明日から行ってくるよ - 2004年01月24日(土) 朝デイビッドのアパートを出て車のところに行ったら、なかった。車が。 停めた場所違ったかなと思ってうろうろ探したけど、やっぱりどう考えても停めたところはそこで、そこにはわたしの車がぽっかりなかった。トウされたって気づいた。走ってデイビッドのアパートに戻って、まだ寝ているデイビッドに叫ぶ。「車、トウされた!」。 デイビッドは飛び起きて、わたしにレジストレーション・カードを仕事場でコピーさせて、NYPDのトウ・パウンドのサイトで探してみるからきみは地下鉄で仕事に行きな、って言った。土曜日の地下鉄の便は悪くて、30分遅刻した。ボスのいないウィークエンドでよかった。電話したら、わたしの車はやっぱりトウされてて、デイビッドはNYPDのそのトウ・パウンドの場所や罰金の値段や車を受け取る手続きやそういうのを書いたのを病院のオフィスにファックスしてくれた。 仕事が終わってから、今日もまたうんと低い気温の中、地下鉄に乗って車を取りに行く。トウ代185ドル。駐禁チケット115ドル。ちゃんとサインのポールを越えないように停めたのに、雪の下に埋まった横断歩道の白い線が見えなかった。 もう雑巾みたいな気分だった。 昨日はまたデイビッドとケンカして、朝の4時までどこまで行っても交わらない平行線の会話を繰り返して、せっかく一週間ぶりに会ったのになんでこんなに言い争わなくちゃなんないんだろと思ったらボロボロボロボロ涙がこぼれて、ベッドの上で膝抱えて子どもみたいに泣きじゃくった。 そしたらデイビッドがわたしの背中をさすりながら、なんでそんなに突然子どもみたいに泣き出して止まらないのか聞く。わたしの心の中にあるものがなんなのか聞く。そのうち「ほら、話してくれなきゃわからないよ。子どもだってお母さんに理由を聞かれたらちゃんと答えるだろ? マミーに話してごらん。先生に叱られた? テストの点が悪かった? 意地悪な子がいるの? 誰かがいじめた?」。 笑いもせずにそんなこと言うデイビッドの目は、ほんとにお母さんみたいに深くて深くてあったかくて、わたしも笑わずに答える。「デイビッドが意地悪なの。デイビッドのやつがいじめるんだ。デイビッドはあたしのことがキライなんだ、きっと」「そうかな。デイビッドはきみのことが好きだよ」「じゃあなんであんななの? あたしはデイビッドが好きなのに」「デイビッドが好きなの?」「きらいなとこもいっぱいあるけど、それでも好きなのに。だからあたしどんなにケンカしてもちゃんと分かり合いたい。諦められない。もうこんなのやだってやめちゃうこと出来ない。ちゃんと分かり合いたい」。デイビッドはわたしの背中を引っ張って「もういいよ、わかったよ」っていつもみたいにわたしを腕の中に抱えた。あったかくて心地よくて、そのまま泣きながら眠った。 それでも雑巾みたいな気分だったのは、そうやってケンカしては半分仲直りして、会ったらまたケンカしてそれでまたなんの解決もないまま半分仲直りして、やっぱりデイビッドとわたしはどこにも向かうことが出来ないんだ、これは間違ってるんだ、ってそんな気がしてきた上に、駐車違反で車持ってかれちゃって持って行かれ代と罰金払わなくちゃいけなくなって、そしてその上もうこの寒さにいいかげんくたびれて来ちゃったから。 きーんと寒いのが好き。なんてもう言ってらんない寒さな毎日。嫌になるより、くたびれる。 「無事車が戻ってうちに帰ったら電話しておいで」って言ってくれたデイビッドに電話する。携帯の電池が切れてたから外からかけられなかったから。 明日からのスキー旅行のプランをたくさん話してくれた。 「それから旅行のあいだに僕たちのこれからのことをちゃんと話し合おうよ。今までいつも途中で終わったままだったから」。 デイビッドがそんなこと言い出すなんてびっくりした。そして怖かった。 「これからのことって何? どういうこと?」。コワゴワ聞いたら「怖がるようなことじゃないよ。もう会うのをやめようなんて言わないよ。そういうことじゃなくて」。 お互いが求めてることを分かり合わなきゃ。分かり合えなかったら? 分かり合えるよ、同意し合えないことがあったとしても、理解し合えるよ、正直な気持ちになって理解し合おうよ、それぞれがそれぞれに望んでることをちゃんと正直に話し合おう。 そうだ。そうしなきゃ。食い違いばっかで悲しくなるかもしれない。それでもそうしなきゃ。そうしたい。やっぱり怖いけど、怖くても。 「きみのための休暇だよ」ってデイビッドは言った。 行ってくる。昨日は「もう行かない」とか思ってた。でも行ってくる。ジーザス連れて行ってくる。守ってください。 - ひとりの時間 - 2004年01月21日(水) 3連休。何もしなかった。 土曜日はスタジオのダンス・パーティにも行かなかった。デイビッドがいないってだけでつまんない自分がつまんないなあって思ってた。マジェッドから電話があった。ちょっと前にメールが来てて、携帯を変えて番号を移動させてるときにわたしの番号失くしちゃったから電話してって。電話をかけたら、よりを戻した ex- ガールフレンドとのことをイロイロ聞かされた。上手く行ってないみたい。そのうえ事故しちゃって車が大破して落ち込んでた。土曜日の電話は、わたしと会いたいって電話だった。ダンス・パーティに行くかもしれないから今日はだめだよって断った。わたしってひどい。