの先生」以外の何ものでもない風貌だと思った。 隣りのスタジオでサルサの上級クラスをやってて、すっごく難しそうだったけど早くあんなの踊れるようになりたいって思った。サルサって100以上種類があるんだって。今日習ったのは一番基本のバック・アンド・フォウォードとサイドとターンで、「サルサ・ニューヨークスタイル」とか先生が言ってた。イミわかんない。簡単だったけど先生がやるとやっぱり違う。わたしはどうしてもクラブ用みたいになっちゃう。思いっきりスパニッシュっぽく踊りたいのに。でも誉められちゃった。 受付の男の人がちゃらちゃらしてて、先週フランチェスカは「ジャークなやつ」って怒ってたくせに、今日はやたらおしゃべりしてた。それでまたあとから「ジャーク!」って怒ってる。「そんなこと言ってちゃんと相手してるじゃん」って、ジェニーになら言うのに、フランチェスカには言えない。 クラスが終わってお腹が空いたけど、あの辺りはあんまり素敵なお店がない。ミッドタウンもタイムズスクエアよりに行くと少しはいいとこあるけど。ビルのエレベーターで一緒になった別の階から降りて来た人に、その辺でおいしいとこどこか知らないか聞いたら、すぐ隣りのお店を「ここならわりとイケルよ」って教えてくれた。 フランチェスカはその人がカワイイって言って、「一緒に食事しませんか?」って言えばよかったって言う。わたしは別にそう思わなかったけど、「じゃあ追いかけてきなよ」って言ったら、ほんとに追いかけようとした。見失っちゃったみたいで、「ああ、なんでさっき誘わなかったんだろ」って本気で残念がってる。「アンタ何考えてんの?」って、ジェニーになら言えるのに、フランチェスカには言えない。だいたい、ジェニーなら絶対そんなことしない。 そういうホンネをジョークにして言える相手と言えない相手がある。フランチェスカは言えるタイプじゃない。誰もフランチェスカには言えないんだろうなって思う。なんか、言ったらすごく傷つくか怒って口聞いてくれなくなるか、そんな気がするから。つまんないなって思った。それから、わたしフランチェスカに似てないじゃん、って。だってわたしはジャークな男の相手なんかしないし、全然知らない男をいきなり誘ったりしないよ。わたしはバカかもしれないけどもうちょっとマトモだ。違うか。別のとこでもっとマトモじゃないか。わかんない。 あの人が、ベリーダンス習いに行って欲しくないって言った。 エッチなダンスって言ったから。セクシーなだけで別にエッチじゃないんだけど。おんなじこと? 「そういうのきみが踊るの人に見せたくない」って言うから、「いいじゃん。一緒に踊りに行った相手に見せるだけなんだから」って言ったら、あの人はいやだって言った。男とふたりで踊りに行くのもいやだって言った。 恋人でもないのにそんなこと言わないでよ、なんて思わない。恋人でもないのにそんなこと言ってくれて嬉しい。 なのに、「なんでよ。あなたには彼女がいるんだから、あたしが誰と何したってかまわないじゃん」って言っちゃった。そしたら「それ言われたらしょうがない」って言われた。それから少し黙って「ごめんね」ってあの人は言った。 泣きそうになった。 自分が言い出したくせに。 あの人ときどき恋人すぎる。 ときどき、あと千年待てそうになくなる。 - うさぎの耳 - 2003年04月01日(火) 「指輪失くしちゃった」って電話した。 「どの指輪?」って聞いてくれた。 シルバーの3連ので、ちっちゃいクロスが彫ってあって、右手の人差し指にしてたやつ。クロスのところがちょっと黒くなって来てたのが、夏にビーチに行ったときも外さないでいたら、海の塩水に浸かってもっと黒くなると思ってたのになぜか逆にピカピカになった。 みんなが「この指輪いいねえ」って言ってくれてた。全然知らない人まで、「その指輪素敵だね」って突然言ってくれたり。 「僕も好きだったよ、あの指輪」ってカダーも言った。 カダーは、3日前にラケットボールやって、右足首を捻挫したらしい。 昨日まで歩けなかったけど、今日やっと歩けるようになったって。あんなに大きくて強い人が歩けなくなるってどんなだろうって思った。 相変わらず意地悪で、しつこくフランチェスカに会わせろって言う。フランチェスカ怒ってたよ、って言った。 「なんであたしが自分の友だちとつき合ってた人と会いたいと思えるわけ? 頭オカシイんじゃないの、カダーって。ホントにひどい人だね。もうカダーと話するのやめなよ。カダーなんか忘れちゃえってば」。そう言ってたよ、って言ったら、カダーは「クール!」って大笑いした。くやしい。がっかりすると思ったのに。ほんとにフランチェスカはそう言った。カダーに会わせようと思って話したわけじゃないけど。 みんなカダーのこと悪く言う。当たり前か。 誰と踊りに行ったのか、カダーはやっぱり聞いた。今日フロアで Dr. チェンに会った。普通に Hi って言ったけど、もう顔見るのがイヤだった。せっかく楽しい友だちだったのに。 切るときに、「あたしの指輪、出てくるようにお祈りしてね」って言ったら「お祈りするよ。だけど、クラブに電話して探してもらいな」ってカダーは言った。そうじゃん、って思って今日電話したけど、見つからなかった。 エヴァがお昼休みにフラフープを買って来た。 KB トーイズで買ったって言ってたけど、わたしもこのあいだ近くのドラッグストアでおんなじの見た。イースター・グッズの売り場にあった。わたしはバニーガールが頭につけるみたいなうさぎの耳があんまり可愛くて買った。「3歳以下のお子さまには使用しないでください」って書いてあった。 みんながおもしろがって順番にフラフープする。「子どものとき以来だよ」ってジェニーは言ってたけど、わたしはやったことない。ラヒラは腰が上手く振れなくて、あんまり不格好だから大笑いした。「そんなに笑うなら、やってみてごらんよ」ってラヒラに言われてやってみたら、ヒュンヒュンいくらでも出来ちゃった。「どうやってそんなにクルクル腰回せるの?」ってラヒラが悔しがって、「ラヒラ、まずクラブに踊りに行くことから始めなきゃ」ってジェニーが笑う。 おもしろくて、帰りにドラッグストアに寄ってフラフープ買っちゃった。 頭にうさぎの耳つけて、ベッドの上に立って、鏡の前でフラフープする。 うさぎの耳、可愛い。 -
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