でも、なんとなく気が乗らなかった。 母に電話した。ずっと気になってたのにクリスマスにもニューイヤーにも電話しないでいた。妹はとうとう出て行ってしまったらしい。母はものすごくおしゃべりだった。話す内容は暗いのに、明るく振舞ってたのかただ久しぶりの話し相手におしゃべりが止まらなかったのか、却ってそれが痛々しくて、わたしのほうが暗くなってしまった。 日曜日は教会が終わってすぐに、デイビッドが電話をくれた。カリフォルニアは60°Fとか70°Fとかで、今日は10マイルローラーブレイドしたって言ってた。明日は山にバイクライドしに行くって言ってた。教会の外は重たい雪が降ってた。帰ってからお掃除をしようと思ってたのに、しないでぼーっとしてた。月曜日にはちゃんとお掃除して、夜にはやっとベリーダンシングのクラスに出掛けた。 こんなになあんにもしなかったなんてこと、最近まったくなかった。 意地みたいに忙しくしてるうちにほんとに忙しくなって、ディーナがわたしの生活がうんと変わるんだって言ってたことがほんとになった。「すべてのことが上手く行く」。そう言ったディーナの言葉をも一度信じて、すべてのことが上手く行くのがもう少しちゃんと見えたら、ディーナに電話しようと思った。 昨日はなんだかものすごく久しぶり仕事するみたいだった。なにもしなかったロング・ウィークエンドがとてもとても長かったから。サルサのクラスで先生に土曜日のパーティのことを聞いたら、100人くらい集まってすごい盛り上がりだったのにって言うからちょっと後悔した。 オスカーさんと地下鉄の駅まで歩いた。姪っ子に赤ちゃんが生まれて「おじいちゃんおじさん」になったって笑ってた。「ベイビー・ガール? ベイビー・ボーイ?」「ベイビー・ガール。アリスっていうんだ」「不思議の国のアリスのアリス?」「そう、不思議の国のアリスのアリス」。不思議の国のアリスっていえばきみのこと思い浮かべるよってオスカーさんが言って、なんか嬉しかった。単にカワイイから。あのお話はわたしには恐ろしくて、あんな夢絶対見たくないって思うけど。「木曜日のタンゴ、絶対来てね」ってバイするときにオスカーさんに言う。木曜日はオスカーさんのバースデーだから、ケーキを買ってこうって決めてるから。 今日うちに帰ったら、「ただいま」ってデイビッドからメールが来てた。 少ししてから電話が鳴った。カリフォルニアでのことたくさん話してくれた。それからわたしがどうしてたか聞いてくれて、そのあとデイビッドは言った。 「カダーに会った?」 わざと間を置いてから「会ってないよ」って答えたら、「きみが脅かすから僕は恐かったよ」ってデイビッドは笑った。間を置いた意味なし。だから言った。「ほんとは会ったんだ」「会ったの?」「うん」「・・・。そう」。 バカ。そんなふうになるなら、なんで自分は ex- ガールフレンドと会って、それを嫌がるわたしに「きみが妬く理由なんかない」なんて言うのよ。 かわいそうになって「うそだよ。会ってないよ」って言ったら安心したみたいに小声で「okay」って言ってた。それが可笑しくてケラケラ笑ったわたしはもっとバカ。 カリフォルニアにいるあいだ、寝る時間以外10秒すらひとりの時間がなかったって言ってた。ひとりの時間が恋しくなったって。明日は会えるかどうかわかんないけど、もし会えなくてもかまわない。ひとりの時間をあげる。そしたらわたしも、ひとりの時間を上手に過ごしてみる。 - ガールフレンド - 2004年01月16日(金) こんな寒さ、多分わたしの人生で経験したことない。 寒さのせいか、タンゴ・クラブに来たのはわたしとロシア系さんとあと男の人2人だけだった。だからたくさん踊れた。やっぱりロシア系さんと踊るのが一番楽しくて上手く踊れる。あったかいお部屋でタンクトップで踊って踊って汗かいて、薄いセーター着てその上にごっついセーター着てロングのコート着てスカーフぐるぐる巻きにして帽子かぶってブーツに履き替えて、外に出たらまたほっぺたがちぎれそうな冷たさだった。 デイビッドのアパートからそのまま映画を観に行く。 帽子の上からフードを被って、それでもとても顔を上げて歩くことが出来ないわたしを、スキージャケット着て目だけ出した格好のデイビッドが手を引っ張って走る。 「 Something's Gotta Give 」。面白かった。めちゃくちゃ笑った。キャスティングが違ったら大して面白くなかったかもしれない。ジャック・ニコルソンとダイアン・キートンって組み合わせのせいだ。キアーヌ・リーヴのきどったヤアーなドクターぶりが吐きそうなほどで、「げえ。こんなドクターいないよな」ってデイビッドが言うから「典型的なドクターじゃん。あたしにうるさく言い寄るドクターたちはみんなあんなだよ」って言ってやる。うそばっか。 ジャック・ニコルソンが臆病でフヌケなせいでいらいらしたから、面白かったけどわたしは星3つ。結局全部ダイアン・キートンのおかげじゃん、って頭に来た。キアーヌ・リーヴはキザだけど真っ直ぐで、年齢いった男と若い男の違いが分かりやすかった。そう、分かりやすかった。これだ。 デイビッドは言ってたっけ。若い頃の恋愛みたいには簡単にいかないんだよって。でもわたしはやだ。年とか経験とか関係ない。自分のこころに正直でいないからよけいややこしくなるんだ。どのみち恋なんかある程度までは共通にややこしいのに。 映画館を出る途中、またデイビッドは女の子の二人連れをからかってる。頭に来てひとりで映画館を早足で先に出て、そのままアパートへの道を走った。叫びながら追いかけてくるデイビッドを振り向きもしないで走った。道路に積もった雪をすくって固めて、すぐ後ろまでやって来たデイビッドの顔に投げつけてやった。外れた。 笑いながらアパートに戻って、お茶を入れる。それからインターネットで、一緒に行くスキー場の地図と写真を見せてくれた。デカすぎて恐い。5日間もこんなとこ滑っては登って滑っては登って、デイビッドは超上級コースに行っちゃうのにわたしはひとりで中級コースを滑っては登って滑っては登って、孤独じゃん。恐い。 ベッドに入ってまたケンカした。ex- ガールフレンドの話をするから、まだ今でも定期的に会ってごはんを食べてるそういう関係をわたしは絶対オカシイってなじる。ただごはんを食べるだけって言ったって、彼女に対してなんの感情も持ってないって言ったって、指一本触れないって言ったって、彼女のアパートで彼女がお料理作ってワインのディストリビューターが仕事の彼女が選ぶ特別なワインを一緒に飲んで、そんなのわたしの友だちはみんなオカシイって言う。わたしに対してヒドイって言う。そう言ったら「きみの友だちって誰だよ。人それぞれだろ。意見が違うんだよ」ってデイビッドは言った。だから言ってやった。 地下鉄の中で妊婦さんが大きなおなか抱えて立ってたら、誰でも席を譲ってあげるでしょ? あなたは「人それぞれだろ。意見が違うんだよ」って席を譲ってあげないでいる人みたい。意見が違うんじゃなくて、常識の問題なのよ。って。 あなたにつき合ってる女の子がいるって知っててそういうのやめないあなたの ex- ガールフレンドも常識ない頭悪い女。っても言ってやった。 「あたしが嫌だって言ってもやめてくれないの?」「きみが妬く理由なんかカケラもない。きみが僕の生活をコントロール出来る理由もない。だからきみが嫌だって言っても僕は僕の生活を変えない」「そう。じゃああたしもカダーと定期的に会う」「そうしたいからなのか、仕返ししたいからなのか」「そうしたくなんかないけど、あなたがあたしがやめてほしいって言ってもやめてくれないくらい素晴らしいことなのなら、あたしも経験してみたいだけ」「じゃあすれば? 僕だってきみの生活をコントロール出来ない」「あなたなんか大っ嫌い。あたしはあなたが嫌だって言うならしないのに」。 そっからその子どもみたいなケンカがどうなっってったのか覚えてない。突然「きみは僕の奥さんになりたいの?」ってデイビッドが言った。突然じゃなかったのかもしれない。「生活をコントロールする」のところから繋がってたのかもしれない。 わたしは驚いて黙ってた。少し黙ってから答えた。 「あたしはあなたのガールフレンドになりたいの」。 「きみは僕のガールフレンドだよ」。 デイビッドはそう言った。何? 何? 何? ガールフレンドって呼べないってついこのあいだまでそう言ってたじゃない。 「これが恋人同士じゃなけりゃ、一体どういう関係なのさ」。 そうも言った。何言ってんの? それはわたしの質問じゃない。わたしが前に聞いたことじゃない。 素直に「あたしガールフレンドなの?」「あたしたち恋人同士なの?」って喜べばよかった。ほんとにそう思ってくれてないならそんなこと言わないでって言った。それから「キスして」って言った。「大っ嫌いなんだろ?」「大っ嫌いだけどキスして」。 それが仲直りのしるしみたいに、デイビッドはわたしをいつもみたいに抱えて眠った。 週末に会えたなら、聞いて確かめたかった。だけどデイビッドは明日からカリフォルニアに行ってしまう。この天候に我慢出来なくて、あったかいカリフォルニアの友だちのところに突然行くことにしたって。水曜日に帰ってくる。 帰って来てから確かめたって、昨日言ったことなんかもう忘れてる。 忘れてるに決まってる。 - diamond - 2004年01月14日(水) ー13℃。 お昼休み、うきうきしながらオフィスに降りる。ごはんなんか食べてる場合じゃない。ロジャーに叫ぶ。「行こうよ、ローラーブレイド」。「おまえな。どんな寒さかわかってる?」「行こうよー」「今日はパス」「行きたいよー」「寒いんだって」。ロジャーがローラーブレイドに行ってくれないようってフィロミーナに泣きついたら「アンタ、ロジャーを殺したいの?」って言われた。 だからパス。仕方なく。 お昼休みのあとフロアのラウンジの窓から外を見たら、公園は誰もいなくてくやしかった。あんなに空いてれば思いっきりローラーブレイド出来たのに。 うちに帰る途中で雪が降り始める。見る見るうちに積もった。 嬉しくてデイビッドにメールを送った。薄いブルーのバックラウンドにして白でスターキーをいろんな大きさにちりばめて、「Happy snowing!」。 「こんな奇麗な雪を NYシティ で見るのは初めてだよ。この上をスキーで滑ったら最高だろうな」って返事が来たからまた送る。「この上にお砂糖かけて食べたら最高だろうな」。返事は来ない。 明日はタンゴに行く日だけど、雪で行けるんだかどうかわかんない。 昨日電話で「木曜日大雪だって。でもタンゴに行くんだ」って言ったら「そのあと会う?」ってデイビッドは言った。また前みたいにタンゴのあとに会える。でももう、タンゴのあとだけじゃなくなった。 今日 B5 で会った Dr. スターラーに「明日はデイビッド・デーだな」って言われた。「うん。でももう木曜日だけじゃないんだよ」「週末にも会うようになったか」「うん。毎週じゃないけどね」。親指立てて Dr. スターラー は思いっきりにっこり笑ってくれた。それからわたしはドクターに顔を近付けて小声で言った。「スキー旅行に行くんだよ、今月の最後の週」。 デイビッドはもうホテルと飛行機を予約してくれて、昨日は電話しながらインターネットで一緒にリフト券とわたしのレンタル・スキーとブーツを借りた。 神さまの試練。わたしはなぜ神さまが試練を与えなきゃなんないのかわからなかった。ずっとわからなかった。それが神さまの愛だって言われても、理由がわからなかった。それが神さまの計画だと受け入れても、理由がわからなかった。このあいだの日曜日の教会のパスターのお話でわかった。エブラハムとアイザックのところの続きだった。ダイヤモンドとコールに例えた話の続きもしてくれた。 試練の意味も理由も分かったら、すべてのことがクリアになった。 コールがダイアモンドになるまでには、ものすごい高温の炎と熱とはかり知れない圧力を長い長い時間かかる。それと同じことなんだって。神さまは誰にもダイヤモンドになって欲しいんだって。美し輝きを放つ透き通ったダイヤモンドを誰にもプランしてくれてるんだって。だからダイヤモンドになるまでの炎と熱と圧力の試練は避けられないものなんだって。ダイヤモンドになって欲しい。それが神さまの愛だから。だから受け入れなきゃならない。試練に従わなきゃいけない。 パスターはそうは言わなかったけど、わたしはダイヤモンドになるときは天国に行くときなんだと思う。それまでの炎と熱と圧力をかけられた苦しい過程が生きてることなんだと思う。それでもその過程で少しは幸せなことがあって、それはとても大きな幸せに感じるけどダイヤモンドになることに比べたらほんの小さな小さな幸せで、わたしは泣いたり笑ったりしながら少しずつダイヤモンドに近づいてってる。 それほど間違ってなかったじゃんって思う。いつも投げ出さないで、泣きながらでも乗り越えようって頑張って来た。そう思う。去年の自分に比べたら、ずっとダイヤモンドに近づいてると思う。わたしがダイヤモンドみたいに立派になりつつあるんじゃなくて、わたしの人生が、生活が、去年に比べたらきっとキラキラのかけらが見えかけてる。そう思う。 明日はー18℃まで気温が下がるらしい。 雪がカチカチに凍って「運転禁止令」なんか出ませんように。 - おなじ場所に帰る - 2004年01月11日(日) 寒くて寒くて、ローラーブレイドなんかとても出来る気温じゃなかった。 金曜日は外にごはんを食べに行くのすらデイビッドは嫌がって、ヴィエトナミーズのレストランからデリバリーした。―10℃。カリビアンから帰ったばっかりのデイビッドは「なんでこんなとこに住まなきゃいけないんだろ」って本気で鬱いでた。 古いアパートの窓のひとつからは冷たい空気が入り込むから、ブラインドの上からコートやらジャケットやらをたくさんぶら下げて風を塞ぐ。カヤック用のゴムのスーツをバンザイの格好にその上にかけたら、妙にデコラティブでおもしろかった。 土曜日はデイビッドはお昼過ぎまで少しだけ仕事をしたあと、トレーナーの予約を取ってあるワークアウトに出掛けた。わたしはナターシャを散歩に連れ出して、それからグローサリーのお店に遅いランチの買い物に行った。帰って少し経ったらもうデイビッドは戻って来た。「何に決めた?」「リゾット好き?」「I love リゾット」。それからことことリゾットを作る。キッチンの椅子に座って本を読みながら、ときどきお鍋の中をかき回す。「How good do we have to be?」。それはジューイッシュのラバイが書いた本で、でもそんなことわたしには関係なかった。書かれたことは、わたしが神さまを本当の意味で信じるようになるずっと以前に考えてたこととか、ジーザスと出会ってから確信をもって思うようになったこととか、教会でパスターが話してくれることとか、そんなことにとても共通してた。 デイビッドは、今月の最後の週に連れてってくれるスキー旅行を、インターネットであれこれプランしてた。仕事場から何度もわたしを呼んで意見を求める。リゾットがとっくに出来上がってテーブルに並べてからも。 トマトのリゾットしか食べたことないってデイビッドが言うからびっくりした。わたしの一番の得意はトマトのリゾットだけど、レストランじゃトマトのリゾットなんか見たことなくて、わたしが間違ってたんだと思ってたから。だから作ったリゾットはオリーブオイルをたくさん使ったマッシュルームの茶色いリゾットだった。デイビッドは美味しいっておかわりしてたくさん食べてくれた。 夜はわたしはスタジオのサルサ・パーティに行く予定だった。バンドのライブが入るから楽しみにしてた。デイビッドは何も予定がなくて、だから誘ってみたら「行ってみようかな」って言ってくれてた。 だけどサルサは踊れないからやっぱりやめとくよ、って言い出した。サルサ用のドレスに着替えて見せたら、僕のためにはそんな素敵なドレスを着てくれないのにほかの男たちと踊るためか、って言うから、「そうよ」ってくるくるターンする。腰のところで細い赤いリボンを結ぶ水玉もようのドレスが「贈り物みたいだ」ってデイビッドは笑った。 デイビッドの前では殆どつけない口紅を塗ったわたしに、「気をつけて行っておいで、リップスティックさん」って抱きしめて送り出してくれた。 ライブの演奏は素敵だった。ボーカルの女の人が可愛くて、赤いトップと黒いベルベットの脇にうんとスリットが入った膝下丈のスカートにブーツを履いた格好がシンプルでおしゃれで黒い髪によく似合ってて、歌う声がとても素敵だった。踊りながら目が合うたびにボーカリストさんはにっこり笑ってくれた。先生と踊ったチャチャで、ターンのときの首の回し方を先生の真似して踊ったら、ターンを奇麗に見せるコツを掴んだような気がした。ライブのキューバン・サルサはとても長くて、15分くらい踊り続けるのが楽しかった。ルンバもボサノバもみんなとても素敵な演奏だった。オスカーさんとたくさん踊った。 「You guys danced beautifully」って、知らない男の人がオスカーさんとわたしに言ってくれた。ものすごく嬉しかった。 デイビッドのアパートに戻ったらドアはロックされてて、約束の場所に鍵が置いてあった。もしもデイビッドも出掛けたときの場合にってふたりで決めた場所だった。ナターシャを夜のおしっこに連れてって、それからずっと待った。2時になっても帰って来なくて、ひとりでダンス・パーティに行ったこと怒ったのかなって心配になった。「ねえ、デイビッドはどこに行ったの?」ってナターシャに聞きながら、本の続きも集中して読めなくたった。キッチンでチャイを作ってたら帰って来た。2時半を過ぎてた。わたしが出掛ける前に電話で誘われてた弟の友だちのパーティに、たいくつだから行ってみたって。 抱きついたらコートがひやひやに冷たかった。 「楽しかった?」 「まあね。僕も踊ってきたよ。70’Sの音楽だけどね。きみは?」。 当たり前なのに帰ってきてくれたのが嬉しくて、待ってたあいだの不安がこぼれて消えて嬉しくて、チャイがパーフェクトなタイミングで出来上がったのが嬉しくて、ふたりで違うパーティに出掛けたけど、おなじ場所に帰って来てまた一緒に過ごすのが嬉しくて、くっつきまわってくっつきまわっておしゃべりしながら何度も抱きついた。 - ローラーブレイド - 2004年01月08日(木) 買ってから殆ど毎日、お昼休みに病院の向かいの公園でロジャーと一緒にローラーブレイドやってる。キーンと寒い中ブレイドで走るのが楽しくて仕方ない。って、まだ恐くて全然スピード出せないし、ダウンヒルなんかとても出来そうにないけど。 ミーティングがあったから今日はパスした。 その分夜にはタンゴをたくさん踊れた。 久しぶりにロシア系さんと会った。ニューイヤーになって初めての日だったからあんまり人が来なくて先生ともたくさん踊れた。ロシア系さんはわたしを後ろにぽんと蹴って、片足を上げてジャンプするのを教えてくれた。すっごい気に入った。 デイビッドが帰って来る日。 飛行機が遅れると何時になるかわかんないから、今日は会わないことになってた。 うちに帰るとメールが来てた。 毎日ウィンドサーフとカヤックやったって。 陽に焼けてまっ黒になったかな。 こっちは2、3日前から突然気温が下がって、今日は最高気温がー2℃。 「こんなに寒くなっててビックリした?」 って返事に書いたのに、もうメールは来なかった。 くたびれて寝ちゃってんだろうな。 明日会う約束なのに、ちゃんと会えるのかな。 明日はもっと寒くなって最高気温がー5℃だって。ー13℃まで下がるんだって。 土曜日はまだもっと寒いんだって。 病院に置いてあるローラーブレイド、忘れずに車に積んで行こ。 きんきんに寒い中で一緒にローラーブレイドやりたいな。 もうケンカしませんように。 - lessons on faith from Abraham - 2004年01月05日(月) ニューイヤーズ・デーは仕事だった。 着替えの洋服を持ってってたから、デイビッドんちでシャワーを浴びてそのまま仕事に出掛けた。仕事中に二ネットから何度もペイジが入る。夕方電話したら、「うちでパーティしてるからおいでよ」って。二ネットのうちは病院のすぐ近くで、だんなさんとふたりで歩いて迎えに来てくれた。わたしがデイビッドのことを「シリアスじゃないんだ。彼によれば」って例のごとく言ってたから、だんなさんの友だちのシングル・ガイを紹介された。悪いけどとても好みじゃなかった。 11時頃にはうちに帰った。 2日も仕事。仕事のあとデイビッドにまた会いに行く約束だった。デイビッドは日曜日からナントカってカリビアンの島に、短い休暇に行っちゃうから。 チベットのレストランでごはんを食べて、ふたりとも眠たくて11時にはベッドに入る。そしておしゃべりしてるうちにまたデイビッドの心ない言葉からケンカになった。わたしは嫌ったなんだから。日本人だからとか日本人なのにとか、日本人でもなくて日本人のことなんかよく知りもしない人からそういうふうに言われるのがたまらなく嫌なんだから。何度言ってもデイビッドにはわからない。わたしが嫌だって知ってるくせにやめてくれない。「きみはセンシティブなんだよ」ってデイビッドは言う。「そうよ。多分センシティブよ。だけどそれならあなたは way too インセンシティブじゃない」。 そうやって罵り合って傷つけ合って、エスカレートしてもっともっと傷つけ合って、わたしはデイビッドのほっぺたを引っぱたいてベッドルームの階段を駆け降りてデイビッドが追いかけて来て、もっともっともっと傷つけ合って、そのうち段々落ち着いてって、落ち着いてって、リビングルームのカウチに座って長いこと長いことたくさんのことを話し合った。 こんなにケンカばっかりして、わたしたちは少しずつでも近づいてるんだろうか。ケンカするたびにお互いをもっと知り合えるようになってても、それは何を意味してるんだろう。シリアスにならずに一緒にいられることが僕にとっては楽しかった。だけどシリアスに考えなきゃいけないって今思い始めてる。ちゃんと考えなきゃいけないんだろうな。ちゃんと考えるよ。デイビッドはそう言った。 日曜日の教会は、エブラハムとアイザックのところだった。旧約聖書は相変わらず胸がワクワクする。15年待って、やっと神さまからの計画通りにアイザックを授かったエブラハム。どこまでも掘って掘って手に入れたコールをどこまでもどこまでも磨いて磨いてその奥の奥からダイヤモンドが見つかる。エブラハムのアイザックもおなじ。神さまは誰にも光輝くダイヤモンドを計画してくれてる。神さまは教えてはくれない。どれだけ待てばいいのか。だけど必ずダイヤモンドは見つかる。 ちゃんと考えて出すデイビッドの答えはいったい何なんだろう? わかんないけど、どんな答えであっても多分わたしは平気な気がする。それも神さまのプランだから。それがダイヤモンドじゃなくても。そう思いながらもわたしはどこかで信じてる。多分そんなに時間はかかんなくて、それはそんなに悪い答えじゃないんじゃないかって。 明日デイビッドが帰ってくる。 - ニューイヤーズ・イヴまで - 2004年01月04日(日) 12月25日木曜日。 デイビッドんちで着替えようと思ってたのに、アパートに着いて電話をしたら「そこで待ってて、すぐ行くから」。黒いドレスのまま靴だけ履き替えた妙な格好で、ナターシャと一緒に出て来たデイビッドに駆け寄った。「ねえ、ローラーブレイド買ったんだ。持ってっていい?」「向こうは雨だよ。出来ないよ」。あっさり却下されてガッカリ。 クリスマスってこと忘れてて、途中で買い出しするつもりだったのがお店はコンビニ以外全部お休み。仕方なくコンビニでパスタとグリーンピーズ缶と卵とシリアルとミルクとイングリッシュ・マフィンとジュースとアイスクリームを買う。ドリトスの大きな袋とブルーベリーマフィンをレジに並ぶデイビッドに持ってったら呆れられた。コンビニのフェイク・マフィンなんか食べられないって言いながら、「ドリトスはウマイから許す」だって。 ドリトスぽりぽり食べながらスタートレックのビデオを何本も観たあと眠る。ツインの片方のベッドに、くっついて眠った。 遅い朝ごはんはデイビッドが作ってくれた。イングリッシュ・マフィンとオーバーイージーのたまごとシリアル。コーヒーはわたしが挽いて湧かす。 ビーチに行った。びゅううびゅう風の吹くなか、だるまみたいに着込んで歩いた。夏は立ち入り禁止のリザーブ地帯にも行った。ナターシャが嬉しくて駆け回る。 晩ごはんはわたしが作った。熱したオリーブオイルとガーリックだけをゆでたパスタに絡めて、フリーザーにあったソーセージを茹でてグリーンピーズをマイクロウェイブであっためて、ピクルスを添えただけの。パスタが部分的にカリカリになってるのが美味しいって褒めてもらう。 またスタートレックと、ナントカってウルトラマンみたいのが出てくるラブコメディの映画と、なぜかおうちにあった津波の映画を観て眠った。 12月26日金曜日。 明け方胃が痛くて目が覚める。デイビッドに気づかれないようにベッドルームを出て、リビングルームのカウチにうずくまってた。ちょっと楽になって時計を見たら8時だった。携帯で病院に電話する。「今日病欠します」。「仮病使うとホントに病気になるんだよ」ってデイビッドが言ってたとおりになっちゃった。だから仮病のコールインもちょっとだけ罪悪感が薄れる。ベッドルームに戻ってデイビッドの腕の中に滑り込んでもう一度眠った。 また遅い朝ごはんを、わたしが作る。冷蔵庫に残ってたパンケーキ・ミックスで。ナターシャの分を犬の顔の形に焼いた。「どこが犬?」って言われた。 自転車に乗ってビーチに行く。一緒に走り続けるナターシャを見て、「またあんなに走れるようになるなんて思ってもいなかったよ」ってデイビッドは言う。うちに戻ってからピンポンの台を広いダイニングルームに広げてゲームした。夏にしようって言って忘れてたから。負けた。手抜きされたのに。 NY に向かって出発。帰りの車でケンカする。それでも仲直りして、クリントン・プレミアムのアウトレットモールに寄る。コールハーンで靴を買ってもらっちゃった。クリスマス・プレゼントだよって。ウォータープルーフの黒い皮のショートブーツ。クリスマス・プレゼントなんか期待してなかった。嬉しくて抱きついた。デイビッドのアパートに戻ってまた一緒に寝る。眠りかけたときにまたケンカした。 12月27日土曜日。 わたしは仕事。週末のシフトが入ってなければ日曜日まで一緒にロードアイランドで過ごせたのに。冬のロードアイランド。雨は降らなかった。何もしなかったけど素敵なクリスマスになった。 仕事が終わってから、ロジャーとジェニーと教会仲間のマイクと4人でアイススケートに行く。セントラルパークのスケートリンクは入るのを待つ人の長い行列で、諦めてマイクの車でニューロックに行く。初めての自分のスケート靴。「似合うじゃん」ってロジャーが言ってくれた。11時のクローズまで滑る。マイクと一緒にダンスしながら滑ったのが楽しかった。転びそうになるとマイクがわたしをスピンして、だから転びそうになったことも誤魔化せた。だけど悲鳴が響き渡ってたってあとからロジャーとジェニーに笑われる。 うちに帰ったらデイビッドが電話をくれた。仲直りの確認みたいな電話。 12月28日日曜日。 今日も仕事。夜、ジェニーが電話をくれる。ウィンター・リトリートの締め切りが明日だから。行かないことに決める。たくさんおしゃべりした。デイビッドとのケンカのこと。それからオスカーさんのこと。「right person って思ったんだ」って言ったら、そんなふうに思うのはやめなって言われた。わたしをガールフレンドって呼べないデイビッドに見切りを付けてバイして、わたしをガールフレンドにしたいって言ってくれるオスカーさんに乗り換える。正直言うとそんなことちょっと思ったりもしてた。「それはフェアじゃないよ、デイビッドにとってもアンタにとってもオスカーさんにとっても」。何かがすっと吹っ切れた。 12月29日月曜日。 カダーが電話をして来て会おうって言う。疲れてるからって断った。 9月の初めに貸してあげた500ドル、まだ返してくれない。2週間後に返すって言ったくせに。 12月30日火曜日。 日曜日の出勤の代休。ジョセフから電話。カリフォルニアの友だちが遊びに来てて、3時にリトル・イタリーでごはんを食べるからって誘ってくれた。お昼のあいだに済ませなきゃいけない用があったけど、説得されて行くことになった。6時頃には帰って来て、デイビッドに電話する。「今日会いたいな」。デイビッドは明日までに終わらせなきゃいけない仕事があるから明日の夜にしようって言う。「明日はあたし、ニューイヤーズ・イヴのダンス・パーティに行くんだよ」「パーティ終わってからおいでよ」「パーティは朝までだよ。途中で抜けてこうか。何時まで起きてる?」「1時とか2時?」「じゃあ1時半頃行く」。 それからルーズベルト・フィールドに、大家さんへのクリスマス・プレゼントを買いに行った。去年と同じお店で素敵な碧絵のお皿4枚。そしてブルーミンデールで日本風のコーヒーマグをふたつ買った。クリントン・プレミアムのアウトレット・モールで紺のブレザーを買ったデイビッドによく合うタイを選んでわたしからのクリスマス・プレゼントにしたけど、コーヒーマグは前からクリスマス・プレゼントに決めてた。クリスマスとっくに終わって「クリスマス・プレゼント」もないけど。 奇麗にラッピングしてニューイヤーのカードを書いて、2階の大家さんちに持ってく。とても気に入ってくれた。 あの人からハッピーニューイヤーの電話がある。 12月31日水曜日。 今日も仕事。終わってから急いで帰って、パーティの支度をする。 車でデイビッドのアパートの前まで行って、そこから地下鉄でビレッジまで行った。オスカーさんと待ち合わせてた。ジーンもほかのダンス仲間も来た。教会のリックにもばったり会って驚いた。すごい人で足踏まれるしドレスにワインこぼされるし散々だったけどパーティは楽しかった。サルサもタンゴも思いっきり踊った。クラブダンスもやった。ジャイブがどうしても苦手で、上手く踊れなかったけど。 カウントダウンのあとの乾杯をしてみんなで抱き合ってニューイヤーをお祝い。1時になってからひとりで抜け出した。 遅れるかなって思ったけど、地下鉄は速かった。 地下鉄を降りて3ブロック歩く。交差点の向こうに停めてた車のトランクを開けて、着替えとコーヒーマグのプレゼントを入れたバックを取り出して、交差点を渡って戻ろうとしたら角のビルに背をもたれて立ってる人がこっちを見てた。来たときには気づかなかった。 目を凝らして見る。 急いで交差点を渡る。 「なんでこんなとこに立ってるの?」 目がパチクリしてたと思う。 「ハッピーニューイヤー」。 デイビッドは大きな腕の中にわたしをすっぽりくるんで抱きしめた。ほっぺたが冷たかった。くちびるがあったかかった。 - みんな壊れた天使 - 2004年01月03日(土) 12月18日木曜日。 ショーを終えて約束のカフェにやって来たデイビッドがカフェのガラス越しにわたしを手招きした。ショーは終わったけどこれから最後の挨拶に出なきゃいけないって言うから、ふたりで会場に急ぐ。楽屋は舞台衣装を着た人たちがたくさんいて、デイビッドを待ってるわたしがなぜか緊張してた。挨拶を終えて楽屋に戻って来たデイビッドは、出演者の人たちからとても素敵な賞賛の言葉を貰ってた。それはほんとに胸の熱くなる言葉で、少しはにかんだ口もとと少し紅潮した頬とキラキラ輝く目で食い入るように聞いてるデイビッドを見ながら、わたしは誇らしかった。 カフェに戻って食事をしながら、デイビッドはもらった言葉をわたしに確かめるように繰り返す。あんなに自信のある人のはずなのに、まるで壊れた天使のように、予想もしなかった賞賛の言葉を噛み締めてる。デイビッドにとって特別になった日。そして、壊れた天使を見つけたわたしの特別な日。 12月19日金曜日。 病院のクリスマス・パーティ。ジェニーを誘って、まるでジェニーのための同窓会。「クークー」「ナット」ってさんざんエドにからかわれながら、また踊りまくる。「アンタその格好で今日仕事したの?」って、一旦うちに帰って着替えて来たラヒラに言われた。白衣のボタン上から下まできちっと留めて、ちゃんと隠してたから。今年もまたドアプライズ当たっちゃった。男物のウォレット。ちょっと大きすぎてデイビッドも使いそうにない。帰るときにジェニーがクリスマス・プレゼントくれた。大きなテディベア。嬉しかった。 12月20日土曜日。 教会仲間のクリスマス・パーティをパスして、スタジオのクリスマス・ダンスパーティに行く。オスカーさんと待ち合わせてパーティの前にメキシカンの食事。オスカーさんはビーフステーキのファヒータを注文する。この前のタイフードもビーフ食べてた。ビーフが好きなんて健康志向に欠けてるんじゃないの? ってちょっとウンザリしてしまう。って言いながらわたしもビーフステーキのファヒータ食べた。おいしかった。パーティは楽しかった。殆どオスカーさんと踊ってた。 12月21日日曜日。 約束通り、オスカーさんとリバーサイド教会のキャンドルライティングとキャロリングのフェスティバルに出掛ける。プロテスタントなのに大きな美しい教会だった。吹き抜けの高い高い天井近くの壁に端から端まで彫り抜いてあるたくさんのクロスを見ながら、失くした銀の指輪を思い出してた。おんなじような形のクロスをいくつもくり抜いた3連の指輪。教会はわたしにとって厳かな場所でも崇高な場所でもなくなった。あんなに立派な教会の中でさえほっとする居心地良さを感じるのが不思議だった。 たくさん歌を聞いてたくさん歌を唱った。「O Holy Night」と「Hark! The Herald Angels Sing」がとても好き。気持ちよかった。 12月22日月曜日。 明日の病院の部内のランチ・クリスマス・パーティに作ってくお料理の材料の買い出し。プラス、グラブ・ギフトのお買い物。わたしの相手はポーリンで、いつもオフィスでスタイロフォームのカップでお茶を飲んでるポーリンにはマグがいいっていうロジャーの案を採用して、白い砂模様の奇麗なマグを購入。規定の予算よりかなり安かったけどカードをつけるからいいかってことにする。みんなカードはつけるんだけど。 お料理はベジタリアンのパンフライ・ヌードルにする。2回に分けてたっぷり作った。 デイビッドから電話。クリスマスにロードアイランドに置いてあるスキーを取りに行くっていう。クリスマスは一緒に過ごすことになってた。「行く行く行く!」「翌日休暇取れる?」「取れない。でもコールインする」。クリスマス・イヴの夜から出発することになる。イヴは自分の教会のミサに行ったあと、11時からオスカーさんとオールソウルの教会にミッドナイト・ミサに行くことになってた。でもミッドナイト・ミサはパス。 12月23日火曜日。 ポーリンはマグをとても喜んでくれた。わたしはマリーから黒のシルクのスカーフをもらう。仕事が終わってからロジャーにつき合ってもらって、ローラーブレイドとアイススケートを買いに行った。セールしてたのとジュニアのサイズがぴったり合ったのとで、両方で税込みで90ドルちょっとで買えた。ラッキー。自分へのクリスマス・プレゼント。 帰ったらあの人から留守電が入ってた。「メリークリスマス」。ちょっと淋しそうな声だった。 オスカーさんに明日のミッドナイト・ミサに行けなくなったことを書いてメールする。電話で返事が来た。ものすごくがっかりしてた。クリスマス・プレゼントも用意して翌日のクリスマス・デーにはアイススケートにサプライズで誘おうと思ってたのにって。「『友だち』と行くの?」「そう」。デイビッドのこと。ごめんなさいって何度も謝った。デイビッドと旅行に行くことじゃなくて、ミッドナイト・ミサに行けなくなったこと。わたしも楽しみにしてたけど、やっぱりわたしはデイビッドを選ぶ。 12月24日水曜日。 朝、別れた夫から電話。声が明るかった。最後に話したのいつだったろ。結婚記念日の日? あれからメールを送ったけど返事がなかった。メールで聞いてたコンピューターのことを答えてくれた。ソフトを送るから住所をもう一度教えてほしいって言ってた。「今朝ね、いいことがあったの。別れただんなからメリークリスマスの電話があったんだ」。お昼休みにみんなに話したら、「別れただんなさんにまだそういう感情があるの?」ってサマンサに言われた。「そうじゃなくて」。いい。わかんなくていい。わたしは嬉しかったんだ。 仕事が終わってから自分の教会のクリスマス・ミサに行く。あったかいミサだった。ジーザスが生まれた日。実際にはほんとうに生まれた日ではないらしい。デイビッドに言われて初めて知った。それは太陽の光が地球に当たる時間が一番短い日が終わって、光が延びる最初の日。神さまの光が暗闇を照らす時間が長くなる始まりの日。それをジーザスの誕生の日とされた。このあいだオスカーさんが教えてくれた。キャンドルの灯を移し合って、小さなひとつの光がひとりひとの手の中で灯されて教会中に広がった。ゆらゆら揺れる灯たちの中で唱った「O Holy Night」。「クリスマスをどうして避けられる? ジーザスを信じてなくても、それがほんとはジーザスの生まれた日でなくても。世界中が西暦を使ってるだろ? 信仰に関係なくクリスマスは西暦の始まりなんだから」。クリスマスをお祝いしないはずのデイビッドがそう言ってくれたのが嬉しかった。それでもクリスマスをいままでみたいに受け止めなかったのは、ほんとうのクリスマスの意味を知ったからだと思う。 黒いドレスのままでデイビッドのアパートに急ぐ。 -
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